第34話 『アフター・グロー』
「話は聞かせてもらった。私もギルドに入る」
「お断りします。お兄様に悪影響なので」
「言うようになったねエタニティ。昔はもっと素直だったのに」
「主に貴女とふぉーりなーのせいですからね?」
「えっ、ふぉーりーと同列なの、私」
「悪影響具合ではどっこいです。お帰りはあちらですよカンナさん」
俺たちがクエストに行っている間にログインしていたカンナに、ギルドを作ることを伝えたところ、ものの数分で駆けつけてきた。そして今の状況になった。
カンナはギルドに入りたい。
エタニティはそれを拒否したい。
ユークリッド、ヤミ、卯月らは状況が呑み込めていない。
ヨルは新たな残光持ちの到来に目を輝かせている。
そして俺は2人の仲裁をしなければならない。一応お飾りでもギルマスである。
「あー妹よ。俺としてはカンナはぜひとも入ってほしい戦力なんだが。というか、よく彼女がえび転だと分かったな、見た目全く違うのに」
「だってリアルの彼女もこんな感じじゃないですか。リアルの方だと、もうちょっと大人しい恰好してたと思いますけれど」
「……お前会ったことあるの? オフ会呼んでないのに?」
「ええ……何度かお茶を」
「良い妹さんだよセツナ。お兄さん思いで、頑張り屋で」
「からかわないでください」
意外なところで繋がりがあったらしい。しかしそれよりは今の加入の是非だ。
「へえ……3人目。引かれ合うものなのかな?」
「ほら、またヨルちゃんが意味深モードに入ってる」
「ほっとけユークリッド。多分そういう生態なんだろう」
「だんだんとボクの扱いが雑になってきてるね。泣くよ?」
よよよと泣き真似をするヨル。
俺が無視していると、ヤミに抱き着きに行った。
撫でられてご満悦といった表情。竜の誇りとかそういうのは無いのか。
「うわあ、ちっちゃいかわいい、どこで拾ってきたのセツナ」
「地下鉱床のボス部屋。何かしらの重要クエスト関連らしいが、現状は意味ありげな事と、特に意味のない事を同じように勿体ぶって話すふぉーりなーの類似品」
「ああそういう感じ……」
途端にカンナの表情が歪む。一瞬前までの笑顔との落差が凄い。
「さっきの発言といい、今のといい、ボクはどんな人と比較されてるの」
「大事な事と、どうでもいい事と、しょうもない嘘で発言が三分割された上で、だいたい酔っぱらってるから発言に信憑性がない女」
「そんな竜みたいな女本当にいるの……?」
「勿体ぶるのを竜という種族全体のせいにしやがったぞこいつ」
すごいぞふぉーりなー。いつの間にか上位生物の仲間入りだ。
という冗談はさておき、カンナの加入についてである。
「一応ギルドマスターは俺だ。カンナの加入の是非については、俺の一存を使わせてもらいたい。俺は彼女に加わってほしい」
「ぐぬぬ……仕方ありません。お兄様がそこまで言うのであれば」
「ふふん」
勝ち誇ったような顔をするカンナと、歯噛みするエタニティ。
何故うちの妹が、こんなにカンナを目の敵にしているのかが分からない。
「セツナさん、ゴドーさんたちと連絡取れました! すぐ来るそうです!」
「そうか。善い返事が聞けると良いが」
「あら、随分とギルドマスターが板についたような発言ですね、お兄様」
「うっさい。形から入るのも大事なんだよ」
過去に見た目にそぐわない言動を繰り返していたこともあり、それなりに立ち居振る舞いには気を付けるようになった。ギルドマスターなんてガラではないが、なってしまったからには努めなければならない。
それから間もなく、ゴドーとバレット、ミリンの3人が合流する。残光を持つバレットを見たヨルの目が輝いたのは、言うまでもない。
「まさかこれだけの縁から、4つもの残光に触れられるなんてね。君は本当に何かを持っているような気がしてきたよ、セツナ」
「はいはい、バレットとかに遊んでもらってきなさい」
「何この子可愛い過ぎない? 持って帰っていい、セツナさん?」
「一応うちのギルドのマスコットだからダメ」
「じゃあ私とミリンがギルド入る。1日1回は撫でまわしても良い?」
「交渉成立だ。ようこそ我がギルドへ」
「流れるようにボクがマスコットにされて、権利が売られたんだけど」
「当然の如く私の進退が決められたよ!?」
バレットとミリン確保。後はゴドーだけだ。
ヨルが後ろでわあわあと何かを訴えているが可愛いので無視する。
「改めてどういう状況なんだこれは?」
「なんか流れでギルドを作ることになった。そこのちびっ子ドラゴンはギルド地下のダンジョンで拾った。エタニティとユークリッドは有名人。OK?」
「OKな要素が欠片もない……」
ゴドーが頭痛に襲われているが、これが全部今日1日で起こった事のハイライトなのだから、仕方がない。
「お兄様、こういった説明はきちんとすべきです。1日も経たずして、ギルドマスターらしからぬ適当さになっていますよ」
「本当に『凶剣』じゃないか……で、彼女のお兄様ってことは」
「……まあ、お察しの通りだ」
「……いや、『拳神』とほぼ対等につるんでる時点で、あのギルドの誰かだとは思っていたが……そうか、あの少年がなぁ」
「……覚えてないのが申し訳ないんだけど、以前の俺が何かしたか……?」
「いや、一度決闘をしたくらいだ。俺が勝ったがな。あまり行儀の良いプレイヤーではなかったが、筋は良かった記憶がある」
「負けてたかぁ……」
多分ごく普通に負けたのだろう。銀星を相手にした時のように、あまりに酷い負けっぷりなら忘れるはずがなかったから。
「あとは最終日の『武神闘宴』だな、あれは見事だった」
「アレもあって、なるべく目立たないようにと名前も変えたんだけどさ……」
「なあに、お前さんの腕ならいずれはバレていただろう。そりゃあ大剣の扱いが上手いはずだよな、あの『剣神』なら」
なんだか物凄く照れ臭くなってきた。
『四神連合』の身内以外で、これだけクロエを褒められたことがなかったから。
顔が赤くなっていないことを祈りつつ、話を続ける。
「まあ俺の話はいいんだ。で、どうだろう。ゴドーが入ってくれると、俺としてはすごく心強いんだけど……」
「ぶっちゃけると、俺はお前さんとこの『槍神』や『城砦騎士』みたいな盾はできねえ。あいつらは俺から見ても滅茶苦茶に上手かった。それを基準に考えているのなら、俺では荷が重いぞ」
「それでもだ」
「何故」
「この世界で初めてパーティを組んだのはカンナだけど、初めて俺をパーティに誘ってくれたのはあんただからだ、ゴドー」
ゴドーは完全に面食らった顔をしている。それもそうだろう。
しかしこれは偽らざる気持ち。
デザバス時代に俺をパーティに誘おうなんてプレイヤーはいなかった。『悪童』時代は言うまでもなく、『四神連合』に入ってからも、身内でのパーティプレイこそあったが、他のプレイヤーに誘われることはなかった。
だからカンナのオマケくらいの扱いだったとしても、誘われたというそれだけで嬉しかったんだ。
「なんだよそれ。くだらねえな」
「それくらい誰かと遊ぶことに焦がれてた、と言ってもいい」
「はあ……そんな小学生みたいな理屈で誘われたのは初めてだ」
「ダメか?」
「こんなガキほっとけねえと思わせるには十分だよ」
その後、俺たちは冒険者ギルドに1枚の申請書を提出した。
ギルド名は、実力派に相応しい名前が必要だ、とヨルに言われたので各々頭を捻ったが、上手い名前が出てこなかったため、非常に安直。
『アフター・グロー』。
残光を意味する名前が、プレイヤーズギルドの一覧に書き加えられた。




