第33話 ギルドを作る
「かわいい~! ヨルちゃんほっぺたぷにぷに~!」
「あぅ……頬は良いけど角はダメだよ。翼と尻尾も切れちゃうから危ない」
「なんでギルド地下のダンジョンにこんなちびっこドラゴン娘が!? デザネクからの新規サイドイベントか!?」
「この時点で加入できるレベル20NPCってだけでも破格じゃん? それがこんな可愛い子なら猶更でしょ、ちょっと地下潜るわ」
「『集いし星』のパーティメンバー募集多すぎだろ……合併して行けよ」
「キングボア狩りのクエストぜんっぜん人集まらねえんだけど!? 牙あと1本で武器作れるってのに!」
冒険者ギルドに戻り、クエスト達成を報告したところまでは良かった。
案の定、連れ帰ったヨルが他プレイヤーの注目の的になり、ギルド内は狂乱の渦に叩き込まれた。
「どうするんですかお兄様。この30分ほどだけで、クエスト出発前に受けた加入申請の数倍以上の申請が届いていますけど。わたくしの営業スマイルももう品切れしそうです」
「まだギルド自体立ち上げてないのにこれだもんねぇ……確かにヨルちゃんが可愛いのは確かだけどさ~」
「引き抜きかけられてないだけマシだと思うっすよ、今後もいないとは限らないんで、注意しとくに越したことはないかと」
「ただいま……もみくちゃにされた……」
よろよろとヨルがこちらに戻ってくる。
流石に数十人単位のプレイヤーに囲まれるのは疲れたらしい。
「お疲れ、竜様のお眼鏡に適う奴はいたかい?」
「うーん……セツナやユークリッドみたいなのは居なかった。エタニティくらい練られた人もほとんどいない。闇食みや卯月くらいのは一杯いたけど、どいつもこいつも目が気に食わない、ってところかな」
「うーん厳しい審査員」
ヨルの講評を聞いてヤミと卯月の顔色が悪くなる。明らかに一段落ちると評されたのだから無理もないことではあるが。
「もっと私たちも頑張らないとね卯月……」
「その他の十把一絡げだもんな……」
「お、落ち込む必要はないよ。その向上心が君たちを強くする。そもそもボクから見ればセツナ達も含めて君たちの差はそこまで大きくないし」
そんな2人を見かねたのか、ヨルが慌ててフォローを入れる。しかし後半が明らかに上位存在の物言いである。本当にレベル20なのかが疑わしい。
「なあヨル」
「なんだいセツナ?」
「お前本当にレベル20?」
「違うけど?」
当然のことのように言いきった。案の定、先ほどのコマンド操作でシステムへの介入を行っていたらしい。
本当に彼女が、このゲームに規定されたAIなのか疑わしくなってきた。
「いやいやいや……」
「このくらいなら、バレないかなって」
「バレるって、誰に?」
「禁則事項だね」
ヨルはいたずらっぽく笑い、唇に人差し指を当てる。
「またそれか……それは例のグランドクエスト周りの?」
「いいや、これはまた別。今となってはボクの個人的な事情だよ」
「いずれ教えてくれるようなことか?」
「セツナが番になってくれる覚悟があるなら、今すぐにでも」
「だんだん分かってきたけど、お前割と適当に喋ってるよな」
「バレた? 年長者の戯れだよ。だからエタニティはその剣をしまおうね」
背後にエタニティが恐ろしい笑顔で立っていた。右手には先ほどのMVP報酬である長剣が握られている。無言で大上段に構えようとしないで欲しい。
「ヨルさん。少し距離が近いのでは? お兄様も困ってしまいます」
「ちょっとした冗談だよ。気を悪くしたのならごめんね」
「ヨルちゃんはもうちょっとセーフラインを見極めようね?」
「あう……ぜ、善処するよ……」
ユークリッドに軽くげんこつを喰らっていた。わざとらしく頭を押さえているが、ここは街中なのでダメージは無い。
「ふぅ……まあいいでしょう。それでお兄様、どうします?」
「どうしますって、何を」
「ギルドですよギルド。わたくしとしては、お兄様がギルドマスターになるのが、一番丸いと思うのですけど」
「断る。そもそもお前がギルドを作りたいって話だったじゃないか」
即答で断る。ギルドマスターなんてガラではない。
俺の知っているギルドマスターの例が、完璧超人の銀星だから猶更だ。
「ですが一度考えてもみてくださいお兄様。このわたくしにギルドの運営なんてできるとお思いですか?」
「運営と言っても予定決めたり、狩りの主導するだけだろ」
「予定を決めるだけならともかく、わたくしに戦闘方面を任せると、基本的に突撃以外の選択肢はありませんよ」
「自覚あるなら直せよ……」
「そもそもわたくしを、お兄様より上の立場に置くことが間違いだと思うのです」
「いよいよ暴論になってきたな……」
この言い方から察するに、元々俺をギルマスにする予定だったらしい。しかしこればっかりは妹の頼みといえど聞けない。
そもそも、無名プレイヤーの俺に、有名プレイヤーだったエタニティが付き従っているという絵面の時点で絶対に目立つ。
「ボクはセツナがこのパーティのリーダーだと思っていたけど、違うの?」
「そんな事実はない。そもそもパーティの募集主はエタニティだ」
「えっ、そうだったの。ぼくもセツナがお兄さんだからそっちがリーダーかと……」
「わ、私もてっきりセツナさんだと」
「俺も右に同じっす」
「ええ……?」
思ったよりパーティの面々が節穴だった。
というかユークリッドに至っては、パーティ組んだ現場にいたのにあんまりだ。
「ほら! みなさんお兄様がリーダーであることに疑問を抱いていません!」
「……はぁ、お飾りのギルマスで良いならやってやる。その代わり実務はお前がやれ。これだけは譲らん」
「ええ、ええ。それで問題ありませんわお兄様。では今から早速2人でのギルド結成を申請に行きましょう!」
「おう待てポンコツ妹、手伝ってくれた3人にまず礼をしろ。その辺をなあなあにするのは兄として許さん」
「う……この度は私のわがままにお付き合いくださり、ありがとうございました」
「こんな流れで言うのもなんだが、もしギルドに入りたいのなら俺は歓迎する。俺たち5人で勝ち取ったギルドクリスタルだからな」
正直な話、ヨルの件でユークリッドには相談相手としていて欲しい。
ヤミと卯月も、磨けば光る物を感じている。
本音を言えば、全員に手を取ってほしい。
「じゃあぼくはお邪魔させてもらおうかな。……ヨルちゃんの件もあるし」
「私はどうしよう……卯月は?」
「……俺は、入りたいです。セツナさんやエタニティさんの強さに憧れて、って理由じゃ弱いですかね……?」
「じゃあ私も。後でバレット達にも声かけていい?」
「ああ……。ありがとう、みんな」
「ボクも入るよ。セツナにはしっかり働いてもらわないと」
「仕方ねえなあ……」
少し、目の奥が熱くなっていた。




