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Desire Verse Online Next ~悪童と呼ばれた剣神、次の世界では悪目立ちせずに過ごしたい~  作者: 廿楽
第二章 『アフター・グロー』

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第32話 竜の少女

 ボス部屋の奥、砕けた鉱物が散乱する開けた空間に、その少女はいた。

 体格は小学校低学年程度、後頭部から2本の捻じれた角が生えている。背中には一対の金属質の黒翼。先端が刃状になった尻尾もある。


「竜……だな」

「何の種類かはともかく、間違いないかと」

「ちっちゃ……かわいい」

「ボス? これボスなんです?」

「寝てる間に逃げよう。マナ枯渇2人に武器ロスト1人、リスクしかない」


 まず、この場所にプレイヤーが寝ているとは考えづらい。ヘビーリザードに襲われていないことからも、敵対の対象ではないと考えるのが筋。

 何らかのイベントのフラグか、シンプルなボス戦2体目なのか、現時点での判断が非常に難しい。それにしてもよく寝ている。


「……ちょっと起こすか」

「……お兄様?」

「お前らは扉の前で待機。やばそうだったら即行逃げる」

「気を付けてよ……?」


 俺以外の面々は、部屋の扉の手前へと下がる。対して俺は、寝ている少女にゆっくりと近付いていく。上から見下ろすくらいの距離まで近付いても、まったく起きる気配がない。口の端からよだれが垂れていた。


 ぶに。

 指先で彼女の頬をつつく。柔らかい。

 少女の表情が少し歪むが、まだ起きそうにない。


 カン、カン。

 捻じれた角の片方を軽く叩く。澄んだ良い音がする。

 小さい頃に鳴らしたことがある、石琴(せっきん)に近い音。


「んあ……ぅう?」


 薄く目が開かれた。まだ何が起きたかを把握しきれていない様子。


「よう、起きたか」

「……だれ?」


 目を擦りながらむくりと体を起こす少女。翼で見えづらかったが、ボロボロになった黒のネグリジェのような物を身に纏っている。


「俺はセツナ、冒険者だ。君は竜か?」

「ぼうけんしゃ……いじめる?」

「君が俺たちをいじめないなら、考えるさ」

「いじめない。竜は弱き命をいじめない」

「そりゃありがたいことで。名前は……あん?」


 繝ィ繝ォ繝?Φ繧ャ繝ウ繝峨?蟄舌?鮟帝延縲?Ξ繝吶Ν?抵シ暦シ?


 名前の表示がおかしい。

 プレイヤーやNPC、敵エネミーに至るまであらゆる存在は、頭上に名前が表示されている。そして設定されているならその横にレベルも。

 しかし彼女の名前とレベルは文字化けを起こしている。


「ボクは……蟲を喰らう世界の子。推察の通り、竜」

「竜が昆虫食の生態とは知らんかった……。しかしこれでは、君を何と呼べばいいか分からんな」

「あれ。思ったよりも損傷がひどい? 少し待って」


 彼女は慣れた手つきでコマンド操作を行う。この時点で既におかしい。

 通常、NPCがコマンド操作を行うことはない。彼女たちはAIによって行動が規定されており、プレイヤーのようにコマンドの操作権限を持っていなかったはず。

 しかし彼女は、涼し気な表情で左手のタイピングを走らせると、徐々に名前の文字化けが解けていく。


 ヨル レベル20


「これくらいでいい。読める?」

「あ、ああ。ヨル、って言うんだな」

「そう。ところでセツナは、なんでここに?」


 竜の少女、ヨルは足元に散らばる鉱石の欠片を拾い、口に含む。凄まじい咀嚼音の後にこくり、と飲み込んだ。昆虫食じゃないじゃん。


「ギルドクリスタルってのを取りに来る依頼でな。君が今拾い食いしたやつ」

「あっ……ごめん、お腹すいてて」

「いやいいよ、さっきトカゲ倒したら貰えたし」

「……ふーん。やっぱり残光を持ってるだけあって強いんだ」


 事もなげに言うヨルだが、その言葉を聞いて俺は即座に臨戦態勢を取る。

 少なくとも彼女が起きている間にそれを喋った記憶も使った記憶もない。


「身構えなくてもいい。ある程度の目があればわかること」

「……ヨルは、冒険者の敵、なのか?」

「ボクの敵は世界の敵。君たちは比較的どっちでもいい」

「左様で……仮にさっき寝てる間に攻撃してたら?」

「うーん、多分皆殺し?」


 ギリギリセーフ。つつくくらいに留めておいて良かった。


「でもセツナは別。責任を取るべき」

「え?」

「竜の角はデリケート。他人に触らせるところではない」

「あ、いや、その……すまん」

「ボクは比較的理性的だから、(ツガイ)になれとは言わないけど。代わりに、今後しばらくの間、ボクの耳目(じもく)になって貰う」


 彼女はよっこらせ、と立ち上がり、俺の手を取る。

 そしてそのまま、俺の手に齧りついた。


「いってぇ!?」

「よし、セツナの血は覚えた。じゃあ行こうか」

「行こうかって……ついてくるつもりか?」

「ボクが目覚めたということは、そうすべき理由ができたということ。グランドクエストの進行率が足りてないから、教えてはあげられないけど」


 詳細を教えてくれるつもりはないらしい。それにしてもまたグランドクエスト。

『癒神』のユークリッドといい、このヨルといい、何かしらプレイヤーに公開されていない情報を握っている。


「なあ、グランドクエストってのが何なのかは、教えてくれないのか?」

「禁則事項。六大神よりも上の神様が設定した、世界の試練」


 単純に考えれば、『Desire Verse Online Next』そのものに設定されたクエストのことなのだろう。だが、『Desire Verse Online』時代にそのようなものはなかった。

 

 4大陸の存亡を賭けた魔族との闘い。

 魔族の領域へと踏み込み、闇の神の降臨を巡る攻防。

 異星からの侵略者との戦争。

 精霊や竜、神をも巻き込んだ世界の意思との対話。


『Desire Verse Online』のメインストーリーは、俺の知る限り全て攻略されている。


「ボクに言えるのはセツナ、君がもう舞台に上がっているということだけだよ。降りるその日まで、上手に踊ってほしいな」

「……悪目立ちは勘弁願いたいんだけどな」

「儚い願いだとボクは思うね」

「辛辣だなお前!?」


 ヨルを連れてみんなの元に戻る。それぞれ驚きを隠せないようだったが、サイドクエストの類だろうと説明すると納得してくれた。

 その最中、ヨルがユークリッドだけに何かを耳打ちするのを見た。やはり残光持ちには意味深なことを言わなければならないらしい。

 そしてヨルを加えた6人で、ギルドへと帰還する。

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