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Desire Verse Online Next ~悪童と呼ばれた剣神、次の世界では悪目立ちせずに過ごしたい~  作者: 廿楽
第二章 『アフター・グロー』

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第31話 2つの熱源

(驚いた……彼女がここまでやるとは)



 勇気をもって踏み出した彼女の動きは目覚ましかった。

 ヘビーリザードの爪を、尾を、石礫を、全て回避し続ける。

 それは決して熟練者の動きではない。俺から見ても、まだまだ動きに無駄が多い。安全マージンを目一杯に取った、拙い回避。その証左に、回避は出来ているものの、当初の目的である接近、剣の奪還はできていない。



(集中が切れた瞬間に持っていかれる。その前に状況を動かさないと)



「ユークリッド! アイスピラーはあと何回撃てる!?」


「マナ全部使い切っていいなら3! マナパサー分も考えると2!」


「その1回分が今欲しい! 目標は頭部!」


「お任せを! 貫き墜ちろ、其は天より降る剣! アイスピラー!」



 氷柱がヘビーリザードの頭上に形成されるが、今回は反応が早い。

 素早く後退され、直撃を取れずに地面に氷柱が突き立てられる。



「ゴメン! 外した!」


「いや、それでもいい! 今欲しいのは一拍の間だ!」



 当たれば儲けもの、くらいの気持ちで要請したのだ。流石にボスエネミーのAIは優秀なようで、簡単に2度目の隙は晒してくれない。

 アイスピラーという魔法は、標的とした対象から外れた場合、障害物を設置する魔法になる。

 突き立った氷柱はしばらく残り、お互いの視界を、攻撃を遮る壁となる。

 これで奴の視界から、ヤミが外れた。



「ピラーを駆けあがれ、ヤミ!」


「……ッ!? はい!」



 垂直にせり立った氷柱を駆けあがるヤミ。俺は俺で氷柱の陰から飛び出し、ヘビーリザードの眼前に陣取る。



「今なら誰も見えていない。ちょっとばかしインチキをさせて貰う」



 盾をインベントリに格納し、片手剣一本の状態に。構えを取り、スキルアシストの闇色の輝きが剣を包む。

 装備の耐久値を全て捧げることが前提のスキル。デザバス時代にこれを習得した時には、使い潰すための装備を改めて買う必要があった、お財布に優しくないスキル。


 長剣奥義スキル、崩壊。


 相手の装甲、防御力を全てを無視し、装備中の武器ステータスを参照して、固定ダメージを与える奥義スキル。

 発生が遅い、割に合わない、そもそもゼルギオスを筆頭とした特殊ボスたちは固定ダメージが無効という三重苦を背負わされた、デッドリー・アサルトとは別ベクトルの産廃と呼ばれた奥義。

 デザバス時代ですら、片手で数えるほどしか使ったことのない奥義が、ヘビーリザードの顔面に突き刺さる。

 スキルの闇色のエフェクトが着弾箇所を覆い、HPバーを蝕む。バーの表示は赤一歩手前のオレンジ。残り2割5分と言ったところ。片目は潰され、もう片目もエフェクトで覆われた状態。今ならいけるはず。


 

「ヤミ! 上がり切ったらそのまま飛べ! 標的は真下!」


「うええええ!? 高いし暴れてるし! これ大丈夫です!?」


「いざとなったら受け止めてやる!」


「じゃあ大丈夫ですね!」



 氷柱の頂上から勢いよくヤミが飛ぶ。赤色の流星となった彼女が、ヘビーリザードの顔面へと墜ちていく。交差する刹那、右目に刺さった剣が引き抜かれた。



「やった! やりまし――ぐえっ」


「……どうにかお互い無事ではあるみたいだな。HP真っ赤っかだけど」



 猛烈な勢いで落ちてきたヤミを、宣言通りに受け止めた。位置エネルギーと加速度による一撃で体に風穴が開くかと思ったが、何とか持ち堪えた。



「じゃあ後輩がこんだけ頑張ったんだ、お前が最後決めなくちゃ嘘だよな」


「無論ですお兄様。ヤミさん、貴女の働きに敬意を表して、わたくしも今使える最高の一撃で応えましょう」



 戦線に復帰したエタニティが剣を受け取り、その瞬間にスキルの光が纏われる。高々と上段に剣を構え、振り下ろすことしか考えていない。それは大昔、大上段からの一刀のもとに切り捨てることだけを目指した、ある流派の構えに酷似していた。


 長剣初級スキル、ハイスラッシュ。



「チェスト」



 本来の掛け声とはかけ離れた、静かな宣言。

 お前を今から叩き切るという、殺意の証明。

 静から動への緩急が、死線の間合いを踏み越える。

 接近し、勢いのままに振り下ろす渾身の一刀。

 ただそれだけのスキルが、ヘビーリザードの傷だらけの顔面を両断し、ポリゴンの塊へと変えた。



「ふう、やりました」


「おう、お疲れ」


「初級スキルですよね? 威力おかしくないです?」


「鱗も剥げてる傷だらけの顔面だったからなぁ」


「また剣をダメにしました……」


「それは俺もだから問題ない」


「帰り道どうするの2人とも……闇食(やみは)みさん、ロケートの残り時間大丈夫そう?」



 ユークリッドの言葉にヤミは青ざめる。



「あと2分……です、やばい間に合いません!」


「まあまあ落ち着いて、そんなときのためのぼくじゃないか。マナパサー!」



 ユークリッドのマナがヤミに譲渡される。完全魔法職であるユークリッドと、マナを使うとはいえ非魔法職のヤミ。その総量には大きな差があるようで、ほぼ満タンまで回復したらしい。



「ありがとうございますユークリッドさん……これで無事帰れそうです」


「まあ代わりに帰り道のぼくが完全にお荷物なんだけどね。しっかり守ってねセツナ君、エタニティ」


「任せとけ。俺も剣は無いがいざとなれば大剣でゴリ押す」


「MVPボーナス……剣があります! とてもありがたい……」



 リザルト画面を確認すると、ドロップアイテムの最後に、今回のクエストの目的であるギルドクリスタルが含まれていた。後はこれを持ち帰ればクエスト完了だ。



「そういえば、入る前にヤミが言ってた2つ目の熱源ってなんだったんだろう」


「確かに、ここにはもう何も――」



 卯月が呈した疑問は俺も頭の隅に引っかかっていた。大小2つの熱源。そのうちの大であろうヘビーリザードはもういない。じゃあ、小はどこに、と考えを巡らせたその時、部屋の奥で何かが動いたのを見た。



「待て、奥に何かが居る」


「……敵でしょうか?」


「ボスの二段階目だったりしたら詰むよ?」


「縁起でもない……」



 部屋は明かりで照らされているが、奥が暗くなっている。先ほどまでヘビーリザードが陣取っていた場所を越え、奥を確認する。



「……これは」


「あらあらまあ……」


「ええ……怪しい」


「罠でしょうか……」


「見るからに罠だろ、これ」



 そこにいたのは小さな影。



「すぅ……すぅ……」



 少女が一人で寝こけていた。

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