第30話 闇食み
「気を取り直して進もう。よっぽど酷い乱数を引いてない限りは、最深部の鉱脈まで20分とかからないはずだ。闇食み、今どれくらい経過してる?」
片づけた、と言うよりは散らかした状態が近い、ドロップ品の骨の山を収納しつつ、ロケートの残り時間の確認を取る。
「現在12分経過です!」
「往復することを考えると、少し急いだほうがいいですね」
「ねえセツナくん、ここってエリアボスいたっけ?」
「なんかデカいトカゲが居た気がする。石とか吐くやつ」
「あーなんかいたねえそんなの……」
おそらく最奥はボスエリアになっている。ボス戦に要する時間も考慮すると、ここからの道中はかなり駆け足で行った方がよさそうだ。
「闇食み、この先の道で何かが動く音はするか?」
「ん……少なくとも、近くで動く音はしないですね。あと、今ならその最深部までの道、わかるかもしれないです」
「お、なんかマッピング用のスキルとかあるのか?」
「そういうのは無いんですけど……私、火竜人のハーフなので、熱源感知みたいなのがちょっとだけできるんです。骨人は骨なのでわかりにくいんですけど、さっきセツナさん、トカゲって言いましたよね。それっぽいのが居る道は見えました」
火竜人の種族スキルにそんなものがあるとは知らなかった。
しかし、有力な道が分かったのならここは乗っかるしかない。
「よし闇食み、案内を頼む。途中の骨は俺とエタニティで蹴散らす」
「剣もばっちりです。今の私は無敵ですから」
「さっきまで半泣きだったのにすごい回復力……」
「ヤミ頼むぜぇ……俺はマナ残量怪しいからそんな役に立たねえんだよ……」
闇食みの案内の元道を進むこと10分足らず。明らかにボス部屋であろう大扉の前にたどり着く。道中に骨と遭遇することは幸運にもなかった。
「見るからにボス部屋、ですね……」
「さっき言ってた熱源はこの中に?」
「はい、中に2つ感じます」
「そうか……2つ?」
「はい、2匹いるんですかね……? 1つは大きくて、もう1つは小さいです」
流石にボスが2匹いたかどうかは覚えている。間違いなく1匹だった。
おそらく大きい方がボス、なら小さいのは――何だろう。
「考えても仕方がないか、みんな、開けるぞ」
大扉をギイ、と押し開ける。思ったより力は要らなかった。
この手のボス部屋は、大抵は誰かが侵入した段階で明かりが点灯する。しかしここは最初から明るかった。
部屋の中央には、懐かしいフォルムの巨大なオオトカゲが一匹。
オブジェクトネーム、石喰らいのヘビーリザードが、侵入者に気付いたのかこちらを観察している。小さい何かは、見当たらない。
「見ての通りの体躯による攻撃と、人間大の岩を吐くのと、細かい石礫を飛ばしてくる。俺が敵視を稼ぐから、遠距離攻撃主体で攻めるぞ」
「私へのヒールは単体で、後衛へのヒールに範囲回復を使うと良いと思います。可能な限りは被弾を抑えるようにしますから」
「氷魔法で補助するよ。防壁の展開くらいなら朝飯前だ」
ヘビーリザードが咆哮する。この音圧だけで吹き飛ばされかねない。
俺とエタニティが駆け出す。この広い空間なら大剣を出してもよかったが、タンク役を引き受けるのなら不慣れでも盾がある方が良い。
鈍重に振りかぶられた前足を、エタニティの唐竹割の一撃が迎撃する。削れたHPバーはごく僅か。見た目通りサンダーバードのような物理方面の柔らかさは無い。
「やはりかなり硬いぞ! 考えなしに切ってたら先に剣がダメになる!」
「なら狙うべきは関節部、或いは口内か眼球!」
再び突貫するエタニティは前足による横薙ぎに対し、再びの唐竹割。指を狙ったであろうその一撃が、硬質な音と共に弾かれる。爪に当たったか。
「カッチカチですお兄様! 足を狙うのは無しですこれ!」
「見りゃわかる! ユークリッド、一発頼む!」
「うん! 集え、固まれ、貫き墜ちろ。其は天より降る剣! アイスピラー!」
ヘビーリザードの頭上に巨大な氷柱が形成され、頭と胴をめがけて降り注ぐ。
唐突な質量による爆撃に面食らったのか、頭の位置が下がる。
そしてそこは剣鬼の間合いだ。
「頭を垂れて這い蹲りましたか、好都合です」
エタニティの構える長剣が、燃えるような赤色を宿す。
片手剣初級スキル、ピアッシング。スキルの光を宿した切っ先が、吸い込まれるようにヘビーリザードの右目を刺し貫き、HPバーを大きく削る。
同じボス格とはいえ、最大30人レイドのサンダーバード比較すると、やはりヘビーリザードのHPの総量は少ないらしい。
片目を潰されて半狂乱のヘビーリザードの尻尾による反撃が、エタニティを弾き飛ばす。
勢いのままに壁に叩きつけられ、エタニティのHPバーは赤ライン。
「卯月はヒール! 闇食みはエタニティの回収!」
「癒しの風よ、命に力を、ヒール!」
「うわわわ、一撃が重たい! しっかりしてエタニティさん!」
「ぐぅ……剣が」
エタニティの長剣は、ヘビーリザードの右目に突き立ったまま。
長剣の予備がもうない以上、アレを回収するまでは前衛の戦力が俺1人ということになる。
「さて、俺だけでなんとかなるもんかねこれは」
「私が、前に出ます!」
エタニティを卯月に託した闇食みが、俺の隣に立つ。
「今のを見ただろ、一撃で全損するかもしれないんだぞ」
「私の攻撃じゃ、あの表皮は貫けません。だから避けることにだけ集中します! そして隙をついてあの剣を回収します!」
「ダメだ、君のリスクが高すぎる。エタニティが負傷から復帰したら、そのまま回収を任せればいい!」
「セツナさん」
闇食みがこちらを見る。彼女はミリンと同じく、接近戦が怖いからという理由で後衛職を選んだと聞いた。そんな彼女が、まっすぐこちらを見ていた。
「セツナさんが強くて、優しいのは重々分かっています。でも私も、守って貰っているだけじゃダメなんです」
「な……?」
「全損しても、死ぬわけじゃないんです。街に戻されるだけ。この間バレットも言ってたじゃないですか。現時点でのデスペナは軽いって。これはゲームです、もっと気楽に挑んでも良いじゃないですか」
彼女は笑顔で呟く。しかし、その手に構えたナイフは小刻みに震えている。
怖くないはずはない。いくらゲームとは言え、一瞬の痛みや恐怖は本物だ。
「多分セツナさんは、デザバスの頃に、良い先輩に恵まれたんでしょう。その人がいれば負けるなんてありえない、そんな先輩に」
なぜ俺は可能な限り卯月や闇食みへの負担を減らそうとしたのか。
それは俺が銀星やシンシアにしてもらったことだから。
「デザネクは、何かを成すためのゲームです。その何かのための一歩を、今ここで始めさせてください」
「……ああ」
「私だって、このゲームをやってる主人公の1人なんだって、証明します」
「ああ、やるぞ、闇食み。石の露払いは任せておけ」
「ヤミで良いですよ。ずっと言おうと思ってたんです」
「了解だ、ヤミ。時間制限もある、ここからが正念場だぞ!」
「はい!」
ゲーム開始から2日目にして、1人のプレイヤーが殻を破る。




