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第3話 5年後、ある春の日

 『Desire Verse Online』のサービス終了と同時に俺、玄江瞬(くろえしゅん)の生活は一旦VRMMOからは離れることとなる。

 いくらゲーム内で神を冠した廃プレイヤーであっても現実に戻れば中学生である。しかも高校受験が目前に迫っている。安心して堕落を貪るためにはそれなりの成果を提示し続けなければならないのだ。


「銀星とシンシア、仮面襲撃者(レイダー)750三国(ナナハンサンゴク)、ふぉーりなーは社会人、えび転とシフォン七世、光次郎は大学生、高校生以下は俺だけ……」


 所属していたギルドの面々は皆年上でとても良くしてくれた。

 『悪童』と呼ばれるクソガキだった俺を弟のように可愛がってくれる――若干お節介が過ぎるのもいたが、いいギルドだった。彼らの連絡先はそれぞれ教えては貰ったが、彼らにも彼らのこれからの生活がある。親しかった人と疎遠になるのは寂しいが、今生の別れという訳でもない。


「またいつか、遊べたら良いな」


 そして俺は地元では一応進学校で通っている高校へと進学した。

 残念ながらデザバスの話が分かる友人には巡り合えず、特に後継のVRMMOにも触れずに高校生活を送り、都内の大学へと進学することとなる。

 一人暮らしの落ち着いた空間でなら誰に気を掛けることもなくVRゲーを楽しめるというものだが、デザバスに熱中していたあの頃のような熱は消え失せており、インディーズのバカゲーを時折楽しむくらいになっていた。

 そんなこんなで過ごしていた大学2年目の春、PCの通知に懐かしいアイコンを見つける。


「……ん、これは、えび転?」


 ギルド『四神連合』が誇る4人の神に至ったプレイヤーである『槍神』銀星、『祭神』シンシア・カートレット、『酒神』ふぉーりなーに並ぶ『拳神』えび転。最終的には俺もそこに並ぶ『剣神』になれたのだがそこは置いといて。彼女とはデザバス時代もサ終後もそこまで密接に関わることはなかったのだが……。


『クロ坊、見ろ』


 タイトルはたったこれだけ。内容もネット記事のURLのようだ。一瞬詐欺を疑ったが、以前よく眺めていたVRMMO専門のニュースサイトのURLであることから気を取り直してサイトを開く。そこに書かれているニュースに心臓が跳ねた。


 『Desire Verse Online』の正統後継作。

 スタッフ再結集、5年の歳月で作り上げた次なる世界。

 人はもう一度、何かになれる。

 この夏リリース予定。


「マジかマジかマジかマジか!!」


 熱が灯る。あの世界にもう一度、その期待感だけで居ても立っても居られなかった。即座にえび転への通話ボタンを押していた。


「もしもしえびさん!? あれ本当に、デザバス!?」

「声が大きい。クロ坊は焦ると急に声が大きくなる。変わってない」

「うわー久しぶりの声だ! えびさん元気? 仕事は順調? 確か出版系だったっけ!」

「もち。ばりばりのキャリアウーマン」

「うーわ似合わな!」

「相変わらず失礼な。でも元気そうでよかった。ゲームの腕は鈍ってない?」

「うんうん元気元気! でもゲームはちょっとサボってるなぁ。デザバス以降はそこまでのめり込めるほど気に入ったのがなくて」

「なら今から取り戻すべき。夏のデザバス2(仮)リリースまでに」


 旧交を温めてほっこりしていたがもう一度呼吸が早くなる。そうだデザバスだ。


「あれ本当にデザバスだよね? 名前だけパチった偽物じゃないよね?」

「プロデューサー以下スタッフ陣が変わってないっぽいからそれは杞憂」

「そっかそっかマジかぁ。5年でしょうサ終から」

「クロ坊神誕生からもう5年になると考えると光陰矢の如し」

「もう坊って年齢じゃないって、他のみんなには?」

「シンシアは個別の連絡先なかったけど銀には伝えたから伝わるはず。ふぉーりーにはさっき、クロ坊には今伝えた。他の連中はこれから」

「そっか、シンシア有名人だもんな」

「バーチャルインフルエンサーとしてあそこまでデカくなるとは想定外」

「5年前は吹けば飛ぶような知名度だったのにね」

「追っかけはいたみたいだけど」


 シンシア・カートレットはその名前のままVtuberとして活動しており、今や登録者数200万人超えのインフルエンサーである。おいそれと個人的なメールを送れるような状態ではなくなってしまった。

 銀星はそんな彼女のマネージャーであり、旦那である。夫婦だと当初は秘密にしていたそうだが、俺がギルドに入った頃には公然の秘密であった。


「で、だ。クロ坊、来週末予定はあるか」

「ないけど、どうしたの」

「『旧四神連合』第3回オフ会をする。ふぉーりーが発起人。さっき決まった」


 俺の中で止まっていた時間が動き始める、そんな予感がした。

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