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Desire Verse Online Next ~悪童と呼ばれた剣神、次の世界では悪目立ちせずに過ごしたい~  作者: 廿楽
第二章 『アフター・グロー』

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第24話 玄江 永久と興市 優

 何時間かぶりに帰還した現実は、関節の鳴る音に出迎えられた。

 VRセットを外した目に飛び込んで来るのは、白色LEDの光。

 あの世界では完全に遮断されていた空腹感が頭を殴りつける。

 枕元に置いてあるペットボトルの水を一気に飲み干す。



「飯……の前に、電話か」



 メールの簡素な文面からして、大した用事ではないだろう。

 緊急性がある時はもう少し真面目な文体になるから。

 携帯の履歴から番号を呼び出す。1週間ぶりらしい。

 コールにはそれほど時間を要さずにつながった。



「おー。起きてた?」


「リリース初日だからそりゃあな。永久(とわ)もか?」


「あーしはバイトから今帰った。これからインする」



 玄江(くろえ) 永久(とわ)


 今年都内の大学に進学し、俺の下宿先の近所に上京してきた、1つ下の妹。

 元デザバスプレイヤーであり、そののめり込み方は俺とほぼ同等。

 俺より後に始めて、決闘ランキングで俺を置き去りにした天性の剣士。



「で、なんだ。急に電話しろってのは」


「帰ってきて人寂しかった。にいなら気兼ねなく頼める」


「お前なぁ……俺が寝てたらどうするつもりだったんだ」


「合鍵を使って起こしに行く」


「クソ迷惑だ……」



 どうにもこの妹、ブラコンというか、兄離れが出来ていない。

 当初の予定では、俺の下宿先に間借りするつもりだったらしい。

 俺が全力で拒否した結果、見たこともないほどに大泣きされ、近所へ下宿、合鍵を渡すという形に落ち着いたのだ。

 そのせいで気付いたら妹の私物が増えていたり、冷蔵庫の中身を占拠されていたりと、合鍵を最大限利用されてしまっている。



「で、どうだった? デザネク」


「初手からなんかデザバス由来の面倒事が凄い。お前も気を付けとけよ」


「えー……面倒事きらーい。にい頼んだ」


「何でもかんでも押し付けるな。前科が幾つあると思ってるんだ」


「覚えてるわけないじゃん、にい馬鹿なの?」


「はっ倒すぞお前」


「出来もしないことを言っちゃだめだよ、にい」



 頭が痛くなってきた。永久とわとの会話は疲れる。

 昔はもう少し普通だったはずだが、いつからかダル絡みが凄いことになった。友達付き合いか、男か。どちらにしてもいい迷惑である。



「まあいーや。どうする、にい。この後あーしとデートしてくれんの?」


「飯食って寝るとこだよ馬鹿野郎、一応日付跨いでんだぞ」


「可愛い妹の頼みが聞けないってのかー」


「徹夜したら必修が死ぬんだよ分かれ……」


「何のためにエナドリが置いてあると……?」


「お前のじゃねえか。1日3本のジャンキーめ」


「失礼な、4本以上の時もある」


「我が妹ながら将来が心配だ……」


「にへー、ゲーム廃人のにいに心配されたー」


「うるせえ」



 電話しつつ冷蔵庫を漁るが、詰め込まれているエナドリ以外にまともな食糧はなさそうだ。当然永久(とわ)の備蓄である。持って帰ってほしい。



「くっそ、エナドリしか見当たらんし……寝る」


「えー寝落ちもちもち? あーし今からデザネクで忙しいんだけど」


「切るぞ」


「あっこら――」



 何か抗議の声が聞こえた気がしたが無視。

 というかこうでもしないと会話が終わらない。どうしてあんなにも、ずっと喋り続けていられるのかが分からない。



「……疲れた」



 デザネクでの体力の消耗に加えて、今の通話で精神的に疲労した。

 正直サンダーバード戦よりも疲れた。エリアボス級の妹とは。


 ベッドに横たわり、照明を消す。

 旧友との再会、厄ネタ、新たな出会い、面倒事、ボス戦、厄ネタ。

 リリース一日目にしては、かなりハードなスタートだったような気がする。

 しかしそれでも、楽しかった。

 焦がれ続けた世界の続きに触れた、あの時間が。


 

「明日は、クィリナスを見に行って、それから――」



 やりたいことは山ほどある。

 見に行きたい場所もある。

 会いたい人もいる。

 だから今は、それに備えて体を休める。

 瞼を閉じると、意識は思った以上に早く落ちた。






「大丈夫? 玄江くろえくん、すっごく眠そうだったけど」


「ゲームだよゲーム、今日も帰ったらゲーム漬けだ」



 講義を終えて早々に荷物を片付けていると、隣に席っていた女子、興市(おきし) ゆうが話しかけてくる。

 彼女とは高校の同級生であり、大学でも共に行動することが多い。

 人当たりが良く朗らかで、それでいて押しに弱いところがある。放っておくとろくなことにならない、と勝手に保護者面をしているだけだが。



「へえ意外。玄江くろえくんもゲームとかやるんだ」


「ご無沙汰だけどな、デザバスは滅茶苦茶にやり込んだ。その後継作をな」


「あっ、『Desire Verse Online Next 』? 実はぼくもやってるんだ」


「へえ、デザバスもやってたのか?」


「一応ね。そんなやり込んだというほどでもないけど」



 思わぬところに同志がいた。

 高校の頃はお互い別のグループだったから、話す機会がなかったのだ。



「良ければだけどさ。玄江くろえくんが良ければ今日、一緒にやらない?」


「おお、そっちのビルドは?」


「人間の魔術士。火力ぶっぱ」


興市(おきし)は補助系とか回復系してそうなイメージなんだけど」


「前はそうだったんだけどね。その頃の友達とは今現在連絡が取れないから、ソロだと正直キツいかなって」


「俺は雪魔精(ヨクル)との混人種ハーフの剣士。純前衛。現状ハーフ要素ほぼないけど」


「うわぁハーフガチャやったんだ。結構ギャンブラーだね」


「俺のフレンドはキメラガチャで黒翼魔(ナハト)重なる影(ドッペルゲンガー)引いてたけどな」


「す、凄い引きだね……ぼく昨日のインで骨人(スケルトン)蜥蜴人(リザードマン)混魔種キメラの人は見たよ」


「ホネトカゲか……そうなるリスクを考えると良くやったなあいつ」



 後から聞いた話であるが、そのホネトカゲ氏はインした直後にモンスターと間違われ、滅茶苦茶攻撃を食らっていたらしい。哀れ過ぎる。



「じゃあこれ、ぼくのアカウント。インしたら呼んでね」


「おう、また後でな」



 彼女にメモ書きで渡されたアカウント名、その名前には見覚えがあった。


 ユークリッド・カノン。


『巡礼の聖女』、『赦しの純白』、そして『癒神』と呼ばれたプレイヤー。



「あんたでやり込んでないって言うなら、誰がやり込んでるって言えるんだよ。とんでもねえ大嘘じゃねえか」 


 それはデザバス時代に、最も過酷と謳われたクエストを制覇した名前だった。

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