第23話 帰り道
「話し合いは終わったか、お前ら」
「おう。なんとか致命傷で済んだぞゴドー」
「どういうことだ……」
ゴドーらの元に戻り、疲れ果てた表情でそう答える。
隣でバレットはにっこにこである。あんな壊れスキルが手に入れば、テンションも上がるのも当然か。
「私が得たスキルは『穹神の残光』。空中の相手に対して、射撃属性の命中と威力に補正がかかるスキル。神様に認められた証なんだってさ」
「ほほお……確かに神への信仰や奉納やなんかで、証のようなスキルが手に入るとは聞いたことがあるが、これがねえ」
口裏合わせの結果、スキル前半の説明だけで済ませることになった。
飛行に関しては、現状公開すべきでない。
「それも大事だが、ここから少し、俺たちの当初の目的に付き合ってほしい」
納得するゴドーの背後から、ガンマがそのようなことを言う。
「当初の目的?」
「クィリナスに行けるようになっているか、それの確認だ」
ガンマら遠征隊の当初の目的の1つ目。
ドラコニス水系を渡る大河船の港、クィリナスの開放。
世界レベルが足りずに引き返す道中で、サンダーバードに壊滅させられたという経緯だったはず。
「どうする? お前たちさえ良ければ、確認しに行きたいところではあるんだが……それなりにいい時間ではあるんだよな」
ゴドーの言葉で思い立ち、ステータス画面の時計表示を見る。
午前1時を回ったところ。
ある程度時間に余裕がある大学生の俺はともかく、カンナのような勤め人には明日の朝が怪しい時間帯である。
「キリが良いから私は落ちる。セツナは?」
「どうするかな……リリースからぶっ続けだったし、俺も飯食って寝るかな」
「そうか、じゃあここで一度解散とするか。俺へのメッセージは気軽に送ってくれ。また一緒にプレイしよう」
「はいセツナさん! これ私のアドレスだから。ちゃんと誘ってよね」
「お疲れ様です皆さん!」
全員とフレンド登録を済ませ、ブランシュへの道を行く。ゴドーたちは宿へのファストトラベルを使用し、早々に帰っていった。
隣にはカンナがぴたりとついている。
「セツナ」
「おう」
「楽しかった?」
「ああ。カンナは?」
「私も」
淡々とした会話。しかしそこには温かさがあった。
デザバス時代の冒険の後、こんな風に誰かとログアウト用の宿まで歩く帰り道が、俺は好きだった。
「明日も来るのか?」
「仕事終わったらダッシュでログインする」
「元気だな、本当」
「そういうセツナは?」
「必修が午前中だけだからずっといるかも」
「うう……羨ましい」
「5年前は俺の方がリアルの拘束時間長かったからな」
「そうだったね」
他愛の無い会話が続く。そこに背後から声がかかる。
「いちゃついてるねぇご両人」
「ふぉーりなー!? あんたクィリナスの確認に行ったんじゃ」
「私も仕込みとかあるからねぇ。ログアウト用の宿に戻ろうとしたら、いちゃついてる君たちがいたものだから」
「いちゃついてねえから。デザバス時代もこうだったろ」
「ああ、そうだったねぇ。クロエくんはそうだったとも」
ふぉーりなーがくつくつと笑いながらこちらを見ていた。
「ふぉーりーも、今日はお疲れ様」
「別に疲れるようなことしてないよぉ」
「……まあ、久しぶりに遊べて、楽しかったよ」
「素直で良いことだねぇ、お姉さんがよしよししてあげよう」
「いらん」
「セツナ、私のは?」
「そっちもいらん。便乗しようとしない」
「がーん……」
隣で落ち込むカンナは見なかったことにする。
ふぉーりなーは興味深そうにカンナを見つめ、手招きをしている。
それに誘われてカンナが俺から離れた。
「カンちゃん。時間はこれから沢山あるんだ。そう焦る必要はないよ」
「何のことかな。私は常に冷静沈着クールな女」
「誰かさんに関わらなければ、そうなんだけどねぇ昔から……」
「むー!」
「むくれないむくれない。本当可愛いんだからキミも」
「……ふぉーりーでも、セツナはダメ」
「……別にそこは自由恋愛の範疇だと思うんだけれど、理由を聞いてもいいかい」
「私に勝ち目がなくなるからダメ」
「はぁ……キミにしてもクロエくんにしても、その自己肯定感の低さはなんなんだろうねぇ本当に……」
2人の会話は小声で聞こえない。
しかしカンナがむくれて抗議しているのは見えた。どうせまたしょうもない嘘でも吐かれたのだろう。
その時、ゲーム外からメールの通知が来る。
差出人の名前は、妹だった。
『にいへ。メールを見たらTELください』
シンプル過ぎる。とりあえずログアウト後に構ってやろう。
ウィンドウを閉じていると、カンナがこちらに戻ってきていた。
「セツナ、メール?」
「妹から。戻ったらTELくれってさ」
「ああ、あの子。急ぎかもしれないし、ファストで戻る?」
「んー……まあそうしようか。じゃあなカンナ。また明日」
「うん。おやすみ、セツナ」
「じゃあねぇ、お2人さん。良い夜を」
ファストトラベルで戻った先は、遠征に出る前に登録した安宿。
ベッドで横になり、眼前に表示されたログアウトボタンを押す。
すると意識がふっと軽くなり、現実へと帰還が開始された。




