第20話 壊滅のサンダーバード
レイド戦で最も大事なことは何か。それは穴を作らないことだ。
作戦上の穴があるならその時点で勝率が下がる。戦闘中、戦列に穴が開けばそこから突き崩される。個々人の構築上の穴はそれ以前。そもそも参加すべきでない。
今回のサンダーバード戦、俺は完全に穴でしかなかった。
近接戦闘しかできない上に、作戦上も浮き駒。戦列の形成にも寄与できていない。控えめに言って寄生と呼ばれても差支えがない。
カンナが自分を犠牲にして作ってくれた、この好機だけは。絶対に逃すわけにはいかない。
「だあああああ――っ!!」
右手に構える牙の大剣、荒々しい造りの刃に灼光が灯る。
重剣初級単発スキル、アークスラッシュ。地面を削りながら描いた孤が、サンダーバードの左脚に一条の斬線を刻み込む。
(硬い! 鱗で覆われている分、体より頑丈か!)
最もダメージ期待値が高い初撃の失敗を悟り、スキル硬直後の体を強引に捻らせる。サンダーバードの爪による反撃が地面に突き刺さった。
俺の回避とほぼ同時に、後衛からの投射攻撃が飛来するのが見えた。矢が、魔法が、サンダーバードへと、そして自分へと降り注ぐ。
後衛班に気を取られたサンダーバードの胴体に、大剣を叩きつける。
大したダメージにはならない。だがそれでもこの怪鳥の意識を揺さぶり続ける。モンスターのAIに正着手を選び取らせる余裕を与えない。
(迷え、迷え。足元の虫けらと、遠くの虫けらと。生きるためにお前が先に処理すべきなのはどっちだ?)
ぎょろり、と目が合う。
どうやら足元の虫けらを踏み潰すことに決めたらしい。
「正解だ」
爪、嘴、爪、翼による殴打、嘴。
巨体に似合わない俊敏さで攻撃が続く。
俺に狙いを定めている間は、遠距離攻撃が素通り。俺が耐える時間が延びれば、それだけ削れる体力が増える。タンク役というのも案外悪くない。
(とは言え、こいつが何時飛び立つかはわからんからな)
爆撃に竜巻、雷球。その辺りが使われ始めるとまずい。
だからこそ今、可能な限り地上戦を引き延ばす。
何度目かも数えるのを忘れた斬撃を、右の翼に叩き込む。飛び散った羽が赤く発光するのが見えた。
「まず、い」
この至近距離で爆発はまずい。
後方へ飛び退ろうとした一瞬の間隙に、嘴が伸びてきた。
「ごっ、あ!?」
俺の右胸に嘴が突き立てられ、自身のHPバーが急速に減少する。
直後、視界の端で羽が爆発した。
「おるァ!」
飛び込んできたのはゴドーとガンマ。
ゴドーは爆破の衝撃を大楯で緩和し、ガンマがサンダーバードの横っ面に一撃を加える。
俺に刺さっていた嘴が引き抜かれ、痛みに顔が歪むのを感じる。
「悪い、カバーが遅れた」
「死んでないならセーフだろ。ありがとうゴドー」
「今の爆破は相手にもリスクだったみたいだな。見ろよ」
土煙の向こう側、サンダーバードがこちらを睨み据えていた。
しかしその姿はかなり痛々しい状態である。今の爆破に巻き込まれたのか、翼の一部が黒く焼け焦げている。胴体にもまだ火が点いており、火傷の状態異常が付与されている。
流石に地上では分が悪いと見たか、サンダーバードは大きく翼を羽ばたかせ、空へと帰還する。
「ボーナスタイムは終わり、か」
「まずは回復しとけ。まだ相手のHPは三分の一は残っている」
「もう一度叩き落してやる。休憩してこい」
ゴドーとガンマにその場を任せ、後方へと引き下がる。
サンダーバードの敵視はまだ俺に向いているようで、追撃の羽が飛んでくるが、かろうじて回避した。
「セツナ、カッコよかったよ」
「どうせならとどめまで行っておきたかったんだけどな」
「自爆覚悟の爆破は聞いてたパターンになかったからね」
「カンナは大丈夫か、足」
「もう行けるよ。今は指示まで待機中」
「そっか……じゃあ俺も回復、と」
回復薬をがぶ飲みし、胸の傷を癒す。体力は回復するものの、右手には痺れた感覚が残っているような気がする。
「セツナさん! バレットから伝言を預かってきました!」
「ミリンか。君のアイスショットは良かったぞ……伝言って?」
「はい! 今から数えて、2回目の竜巻の予兆が来たら、カンナさんと全力で接近して、攻撃態勢に入ってください! 地面に引きずり下ろす、とのことです!」
「2回目ね、了解」
「こっちも了解」
遠隔アタッカー班に駆け戻っていくミリンを見送り、右手を何度か握りなおす。痺れはもうない。
見ればタンク班に今まさに竜巻が叩きつけられている。
竜巻の持続時間は、5秒。
その間にも羽が投下され、体の周囲を旋回しているだけだったサンダーボールも、緩い狙いと共に飛来している。弾速は速くないが、如何せん大きい。
「発狂タイムってところかな」
「地上戦の分の悪さも学習したし、下手すると最後まで降りてこないかも」
「でもバレットが出来るって言ったんだ、信じるしかない」
「あの子、セツナが戦ってるときの援護射撃すら、一度も外さなかった」
「通りで。矢は一本も俺には飛んできてない」
本人にそのつもりはないのだろうが、ミリンのものと思われる氷弾や、その他プレイヤーの火球は俺の体を何度も掠めている。乱戦の中への援護射撃だ、そこは仕方ない。
だからこそ、バレットの特異さが際立つ。
亜音速の鉄風雷火の中で培われた才能は、本物だ。
サンダーバードが、再び蒼穹へ舞い上がる。




