第19話 レイド戦
「お待たせガンマ、待った?」
「そうでもねえけどよ、酒代はちゃんと自腹で払えよ」
「そんな……三食昼寝お酒付の条件で雇われたはずでは」
「言ってろ。そっちのお二方も、改めて方針を伝える。3パーティ27人、飛び入りのソロ3人の合計30人レイドだ。飛び入りは形式上は君たちのパーティに入って貰うが、役割ごとに班分けをさせて貰った」
ガンマが手渡してきた手書きの書面には近接アタッカー班とある。カンナも同じ班に振り分けられているらしい。
「タンク、近接アタッカ―、遠隔アタッカー、後方支援とざっくり分けただけだが、今回の要は遠隔アタッカー班と見ている」
遠隔アタッカー班のトップにはバレットの名前がある。それに続いてふぉーりなー、ミリンの名前も記載されていた。
「サンダーバードの攻撃パターンは俺たちが見てきた限りは5つ。寄ってきて爪か嘴での攻撃、数秒残存する竜巻の設置、羽ばたきに伴う爆発する羽の投下、そして初級雷魔法、サンダーボールだ」
「サンダーボールは常に体の周りに2~3個を展開させてたねぇ。能動的な攻撃手段というよりは、接近に対する防御手段とみるべきだね、アレは」
「この中で最も危険な行動は竜巻だ。隊列を乱され、そこを爆撃と直接攻撃で崩してくる。だがモーション自体は分かりやすい。一度高度を上昇させた後、溜めてから撃ってくるのを確認している」
「それを遠隔アタッカーで抑制しようってんだな」
ゴドーがバレットの方を見る。口にこそ出さないが、お前が今回の要だと目で語っていた。
バレットも無言で頷く。やや緊張の色が見えるが、大役を任されるのだからそれも当然だろう。
「初戦ではふぉーりなーしか遠隔アタッカーが居なかったからな。今回はもう少しましな形で戦えるはずだ」
「そもそも私は遠隔アタッカーでもないんだけどねぇ。付与術士なんてデバッファーだよ基本は。なんなら私の場合は近づいた方が強いし」
デバフ範囲まで接近し、状態異常漬けにしたら短剣で刺す。付与術士とは名ばかりの暗殺者構成をしていた女である。
流石にスキルが揃っていないであろう現状は、まだそこまで振り切った構成にはしていないと思うが。
「そろそろ時間だ。目標が大きく移動していなければ、20分も歩けば接触できる。道中の敵は基本的に無視、あるいは最低限の消耗で倒す。いいな?」
「案外近いんだな」
「下手すると遠出した初心者が死屍累々になるくらいにはな」
北門を抜け、イノシシ狩りに勤しむプレイヤーたちを横目に街道を進む。遠目にキングボアに挑むパーティも見かけた。見事に吹き飛ばされていたが、その経験が初心者を強くする。頑張ってほしい。
ガンマの言った通り、20分ほど歩いたところで影が地面に落ちる。誰ともなく上を見上げると、エリアボス、壊滅のサンダーバードがこちらの一団を視認したらしく、降下を始めていた。
「上空にポップするなら先に言っとけよガンマァ!」
「俺らが会敵した時には地上にいたんだよ!」
「はいはい、散開するよぉ。このままじゃ轢かれるからねぇ」
タンク班であるゴドーとガンマらがサンダーバードを迎え撃つ。
俺とカンナは現状打つ手がないので後方待機。相手のモーションの一つ一つを確認していく。
「爪はそこまで速くない。嘴は突進の速度が乗ってくる分速いな」
「基本的には一撃離脱、地上戦をやってくれる気配はなし。やっぱり、何とかして叩き落さないとダメだね。また飛び上がる」
再び空に舞い上がった巨体が、大きく翼を羽ばたかせる。
甲高い鳴き声と共に、赤く発光した羽がばら撒かれ始めるのが見えた。
「爆撃来るぞ! 遠隔アタッカー班、今なら止まってるから狙い放題だ!」
「言われなくても。ストレイトアロー、穿ち貫く!」
「了解しました! アイスショット、撃ちます!」
「さぁてお仕事だ。ポイズンクラウド、犯し浸せ」
スキルの光を灯した矢が、氷の弾丸が、毒に塗れた雲が、それ以外の攻撃魔法を伴ってサンダーバードへと殺到する。
そのうちの幾つかは、周囲を衛星の如く旋回する雷球をかき消すに留まったが、それでも少なくない数の攻撃がサンダーバードのHPバーにダメージを刻む。
爆撃を妨害されてご立腹なのか、後衛に敵視が向いた気配を感じる。
「まずいな、こっちの敵視が稼げてない! 後衛に向かうぞ!」
「思ったより柔らかいな、羽毛装備じゃそんなもんか!?」
ゴドーらが挑発スキルを発動し、サンダーバードの敵視を自分たちに向けようとするも、効果は薄い。
後衛へと飛翔する怪鳥の眼前に立ち塞がったのは、黒き翼。
「出し惜しみをしても仕方がない。リキャストの3分を考えたら今が切り時」
黒翼魔の種族スキル、飛行によって空中に静止するカンナ。効果時間はわずか3秒強だが、空を大地の如く踏みしめて、スキルのモーションに入る。
拳闘初級スキル、鉄底墜とし。
前上方へ跳躍し、前方一回転からの踵落とし。
普通に使えば出が遅く、回転の間に逆撃を食らうことも多い。だが彼女が使う場合は雷霆に喩えられる神速の一撃と化す。
サンダーバードの脳天へと振り下ろされた一撃が、飛翔の軌道を地面へと転換させる。飛行が切れたカンナがそれに続き、自由落下の最中であるにもかかわらずスペリオルコンボへと繋げる。
拳闘初級スキル、流星脚。
空中での回転から下方への飛び蹴りへと移行する一撃を、踵落としに振り抜いた右足から接続する。
サンダーバードの胴体に右足をめり込ませ、1人と1羽が地面へと着弾する。
暴れもがくサンダーバードと、受け身もままならないまま落ちたせいか動きが鈍いカンナ。
「よくやってくれた! 一旦下がれカンナ!」
「足折れた……これは痛い」
「チッ、神官とレンジャーはカンナの回復と治療! 遠隔アタッカー班はそのまま追撃続行! セツナはお待ちかねの地上戦だ、派手に行け!」
「ああ!」
後方へと運ばれるカンナとすれ違う。申し訳なさそうに笑っている。
「ゆっくり休んでろ」
「頑張って」
大剣を手に、地上でもがくサンダーバードへと駆ける。




