第18話 籠の外
「該当装備の熟練度ブースト、装備条件パス、デザバス時代の武器種スキル全解放か……。なるほど、これはチートに足突っ込んでるねぇ」
「俺もそう思う。他のデザバスプレイヤーにも継続ボーナスがあるとはいえ、残光スキルはいくら何でも過剰が過ぎる」
「でも一つ分かったことがある。『酒神の残光』を見るに、神の残光は上司である神が違えば内容に大きく差が出る。ゼルギオス眷属神である私、セツナ、そして多分銀星のスキルはほぼマイナーチェンジ」
「私は神の試練とやらも受けてないし、眷属神じゃないからなのかもねぇ」
ふぉーりなーから飛び出す爆弾発言。
確かに彼女から神に至った経緯を今まで聞いたことはなかった。
ちなみに『祭神』であるシンシアは『天神』アマルティアからの試練を受けたと聞いたことがある。ゼルギオスのようなガチ戦闘の試練ではなかったらしいが。
「普通に店で飲んでたら、急にアチーブメント達成して『酒神』になっただけなんだよねぇ。何かの条件を踏んだんだとは思うけど」
「私たちを模した神像はゼルギオスの神殿にあった。ふぉーりーのもどこかにはあると思うけど、そういう感じだともしかして単独の神殿が出来てたりするのかな」
「やだよぉ、祀られるようなことしてないのに」
けたけたと笑うふぉーりなー。
会話の間に彼女の前には空のジョッキが増えていくが、残光の影響で彼女に悪酔いが付与されることはないのは本当らしい。彼女にとってそれが幸せなのか不幸なのかは推し量れないが。
「で、キミたちは過去を隠すことにしたんだねぇ。面倒な方の道を選んだわけだ」
「別の生き方をしてみろって銀星も言っただろ」
「当の銀星本人はシンシアのためとはいえ、そのまま『槍神』のネームバリューを保持しているのにぃ?」
「ふぉーりー、何が言いたい。合同での行動にはともかく、個々人のプレイスタイルに口は出さないのが『四神連合』の掟だよ」
「いやねぇ? 自由な小鳥を籠に押し込めておいて、そんなことをお題目に掲げていたのが笑っちゃうなって」
カンナの表情が硬くなる。向かい合うふぉーりなーも、笑顔は浮かべているものの、目が全く笑っていない。
2人の間に流れる沈黙に、俺が耐えられなかった。
「ふぉーりなー。俺のことを言っているのなら、それはお門違いだ。俺はシンシアにも銀星にも、カンナやふぉーりなーも含めた他の全員に感謝している。俺が今こうやってゲームを続けていられるのは、みんなのおかげだ」
ふぉーりなーの顔から笑みが消える。しかし次の瞬間にはいつもの表情に戻っていた。頬を紅潮させ、胡乱な眼差しが俺へとまっすぐ向けられる。
「キミは本当に良い子に育ったね。お姉さんは嬉しいよ」
でもね、とふぉーりなーは続ける。
「以前の君の方が好きだったと言ったら、キミは困るかな?」
「困る」
「即答か、ますます好ましい。降参だ、酒に任せた冗談だったと流してくれ」
「酔えない体でよく言う」
「手厳しいなぁカンちゃん、臨戦態勢を解きなよぉ。このままじゃあビビッて話も出来やしないさ」
両手を上げて降参のジェスチャーをするふぉーりなーに対し、未だ腰溜めの位置から拳を下ろさないカンナ。
「何にせよ、過去を隠すってのはそう楽なことじゃあない。特にキミたち2人は正直者だからねぇ、ゴドー辺りにはもうバレてるんでしょう?」
「……セツナはまだバレてないし」
「だろうねぇ、まだセツナくんの方が良い子のフリは得意だろうし」
「なあカンナ、これ俺は喧嘩を売られてるのか?」
「やっぱり一発殴る」
「あいたあっ!? 本当に殴るやつがいるか!」
「よし、オート腐食反撃無し、まだ前世ほど理不尽じゃない」
「当たり前だろう!? まだレベル2だよお姉さん!」
腹部に渾身のストレートを撃ち込まれてえずくふぉーりなー。街中での攻撃だからかHPバーに変動はない。涙目になりながらよろよろと体勢を立て直す。
「まあ……既にバレてしまっているのなら、精々受け入れてもらうことだねぇ。名前を隠していても、プレイヤースキルは隠しておけない」
「カンナはそこからバレたからな」
「もうあんなヘマはしない……」
「カンちゃんがバレてるなら、セツナくんもさっさとバラした方が気楽かもしれないねぇ。そのところどうなの?」
「カンナやふぉーりなーに比べたら俺の知名度低いし……意を決してバラして、誰?って言われたら辛いし」
「変なところでみみっちいねキミ……かわいいけどさぁ」
しょうがないだろう。
『悪童』時代の俺ならともかく、『四神連合』としての俺の知名度は、最終日のアレ以外ほぼないのだから。
「まあそろそろ戻ろうか。あまりガンマたちを待たせても悪い」
ふぉーりなーがそう言って席を立つ。俺とカンナもそれに続く。
すると不意にふぉーりなーが振り返り、真剣な表情で尋ねてくる。
「ところで2人はこちらに来てから、神を名乗る声を聞いたかい?」
「カンナとふぉーりなーの声なら」
「それ以外に」
「システムメッセージ的なやつのことを言ってるのなら、ない」
「私も同じく」
ふぉーりなーの表情に安堵の色が浮かぶ。
「なら良いんだ。キミたちが聞いていないのなら、アレは神ではない何かということだろう」
「ふぉーりなー?」
「なんでもないさ。でも、私たちのように神に至ったデザバス勢に残光なんて問題の種を押し付けてきたってことは、制作側としても何か意図がある。このゲームには、何かがあるよ」
そう語った彼女の表情は、酷く疲れているように見えた。




