第16話 怒りのゴドー
「一体何を考えているんだバレット! 他の面々の意見も聞かずに参加なんて!」
「逆に何を考えてるんですかゴドーさん。こんなもの、参加しないデメリットの方が大きいに決まっているじゃないですか」
まったく悪びれる様子もなくバレットは答える。
先ほどの広場の喧噪から離れ、客の少ない酒場で顔を突き合わせている状態だ。
ゴドーは今日一で機嫌が悪い。当たり屋に絡まれていた時よりも。
「彼らも言ってたじゃないですか、デスペナの内容は、現状のレベルにおける経験値の喪失、所持金の半減、30分のリスポーン不可。次のレベルに至るまでの経験値、所持金が膨大なハイレベル帯ならともかく、今の私たちに失うものなんてほぼないんですよ」
デザバスをやっていないと言った割には勘定が早い。
装備品の損傷や消費アイテムの消耗、時間のロスを考えても、まだ討伐成功時の実入りに天秤が傾く。それに、とバレットは続ける。
「近距離アタッカー2人、タンク1人、後衛4人。私たちのパーティの構成は、目下の仮想敵であるサンダーバードに対して相性がいい。セツナさんとヤミの2人は、やや相性は悪いでしょうが、このパーティには私が居ます」
圧倒的な自負。まだこのゲームを開始して1日が経過していないにもかかわらず、私がいるから大丈夫だと言ってのけるバレット。
(目を塞ぐな。安心しろクロエ。どれだけ敵が強くても、どれだけ絶望的な状況でも、俺がここにいる限りは、勝利は俺たちのものだ)
その姿は、どこかかつての銀星を思わせた。
「随分と自信があるようだが、お前はあくまで現状他のプレイヤーと横並び、なんならデザバスを経験していない以上、それ以下かもしれないプレイヤーだ。どこに信頼を預けろと言うんだ」
「確かに私はデザバスをプレイはしていない。でもね、みんながデザバスをプレイした時間と同じくらいに、私は蒼穹を貫いていたんだ」
その一言で、俺は一つのゲームタイトルに思い至る。
『ストラトス・ブルー』。弾丸が蒼穹を貫く、のキャッチコピーでリリースされたVRFPSゲームである。
デザバスに先駆けてサービス終了をしたと聞いた記憶がある。そしてカンナも聞いた覚えがあるようだった。
「蒼穹戦線とは懐かしい。アレは私も一時期プレイしたけど、人を選びすぎる」
「俺はやったことがないけど、どんな感じのゲームなんだ? VRとは言えFPSなら撃ち合うゲームなんだろうが」
「その認識で正しい。ただし、自分も相手も亜音速で飛行しながらの撃ち合いだから、普通の人間はおすすめできない」
「……それ見えねえじゃん、相手」
「順応したプレイヤーなら見えるらしいよ。私は無理」
「自慢じゃないけど、不慣れなこっちでも見えてる相手ならまず外さないよ。それが人間であれ、モンスターであれ」
「バレットはね、そのゲームでは結構強かったんだよー。一番キレッキレだった時は全日本CSやワールドGPも優勝してたし」
バレットとはリアルでも繋がりがあるらしいミリンが、唐突にそんな爆弾発言を投下する。
「……それって日本一と世界一ってことでは?」
「ミリーは後でげんこつ」
「なんでぇ!?」
バレットがミリンに対してニッコリ笑顔を作ったところで、それまで沈黙を通していたゴドーが口を開く。
「……なるほど思い出した。バレット・サーティーン、確かにその名前をゲームショウのイベントで見た記憶がある。自信の出どころはよく理解した。だが話を逸らすな。俺が問題にしているのは勝てる勝てないじゃない。バレット、お前1人の独断で参加を決定した点だ」
ゴドーは静かにバレットを諭す。
聞いているだけの俺も自然と背筋が伸びる。隣を見たらカンナもやや表情が硬くなっていた。
「……それは、ごめん。でも、このゲームで初めてのエリアボス戦だよ。私たちの名前を売るには絶好の機会で――」
「誰もがそれを望んでいるわけじゃない。俺は……まあともかく、セツナやカンナはあまり目立ちたくない側の人間だ。あいつらに了承は取ったのか?」
「……取ってない」
「俺は別にこのパーティのリーダーになったつもりはない。だからキングボアの時も多数決を採った。正直言って、俺とセツナとカンナが居ればまず勝てる相手だったがそれでも採った。それが他の面々に対する誠意であり礼儀だからだ。わかるか?」
「……わかる」
「なら気をつけろ。お前は指揮官でもある。お前の強引な指示で、仲間を危険に陥れるようなことがないようにな」
「……はい、わかりました……」
目に見えてバレットがしょげている。
声を荒げてもいないのに、ゴドーが非常に怖く見えるのは、教師の説教のように聞こえるからだろうか。
「まあ、決まっちまった事を悔いても仕方がねえ。切り替えて、ここからは勝つための作戦会議だ。バレット、お前の弓が絶対に必要になるんだから、しょげている場合じゃないぞ」
「……弓使いのジョブレベルを上げて、拘束用の技を手に入れている。それで空から引きずりおろせば、近接2人もやりやすい、はず――」
思ったよりはこちらのことも考えていたらしい。
彼女の案を中心に議論しつつも、まずは生き残ることを優先でとゴドーが譲らなかったため、作戦会議は遠征部隊との合流時間ギリギリまで続くこととなる。




