第14話 バレット
「各々買い物と補給をして、ってゴドーは言ってたよな」
「はい、そうですね」
「君は矢の補充が急務だと思うんだが」
「はい、そうですね」
「なのに何故、俺に付いてくるんだいバレットさん?」
「まあまあまあ、気にしないでくださいよセツナさん」
そう言われて気にしないやつは普通いない。
みんなと一度大門で別れ、適当に通りの店を冷やかしていたら、いつの間にか隣に彼女はいた。
俺の記憶が正しければ、この通りに矢弾を取り扱っている店はないはずなのだが。
浅黒い肌にやや小さい背丈。
戦闘時にはルーキー3人の指揮を執りつつ、正確無比な射撃によって戦況を支えた初心者詐欺の新星。それが現状の俺から見たバレットという少女だ。
しかし今の彼女からは、先ほどまでの射手の超然とした空気は感じられない。
むしろ見た目相応、新しい景色に目を輝かせている子供のようなものを感じる。
「あれ、私の顔に何かついてます?」
「いや、戦闘中とは随分と雰囲気が違うな、と」
「それはセツナさんもですよ。さっきのカンナさんとのやりとりを見てたら、なんだか私の弟を思い出しちゃって」
「忘れてくれ。くれぐれも、念入りに」
「あははっ、セツナさんってお姉さんいたりします? なんというか、本当に反応が男の子、って感じがする」
「残念ながら俺は長男だ。妹ならいるが姉はいない」
「ふーん……絶対に弟だと思ったんだけどな」
俺に姉は居ない。
決してシンシアやふぉーりなーのような、姉を名乗る不審者に屈するわけにはいかない。
しかし、先ほどの暴挙を考えれば、そこにカンナも加わる可能性が高い。
あまりにも絶望的だ。勝ちの目がない。
未だくすくすと笑うバレットも、正直この一連の流れだけで苦手な香りがする。
「あまり子供が大人をからかうもんじゃないぞ、バレット」
「え? 私、成人してますよ」
「えっ」
「23です」
「えっ」
「見た目ちっちゃいから、子供だと思ったんですか?」
「……」
「まあいいでしょう。ところで私の予想だとですね」
「……」
「セツナくん、年下じゃないですか?」
無意識に後ずさる。
頭の中で危機管理センサーが、赤の警告灯を回し始めた。
そんな俺を見てバレットは、ニッコリと邪悪な笑みを浮かべた。
「あはっ、これビンゴだ。この手の予想外れたことないんですよね、私」
「個人的に君のことを、危険人物のカテゴリに入れることが決定した」
「やだなぁもう、そんな怖がらないでくださいよぉ。私ルーキー、怖くないヨ」
「本当に怖くないやつは自分を怖くないとわざわざ明言しない……!」
「んーいくつくらいかな。子供相手にわざわざ大人だと主張する辺り、20になってすぐくらいか、ちょっと背伸びして19ってとこだと思うけど」
「降参するので助けてください」
冷や汗が止まらない俺の顔を、下からにたにたと覗き込むバレット。方向性は違うが、こいつもシンシアらの同類であると確信する。
凄いぞゴドー。お前の見つけた新人に、俺は今負けそうだ。
手慣れているし、怖い。
「取って食べたりしませんって。ちょっと言動が引っかかったから、つついただけです。満足満足」
「バレットさん、弓矢に関するNPCのショップは向こうの通りになります。ではこれにてさようならまた後で大門で」
「滅茶苦茶距離取ってくるなぁ……良いじゃないですか、2人で一緒にお買い物。知っての通り私デザバスやってなかったので、街の地理もさっぱりなんですよ」
悪気はちょっとしかなかったんですよぉ、と弁明するバレット。
あるんじゃねえか、悪気。
しかし彼女の言う通り、この街に関しては俺の方が詳しいのは確かだ。
「……からかわないこと。それが条件だ」
「あらあら、随分とお可愛らしい条件。まあ、聞き入れてあげますよ。私、お姉ちゃんなので」
「心の底から拒否したい……」
「ほら、行きますよセツナさん」
それからバレットと連れ立って剣と盾の補修や、矢弾の補充、美味いサンドイッチの買い食いなど時間をつぶす。
途中からこれは一般的にはデートと呼ぶものではないか、と考えもしたが、彼女への苦手意識が先に立ったため、頭の中で一蹴する。
そして約束の時間に2人で現れた俺たちを見て、カンナの表情が固まる。
「……ふーん。随分と、仲が良さそうだね?」
「誤解しないでくださいねカンナさん。私がこの街に不慣れなのを見かねたセツナさんが案内をしてくれてたんですよ。カンナさんのを取ったりしませんって」
「ならいい」
「俺はカンナのものではないし、色々捏造したなバレット?」
「あら、じゃあ全部赤裸々に話しちゃいます? 2人だけの秘密」
「俺の負けだ。早く殺せ……」
「2人だけの秘密……!?」
「ほらあ面倒なことになった!」
その後、適度に俺の醜態を隠蔽しつつ誤解を解き、混乱するカンナをなだめるために俺のおやつは犠牲になった。
いいけど、それでいいのかカンナ。




