幕間.01
「堪能した」
「さいですか……」
カンナがニコニコ顔で俺から離れる一方で、ゴドーらは非常に怪訝な目で俺たち2人を見ていた。
何も言ってくれないのが逆に辛い。そんな目で見るな。
そしてまるで何もなかったかのように、カンナが切り出す。
「それじゃあどうする? もう少し狩るか、街に戻るか」
「俺的には一度街に戻って一呼吸つきたいところではある。バレットはともかく他の3人の消耗は軽くはない」
「私も戻るに一票。シンプルに矢弾が尽きかけてる」
「戦闘も疲れたけど、その後の方が疲れたよ~」
ミリンがそう言うと、卯月や闇食みも頷いて同意する。
ゲーム開始初日から悪質プレイヤーに絡まれたのだからさもありなん。
「なら話は決まりだ。一度戻って補給をしよう」
「異議なし。各々買い物と補給をして、大門前に集合で」
ゴドーとカンナがまとめ、パーティ一同が帰路につく。
先ほど野次馬に来ていたプレイヤー達に、すれ違い際に軽く挨拶をしていると、どこからか視線を感じた。
辺りを見渡してみても視線の主は確認できず。小さな違和感を残したまま大門をくぐる。その違和感には覚えがあったが、どうしても思い出せなかった。
「……あれが、今代の冒険者」
「そうとも。忌々しい神どもも、所詮は2番煎じの手しか打てないようだ」
大門のはるか上空――地上からでは芥子粒とすら認識できない彼方に視線の主は浮かんでいる。
その傍らには襤褸を着た骨の体を震わせる異形が控えている。
カタカタと揺れるその頭蓋からは、燐光が漏れ、吐息として吐き出されている。
「今ならば文字通り、赤子の手を捻るように処分ができるが」
「無粋な真似をしてはいけないよ。彼らは”世界の試練”に挑む中核となる存在だ。そして君の言う通り、彼らはまだ生まれ落ちたばかりの赤子なんだ」
頭蓋の揺れがぴたりと止まり、溢れ出る燐光が青白に変じて燃え盛る。
それは相手を射竦めるように瞬き、言葉に熱を宿す。
「確かに君は、いずれ彼ら9人に相対することになる。これは私の予想ではなく、ヴォルケインが示した絶対の未来だ。だがそれは今じゃないし、ましてや彼らは被害者なのだから」
熱ではためく襤褸の隙間からも燐光が脈動する。
「『神の残光』とは祝福ではなく呪いだ!」
「ワールドクエストなどという過去の残骸を、終わらせるためにばら撒かれた因果の鎖だ!」
「それは彼らを逃がしはしない!」
「それが最善であるかのように錯覚させ!」
「その力の意味も理解させずに!」
「世界を喰い荒らす虫を停滞させるための200年を!」
「ただ箱を見ていることしかしなかったあいつらに!」
吐き出される言葉は、何重にも重なってがなり立てている。
こうなっている間は、言葉が通じるかが非常に曖昧となってくる。
『』はいつもの癇癪が始まった、とその半分以上を聞き流す。
「お前の言っていることは正直に言ってほとんど分からない。だけど彼らがこれから必要となるならば、近々の接触を避けよう」
『』の言葉に骨の魔人は冷静さを取り戻し、謝罪する。
炎の勢いも幾分か弱まり、穏やかな青緑を湛えたものに戻る。
「すまないね。だがそれで良い。君にとっても、彼らにとっても」
「だが私は気がそこまで長くない。期限を定めよう」
「……10年の月日をもってしても”世界の試練”は完遂されなかったよ?」
「だからこその彼ら、なのだろう?」
「目的と手段の逆転は、道を間違えるよ」
「そのためにお前がいる」
「外の者は今の私のような職場環境を、ブラックというらしいね」
「一番お前の青緑が映える色だ」
骨の魔人は答えを返さない。彼もまた遥か下を見ている。
空っぽの眼窩に灯る燐光が映すのは3人の名前。
セツナ・リンドー。
環七。
そしてもう1人。
「ああ……セツナ、試練の時は遠くないかもしれないね」
「世界は再び始まった。私は、今度こそ何かになってみせるよ」
その言葉は、誰の耳にも届くことはない。
人にも、神にも、誰にも。




