第13話 『悪童』
人の頭に躊躇なく金属バットをフルスイングできるのは余程覚悟が決まった奴か、頭がイカれてる奴かのどちらかと言われている。
無防備な相手の顔面に全力で蹴りを叩き込めるというのもそういう反社会的な素質なのだろう。
その昔、デザバスを始めて3年目のとあるプレイヤーがいた。
彼は技術的にも装備的にも未熟で、対人戦で勝つためには手段を選ばなかった。
不意打ち闇討ちなんでもござれで決闘ランキングを駆けあがり、銀星に完膚なきまでに叩きのめされるその瞬間までそのプレイスタイルを貫き通した。
その後、少年はシンシアにもぶちのめされ、『四神連合』に加入させられ、一からマナーと礼儀を叩き込まれることになる。
その日々がなければ少年は、今目の前で伸びている男のようになっていたのかもしれない。
その少年の通り名こそ『悪童』。
プレイヤーネームは、クロエ・アサルトバスター。
「てめえ、いきなり何をしやがる!」
スキルも使っていない蹴りの一撃で、意識を消失するなどということはない。
男は憤怒の形相で俺を睨みつけ、腰に提げた野太刀に手をかけるが、遅い。
「反応が鈍い。それじゃあキングの突進は躱せないだろうさ」
足元に転がる牙の大剣を拾い、即座に空いた手でコマンド操作、装備、スキル発動までを一呼吸のうちに完了させる。
重剣単発スキル、クライムザッパー。
立ち上がろうとした男へと一閃。
HPを全損こそさせなかったが、腕がなければ刀は振れない。まず一つ。
「お、俺の腕? 腕がねえああああああああああっ!?」
呆気にとられる取り巻きへと突貫。あまりに対応がお粗末。
スキルを使うまでもない、剣の腹で顔面を振り抜く。
めぎ、と鈍い音と共に一人を払いのける。二つ。
「調子こいてんじゃねえぞガキャアッ!」
「不意打ちがしたいのなら口を開くんじゃねえよ、間抜けが」
斧を振りかぶった三人目のがら空きの腹を蹴り抜くと、その場で悶絶して倒れる。
痛みやダメージは微々たるものでも、衝撃は伝わる。
デザバスをやる直前に腹一杯食事をした状態で腹部へのダメージを受け、現実の体が嘔吐して搬送された事案がある程度には。息ができなくなる感覚は仮想でも耐えがたい。三つ。
「……で、まだやるか?」
3人を即時に制圧し、残りの面々に対して宣言する。俺に向けられる目線からは恐怖、怯えの色が見える。
実際のところ、手応えの感じからして、俺とこいつらにそれほどステータス上の差はないように思う。
冷静になられてまとめてかかって来られたらまず勝てない。だからこそ初動とインパクトで戦意から折る。
「問答無用で全損させて、デスペナをくれてやってもいいんだ」
剣先をリーダー格の男に突きつける。
昔の俺ならば躊躇なく全員を全損させていただろう。
だが今は人目もある。シンシアからの教えもある。わざわざ『悪童』をやり直す必要もない。
「二度とこちらに関わるな。さもなくばギルドの流儀に則り、監獄に叩き込む」
「わかった、降参、降参する!」
「さっさと消えろ。視界に入っているだけで不愉快極まりない」
「お、お前ら!街に戻るぞ!」
男たちは這う這うの体で街へ逃げ込んでいく。一呼吸ついて辺りを見渡すと、まばらではあるが野次馬が出来ていた。
「良いぞ―兄ちゃん! 迷惑プレイヤーは調子に乗らすとろくなことがねえ!」
「見事な剣捌きと蹴り、はてどこかで……」
「カッコイイ……」
「えーと……お騒がせしました。皆さんも、今のような当たり屋行為はマナー違反です。十分にご注意ください。では、良きデザネクライフを」
無駄に目立ってしまったが、あれだけ言われては流石に我慢が利かなかった。
あの銀星に安心して送り出せると言ってもらったのに、初日からこのザマでは今後が思いやられる。
「カンナも見事なもんだったが、セツナも相当やるなぁ」
「ただの不意打ちですよ。まともにあの人数を相手取ればまず勝てません。これ、
牙の大剣はお返しします。無茶をしたので多少耐久値は減っていますが」
「いや、それはお前さんが持ってると良い、なかなか堂に入った重剣術だった。片手剣なんかより余程使い慣れているんだろう。でもって、そもそも俺たちのパーティでそれを使えそうなのはお前だけだ。遠慮なく使ってくれ」
「……では、ありがたく」
大剣をストレージにしまい込み、カンナに目をやる。
キングと戦っていた時とは違う、今一つ心情を測れない表情。
ギルドであれだけ教育されたのに、こんな行動を起こした俺に怒っているのだろうか。それとも悲しんでいるのだろうか。
「セツナ」
「……お叱りはいかようにも」
「怒ってはいない。そっちは銀とシンシアの領分だから。それに、セツナがやらなきゃ私がやってた。あの手の連中は初心者に対して害でしかない」
「それはそうだけど、なんというか。銀星たちに申し訳なくて」
「そうやって反省が出来ているのなら、良いんじゃない。それに2人も、ああいう奴らは嫌いだったし。その上で私から言うことがあるとすれば」
カンナの手が俺の頭に置かれ、そのまま優しく撫でる。
彼女の表情は、とても優しい笑みをしていた。
「よく頑張ったね。お姉さんは嬉しい」
「やめろってそういうの! 何度も言うけど、もう子供じゃねえんだから!」
「シンシアの気持ち、ようやくわかった気がする」
「それ絶対良くない気付きだから! 公衆の面前だぞ!?」
ニコニコ顔で俺を撫でくり回すカンナの拘束は数分間に渡って続いた。
それを無言で見守るゴドーらの心境がいかなるものであったのかは、恐ろしくて聞けない。




