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千夏ルート 二十一


「ずいぶんと念入りにトラッシュを消してくるじゃねぇか」

「当然。千夏が今回組んでくるデッキも、プレイングだって予測できてたからね」


白栞は、千夏の会心の一手を読んでいた。


「この前、学校で話した時に思ったんだ。千夏は絶対に勝ち上がってくる。どこかで私と当たるだろうって」

「なら、私に勝てるデッキを組んでくる」

「千夏の好み。地区大会で使ったデッキ。そこから考えれば、〈晩夏招来〉で短期決戦をしかけてくるのは読める」

「でも、それだけじゃ足りない。私に勝つなら、最低でももう一手……〈悪鬼羅刹・ジエンド〉を封じるカードが必要になる」


まるで犯人の目の前で推理を披露する名探偵だ。

顔の前でピッと立てた人差し指まで、妙にそれっぽい。


「条件が合うカードなんて、そう多くない。すぐに〈禍鳥封刖―ミコト―〉に思い至ったよ」


さも簡単そうに語る白栞だが、それがいかに異常なのかはこの場にいる誰もが理解できる。



「ありえないわ……数十年分のカードプールよ? そこから一枚を読んだっていうの?」

「しかも水城さん戦で見る前に、っすよね。記憶力どうなってんすか」


水城は驚愕の表情を浮かべていた。

実際、直前の試合で奇襲に使われて敗北しているのだから、その衝撃は大きいだろう。

土間ですら、わずかに驚きを見せるほどだ。





「というか」


白栞は、不思議そうに首を傾げた。


「〈禍鳥封刖―ミコト―〉は、結翔が五年前の五月九日に使ったじゃない。それくらい覚えてるよ」



「あ、これ記憶力とかじゃないっす。重いっす、愛が重すぎるやつっす」

「当の本人ですら日付まで覚えてないんだが」


あいつ本当に怖い。



「でも、あんなにデッキの枠を取って構築難易度が上がるカードを採用しなくても、久遠さんなら普通に勝てるはずよ。どうして、そこまで……?」


そもそも、今の【オーガビートダウン】に〈終焉悪鬼・アポカリプス〉は必要ない。

安定性も火力も、妨害札も、普通に積める。

むしろアポカリプスは、勝つためというより「そういうデッキを使いたい」時のカードだ。


キーカードをわざわざゲームから取り除き、強力なエースカードを犠牲にしてまで召喚する。そんな動きは、どう考えてもトーナメント向きじゃない。

プレイはより繊細になり、構築難易度も跳ね上がる。場合によっては、手札が噛み合わないことだってある。


「だから、だろ」


だからこそ、あいつは今回そういうデッキを選んだ。

きっと、俺に見せるために。


「世界に対して、自分の強さを見せつける。それで自分の価値を証明できるって、あいつは信じてるんだ」


そんなことをしなくても、お前は十分すぎるほど凄いよ。

俺とは住む世界が違うんだって、子どもの頃の俺にも分かってしまうくらいに。

十年一緒にいた今だって、それは変わらない。




白栞。

やっぱり、お前は遠すぎるよ。






―千夏side―



「気に入らねぇ」


気付けば、口が勝手に動いていた。


「お前の気持ちは、一方通行だ。押しつけもいいとこだ」

「今はそうかもね。でも、結翔だってきっと分かってくれるよ!」


アタシの言葉を、白栞は否定する。

曇りのないその双眸はアタシを、そして後ろにいるであろう結翔をしっかりと見据えて。


「だって最後に勝つのは、変わらぬ愛だから!」


まるでドラマのヒロインみたいな言葉を、迷いのない澄んだ目で言い切った。


「いくよ千夏!〈終焉悪鬼・アポカリプス〉で攻撃!」


スクリーンに映る巨大なしゃれこうべが、刃こぼれした大刀を振りかざす。

終焉悪鬼の攻撃は、アタシのライフを大きく削った。さっき回復に回っていなければ、このターンでライフが尽きていた。

そこまで計算していたのだろうか。ライフは残り一点、風前の灯ってやつだ。


「変わらぬ愛、ねぇ」


こいつは本当に、自分の想いをためらわずに口にする。

それを、アタシはずっと羨ましいと思ってた。


「十年もずっと、諦めずに結翔を好きでいたのはすげえよ」


羨んでばっかじゃダメなんだ。

そこから一歩を踏み出さなかったのは、アタシが臆病だったからだ。


なら、今度はどうする?


「アタシはさ。最近、アイツとたくさん一緒の時間を過ごした。……それで、やっぱ思ったんだ」



羨ましいなら、アタシもそうすればいいんだ。


「アタシは、やっぱりアイツが……結翔が好きだ」


口にした瞬間、胸の奥につかえていたものが、すっと解けたような気がした。


「一度自覚したら、その気持ちは日に日に大きくなっていった。今だってそうだ。大事な試合中だっていうのに、あいつが後ろで見てくれてるって考えるだけで嬉しくなる」


悪態を吐いた。遠慮せず言い返してくれた。

弱音を吐いた。らしくないなんて言わず、全部しっかり聞いてくれた。

うずくまって歩けなかった。同じ痛みを持ってるのに、率先して前を歩いてくれた。

悩みを隠した。詮索もせず、気晴らしに付き合ってくれた。

無茶を言った。呆れた顔をしながら、最後まで付き合ってくれた。


その度に気付いた。あいつのことが好きなんだって。どんどん好きになっていってるって。


「ずっと変わらないだけのやつに負けるかよ」


十年不変?笑わせんな。


「この感情は、もう止まらねえ。溢れ続けるこの気持ちは、誰にも止められねえ!」


水城セリア曰く、ちょっと欲張りなぐらいが、女の子は魅力的らしい。


なら、アタシも少しだけ欲張りになってみよう。




ずっと近くにいた天才に対して。

ずっと隣にいた想い人に対して。

そして、その気持ちをずっと封じ込めてきた自分に対して。


「お前との決着も、日本一の称号も!」


心の底から。

魂の最奥から。

一滴残らず、自分の想いを絞り出すように。


「そして結翔も!全部、アタシがもらう!」



アタシの叫びが、届けばいいーー!



「気持ちだけじゃ勝てないよ! 切り札を封じられた状態で、どうやって勝つの!? トラッシュを溜め直す時間なんて、もう無いよ!」



手札は二枚。ライフは一点。盤面はガラ空きで、トラッシュにカードは残ってない。除外されているカードは十四枚に及ぶ。

対して、白栞の場には強大なパワーを持ったバケモノじみたガーディアンが一体。ライフは八点。


状況は誰が見ても明らかだ。隠し玉は召喚できず、フィニッシャーも使えない。


あの白栞を相手に、ここまでよく持ちこたえた。よく耐えた。

もう充分だ。やれることは、全部やった。



もう。







我慢するのは、終わりだ。






「切り札を封じた?何のことだ」


大会中、戦いたいのだとずっと手札で主張しつづけてきた一枚のカードに、ようやく手をかける。


「ちょうど、アタシの切り札が出せる条件が整ったところだぜ」



さあ。

これが最後の勝負だ。

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