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千夏ルート 二十

とても時間がかかってしまいました…申し訳ないです…。


「いやあ、面白い試合でしたね。特に燎さんの切り札はいい着眼点だったっす」


千夏と水城の試合後、土間はポップコーンを食べながら満足気につぶやいた。


「でも、ここで切っちゃって良かったんすかね。あれ、本命はオガビ対策では?」

「まあ、そうだな」


本来はあれを隠したまま白栞との対決に挑むつもりだった。

土間の言う通り、あれで鬼門を破壊し、悪鬼羅刹の召喚を防ぐ予定だったのだ。


「ああいうカードは奇襲性の高さが最大の武器っすよ。仕方なかったとはいえ、あそこで切り札を切ったのは……」


あの試合に勝つためには使うしかなかった。とはいえ、これで優位性が一つ失われたのは事実だ。千夏もそれは分かっているだろう。

ミコトをプレイする直前に躊躇っていたのを、俺は見逃さなかった。




「お隣、失礼するわね」


と、不意に横から声をかけられた。

透き通った声音は、上品な響きがした。どこか聞き覚えのある声に目を向ける。


「み、水城!?」


そこには、先ほどまでステージ上で千夏と激闘を繰り広げた、水城セリアが立っていた。


「衣川双葉の制服……。久遠さんと燎さんの応援の方かしら」

「俺は、まあそんな感じだ。横のうるさいのはショップ店員」

「誰がうるさいのっすか!先輩だってショップバトルではよくうるさいって言われてるでしょー!」


そういうとこだぞ。とは言わないようにした。


「選手は控室でゆっくり観戦できるんだろ?どうしてここに」

「私の応援として、友人招待していたのだけれど……体調を崩してしまって」


招待枠なのに、空席のままじゃもったいないでしょう?と続ける水城。


「それに、私を下した燎さんの試合は近くで見届けたかったのよ。あの久遠さんにどこまで食い下がれるのか……ね」

「さて、どうだろうな」


ここに至るまでの、千夏との練習の日々を思い出す。

あいつなら、きっと。



「食い下がるどころか、喰らい尽くすかもしれないぜ」



♢♢♢


《泣いても笑っても、これが最後!日本一が、今決まろうとしています!》


会場は、今日一番の熱狂に包まれている。



《決勝戦は、まさかまさかの組み合わせ!どちらも高校生!それも、同じ学校の選手!仲良くワンツーフィニッシュなんて、強すぎるぞ衣川双葉高校ー!》


いかんせん所属が同じ部活なので、うちの学校の注目度が爆上がりだ。

だが、今年のアビカ甲子園は早々に敗退してしまっている。白栞と千夏が出ていたら、そちらも全国大会まで行けたのだろうか。


《もはや説明不要!大人気インフルエンサーにして、アマチュア最強と名高い久遠白栞選手!冥界の鬼すら従えて、ただの一度も敗北無し!このまま全勝優勝を成し遂げるのかー!?》


実況の紹介と共に、スモークが焚かれた奥のゲートから白栞が入場してくる。インフルエンサーらしく、観客へのアピールやカメラ目線までバッチリだ。

この大舞台に立って尚、緊張なんてかけらも見られない。


《対するは、烈火の如く怒涛の攻めで勝ち上がってきた燎千夏選手!本大会の平均試合時間はおよそ十分という驚異のスピード!このまま最強を打ち破れるか!?》


先ほどとは反対側、手前のゲートから、今度は千夏が入場した。

その瞳は、先にステージで立つ白栞にまっすぐ向けられ続けている。



―千夏side―


もっと緊張するかと思っていたが、いざステージに立つと緊張はまるで感じなかった。

とはいえ。落ち着いているわけでもない。


「結翔はなんでそっちにいるのー⁉私の方にいてよー!」


アタシの後ろ側の観客席に向けて、白栞が大声で叫ぶ。


ちょっと前のアタシなら、どうしただろう。

きっと、気にも留めなかっただろう。呆れた顔でツッコミでもしてたかもしれない。

勝負も何も最初から諦めて、バカップルなんて呼んで。

お似合いな二人だなんて、自分に言い聞かせてた。


「どこ見てんだ?白栞」


そんなダサい真似は、もうやめだ。


「よそ見すんなよ。お前の相手はアタシだろーが」

「目標を見据えてるの。路肩の小石なんて眼中に無いって、言わなきゃ分かんないかなぁ」

「足元がお留守じゃあ、コケて怪我するぜ」

「砂利で転ぶほど間抜けじゃないよ」


《既に両選手フルスロットル!所属も前評判も関係ナシ!今ここで相対するは、日本一をかけた二人の戦士だ!伝説の瞬間をしっかり見届けろー!》


実況が慌てたように観客を煽る。

仲良くワンツーどころか、バチバチにやりあっているのを見て何か察したのだろう。


席に座り、デッキをシャッフルしていく。

対面に座ってこちらを向いている白栞は、なんだか新鮮だった。


「いくぜ、最強さん」

「きなよ、アグロヤンキー」


そして。


《AWG決勝戦!バトル、スタート!》


戦いの火蓋が、切って落とされた。


「いくぜ、アタシの先攻!」


序盤はシンプルだ。小型のガーディアンを展開して、速攻でライフを削っていく。


「〈鳥人族の見習い兵〉を召喚!手札を一枚捨てて、一枚引く」


手札を整えて序盤に並べるカードを引きに行く。同時に、トラッシュにカードを送ることで、〈晩夏招来〉などのコストを確保できる。

手札は一見悪くないが、低コスト帯への除去に弱いようにも見えた。少し考え、最低コストのガーディアンを切る。

引いたカードは三コストのガーディアンだ。


「番を終わる」

「私のターン。コストチャージのみでエンドだよ」


間髪入れずに白栞が番を返してきた。


こっちはターンが進む度、カードを盤面に出して攻撃する。

除去されなければ、ダメージは雪だるま式に大きくなっていく。

初手を見てから瞬時に組み立てたプランニングを、ほぼノータイムで指し続ける。これで大半のプレイヤーは盤面とプレイの勢いに圧倒されるのだが。

目の前の相手は、まるで焦る様子もない。


試合開始からまだ二分だというのに中盤に差し掛かろうとしていた。


「〈東の鬼門〉をプレイ。トークン生成は行わず、〈西の鬼門〉をサーチして終了だよ」


防御やこちらのガーディアンを殲滅するためには、トークンを展開する必要がある。

それをしないということは、既に除去する算段があるのだろう。

このターン、低コストガーディアン二体を並べる予定だったが、先ほど引いた三コストのガーディアン一体で終える方が安全そうだ。


「〈棍使いの鳥人兵〉を召喚する」


カードを盤面に展開しながら、白栞の表情を見やると、こちらを真っすぐ見据えつつも口元には笑みが浮かんでいた。


「余裕そうだな」

「ライフ一点までは貰い得、ってね」

「格言だな。……全てのガーディアンでアタックだ」


試合が始まっても、部室での様子と何ら変わらない白栞。

ブラフというわけでもないだろう。ライフが半分を切ろうとしても、捲り返せる算段があるのだ。


「まあ、小型ガーディアンもそろそろ放置できないか。〈地獄のしめ縄〉をプレイ!私のライフをコストに、千夏のコスト二以下のガーディアンをすべて破壊するね」

「チッ……」


白栞のカード一枚で、こちらのガーディアン二体が破壊される。枚数的なアドバンテージを取られた形となった。

やはり、小型だけで押し切れるような相手ではない。先ほどの判断は正しかったか。



その後も攻防が続く。

序盤は順調に攻め手を増やしてライフを削れていたが、中盤ともなると除去も撃ちやすくなる。白栞は適度に展開しつつ、除去も挟んで盤面を荒らしてくる。


カードの応酬の末、アタシの盤面に残ったガーディアンはわずか二体。手札も二枚しかない。

対して白栞は場に三枚の鬼門カード。トークンは二体おり、手札は四枚。

リソースの差では大きく離されている状態だ。

だが。


「おかげでトラッシュはしっかり溜まった!いくぜ、〈禍鳥封刖―ミコト―〉を召喚!」


水城との戦いで、アタシを勝利に導いた秘蔵の一枚。

作られてから数年間、一度も環境に君臨した過去も無いにも関わらず、この大舞台で猛威を振るわんとする無冠の帝王。

ここで着地に成功すれば、白栞の鬼門カード一種類をすべてトラッシュできる。場に四種類の鬼門があることが召喚条件である悪鬼羅刹を封じるには最適の一枚。






そのはずだった。





「千夏さぁ。甘いよ。甘い甘い」


白栞は、手札の一枚にそっと指をかける。


「カウンタースペル、〈冥府の底へ〉をプレイ。場の鬼門カードをすべてゲームから取り除いて、ミコトの召喚を無効にする」

「なっ!?」


戦場に突如発生した黒い渦が、鬼門と悪鬼羅刹を巻き込んで大きくなっていく。

そしてそれは、千夏が召喚しようとしたミコトをも巻き込むと、音もなく消えていった。


ディスプレイに表示されるエフェクトに過ぎないはずのそれは、まるで現実にも表れたかのようだった。

何千人と観客がいるはずの会場の音すら消し去ってしまったのだから。




―結翔side―


「自分から鬼門カードを消した……?」


〈冥府の底へ〉は鬼門をコストにする性質上、自ら勝ち筋を手放すようなものだ。

カウンターなら、もっとコストの軽いカードを採用すればいい。無効化の対象に制限は設けられてしまうが、現代のアビカの競技シーンにおいては十分なはずだ。


「実際に使われて思ったけれど、〈禍鳥封刖―ミコト―〉は状況次第では相当なカードパワーよ」


静寂の中で、隣の水城がポツリとつぶやいた。

土間の声がそれに続く。


「リカバリープランの無い【オーガビートダウン】なら、ミコト一回で〈悪鬼羅刹・ジエンド〉の登場は不可能になる。だからって、あんなノータイムで切り札を捨てられるかと言われたら……アマチュアリーグじゃ、その判断ができる選手なんて稀っす。きっと、サブプランがあるはず」


サブプラン。そうなのだろうか。

あの白栞が、想定外の対応用に使うかも定かではないカードなんて入れるのだろうか。



「違う」


白栞は読んでたんだ。

千夏が、白栞を打ち崩す一枚を用意してくることを。そこに至れるということを。


つまり。




「これこそが白栞の、千夏戦での本命プランだ……!」



白栞のターンが始まる。

もう揃うことのない鬼門を展開すると、トークンを生成しはじめた。


「ほらほら。頑張らないと押し負けちゃうよ?」

「クソっ……〈夢見た朝焼け〉をプレイ!アタシのライフを回復して、悪鬼トークン一体を次のターン行動不可にする!更に、〈命がけの生存戦略〉を発動!通常コストに加えてライフを二点支払い、カードを二枚ドロー!」


スペルを使って体勢を整えつつ、再びトラッシュを肥やしていく。

千夏はまだミコトを諦めていないのか。あるいは、〈晩夏招来〉を狙っているのか。



「千夏の良くないところだぞー、ここぞって時に受けに回るの。初志貫徹が大事でしょ?」


それをあざ笑うかのように、無駄なあがきだと言わんばかりに。白栞は余裕の笑みで千夏を煽っていく。


「さて、私のターン。〈地獄の反乱計画〉をプレイ。手札の鬼門一枚をゲームから除外して、次のターン開始時にコストを二点増やす」


白栞は手札を減らし、鬼門をさらに取り除いてまでコストを確保しにいった。


「鬼門カードをまた取り除いた……。久遠さんは一体何を狙っているの?」


水城には、白栞の狙いが分からない。

俺よりこいつの方が、競技シーンには詳しい。環境への理解も、各デッキに採用される次善の策も、きっと俺より把握してる。

そして俺は、コンボデッキに傾倒してきた。本音はどうあれそれは事実で、そして白栞はそれを知っている。


ゆえに水城は気付けない。白栞のプランを。

ゆえに俺は気付くことができる。白栞の思惑を。


「そもそも、〈悪鬼羅刹・ジエンド〉はかつて存在していたとあるマイナーなデッキの救済措置として作られてた。結局昔のカードを入れないほうが強いし安定するってことで、今の【オーガビートダウン】にはまず入ってないけどな」

「自分がアビカやる前のカードっすね。目は通したけど、大会で使うには全然適さないカードだった記憶はあるっす」


ショップ店員の土間ですら、効果の全貌は覚えていないようだった。

無理もない。アレは、ロマンが過ぎるのだ。わざわざデッキの出力と安定性を下げてまで採用することは無いし、目にする機会なんて無いだろう。


アビカに描かれているガーディアンたちは、異世界の生物たちという設定がある。

その世界の中でオーガ達を従える存在がいる。

それが。


「いくよ千夏。〈終焉悪鬼・アポカリプス〉を召喚」


悪鬼羅刹を凌ぐ巨体と、瘴気の合間から見える鋭い眼光。

スクリーンに表示されたその姿は、悪鬼の名にふさわしい恐怖を感じさせる。


「登場した〈終焉悪鬼・アポカリプス〉の効果により、終焉悪鬼以外の場のカードを破壊」


白栞のトークンも、わずかに残っていた鬼門も、千夏のガーディアンも。

すべてが消滅していく。


「そして、破壊処理の終了後。お互いのトラッシュをすべて除外する。これでもう〈晩夏招来〉も〈ミコト〉も、プレイする条件は満たせない」


千夏のアグロは、ただ速攻で駆け抜けるだけではない。

全体除去に押し切られないよう、対策としてトラッシュにカードを蓄えた後のプランが採用されており、それをゲームプランに組み込んだデッキとなっている。

その対策すら読み切られて、対策されている……!




「さて。万策尽きたなら投了してもいいよ?作業ゲーは好きじゃないからさ」


多分あと2〜3話で完結です。

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