第五十六話 たまに頭良くなるだけで基本はアホだから
カノンが的確な状況分析をした
アランシアの街の中心。周囲のしっかりとした建物たちと比べて明らかに突貫と言わざるを得ない建物がある。板が打ち付けられた壁に、キラキラと豪華に見せるような傾いた装飾。灰色の獣の毛があたりに散らばり、ときおり遠吠えさえも聞こえる。縄梯子で3階まで登った先には、後ろに手を組んで真っ直ぐに立つ何体かの裾の破れた服を着た狼の獣人と、それに囲まれて椅子にふんぞり返る1体のスーツを着た狼の獣人がいる。
「結局、その竜族は?」
「今の所、報告はありませんアジタート様。しかし……」
取り巻きのうち1体が言い淀む。
「多数の魔力痕と突破された柵が確認されました。身体は、霧の中へ消えたかと思われます」
別の1体がはっきりと言った。目線は宙。そして、唸り声とも聞こえるため息が響く。
「俺に報告すべきことを報告しようとしなかったお前と……俺の機嫌を損ねたお前。飛べ」
あまりにも簡単に、軽々しく行われた指示を口を開いた2体の狼の獣人は一つ頷いた。そして、あまりにもあっさりと、窓と言うにも簡素な四角い穴へ向かい、あっさりと飛び降りた。アジタートと呼ばれた狼の獣人は、足の爪で床をコツコツと叩いている。
「……外が騒がしいな……?」
「行け行け行け行け今今今チャンスチャンスチャンス!」
「ガバ警備過ぎる方が悪いんですこういうのは!」
フーガとカノンは、アランシアの街で騒がしく、街中を疾走していた。
「アジタートどこだアジタートいるのは分かってんだ逃げんなよ!」
「フーガさんフーガさんあのでっかい建物とかいそうじゃないですか?」
カノンはピタッと足を止め、視線を向けた先は街の中心だった。少しひらけた場所からなら簡単に見ることができたそれは、打ち付けられた板に傾いた屋根やくすんだ装飾と、いい印象を与えなかった。
「……いや獣人とは言えあの廃墟にリーダーがいるわけないだろ」
「やっぱそうですよね。あのボロ屋敷なんてさすがにいませんよね」
「あんなデカいだけセンスないの無視しとけばいいよ。気味悪いし」
そしてフーガとカノンはそれに近づこうとはしなかった。
「おーい。そこの魔族たち!」
しかし、その近づかないよう決めた方向から2つの声は聞こえた。また進もうとそらしていた視線をもう一度戻す。
「反逆者一行だろ。噂の?」
「いやはやいやはや。お目にかかれるとは思わなんだ」
狼の獣人が笑顔を作りながら寄ってくる。
「……敵!」
「違う違う俺ら敵じゃないよ?」
「敵じゃないんですか?」
「そそ。味方ってこったよ大体」
「ま、俺らは戦闘じゃ協力できないけどね?」
「そうそう。元ボスとはいえそういう本能だしさ」
2体の狼の獣人は笑っている。
「えーっと……つまり情報をくれるってことでいいんですか?」
「そういうことよ?」
「なんかクセ強いな」
語尾が上がり調子の狼の獣人は、歩いて来た方向の大きな建物を指さした。
「あそこにアジタートはいるよ?」
「え結局あの廃墟だったの」
「そそ。3階にいるのさ」
「ふんぞり返ってるんだよ?」
「うんうん。部下を飛び降りさせるぐらい傲慢。なんならなんならMiddleクラスはあのぐらいの高さから落ちてもなんも問題ないことも計算に入れられないバカ」
「結構言うな」
「いい感じに抜け出す口実ができたからね? これからどうしよっかなってところなんだ?」
「じゃあじゃあ俺らは行くから、がんばっておくれ」
次回 第五十七話『敵の本拠地ぶっ壊しスペシャル』
10/31 (土) 20:00更新予定




