第五十五話 フーガが舐めプをして爆散する回
ラルゴが狼の獣人を薙ぎ倒した。
「カノンカノン」
「はいはい」
「ド級のナントカって言うときのさ、ド、ってなんのドだと思う?」
「ドラゴンのドですよね?」
「なんだ知ってんだ」
「有名なやつじゃないですかそれもう」
「えーそんな有名なやつだったこれ」
霧の晴れた外をフーガとカノンが歩いている。件の街へ近づいているというのに、狼もその獣人もまったく見ることは無かった。朝日の昇る平原を歩いているうちに、すぐその場所へ近づいて来ているのが見えた。木の柵は砕け、あたりには色とりどりの液状の魔力が散っていたが、それ以外には何も無かった。
「……何かあったんですかね……?」
「逃げたんでしょ多分。僕たちを恐れて」
「そんなわけ無さすぎません?」
誰もいないその場所を、真正面から突っ切って行くことができた。そこには、街とは名ばかりな狭い領域とぽつぽつと建つ廃れた家々があった。魔族も獣もいないし、人間も見えない。住宅、店、犬小屋、全て空っぽだった。
「こうもなってくると不気味だな……」
「奇襲してくるかもしれません。警戒はしておきましょう」
依然、街は静か。風がホコリを巻き上げる。
「まぁーでもここまで何もないんじゃさすがに本拠地に行くまでは何もないでしょ。アジタートがどこなのかなんて僕らにはまだわかんないけど」
「でもちょっと怖いじゃないですか?」
「いけるいける。そもそも僕らって強いし───」
突如、風を切る音が聞こえる。カノンはその音に反射的に刀を頭から抜き、その方向へ刀を横に振った。カンっと金属音が鳴ると、そこに銀のナイフが落ちているのが確認できた。
「フーガさん、敵です!」
隣でフーガが飛び散っていた。
「フーガさーん!!!」
叫んでいる間にも飛んでくるナイフをカノンは咄嗟に弾く。飛んでくる方向へ視線を向けると、たった一体の狼の獣人が建物の屋根の上にいる。わざわざ遠くから、一体だけが姿を見せている。その理由を一瞬思考する。その間に三つ目のナイフを視認、弾き、そしてそのまま後ろまでぐるんと振り抜く。すると、たった今背後から近づいて来ていた狼の獣人まで刃が通った。カノンはその気配に気づいてさえいなかった。
「ぐああっ!」
「よし……」
カノンは小さく呟くと、また屋根の上へ視線をやる。そこにはすでに何もいない。もう一度背後へ目をやる。他には誰も来ていない。フーガが頼れない状況、あまり大きな戦いでは無かったにしろ対魔族の対処が自分一体でできたこと、そして武器を手に戦える余裕ゆえか、カノンはよく頭が回った。カノンは斬られてうめく狼の獣人から離れ、手早にフーガを復活させた。
「いったぁ……いやぁごめんカノン、すっごい油断した」
「フーガさん。ちょうどチャンスみたいです」
「ん?」
はじめに接敵したときには群れを成していたと言うのに、今回はわざわざ視線誘導をして不意打ちで倒そうとしてきたこと。視線誘導のナイフも一気に投げては来なかったこと。不意打ちをしようと忍び寄って来た者が一体しか見えなかったこと。そして屋根の上の狼の獣人は失敗と見るとすぐにいなくなったこと。この寂れた街を破壊しないように気をつける理由も見つからなかった。
「今、何らかの理由でここの魔族は大きく数を減らし、武器も不足しています」
「……つまり?」
「ある程度の警戒さえしていれば、中心部まで突っ切れます」
次回 第五十六話『たまに頭良くなるだけで基本はアホだから』
10/24 (土) 20:00更新予定




