第五十四話 魔力の血
狼の獣人がキレた
朝日も昇る頃、狼の獣人側の勢力がぞろぞろと集まっている。ラルゴは内心驚いていた。獣人相手とはいえ、多少煽った程度でここまで大事にされるとは思っても見なかった。しかし、それはむしろ好都合だった。
「よくもまあ、一体のためにこんな集めれたねぇ?」
こうなったほうが、処理すべき対象を一度に仕留めることができたからだ。短くなったタバコの火で、もう一本、新しいタバコに火をつける。
「来てみろ」
アジタートの街と外とを分ける境の不恰好な木の柵を飛び越え、多くの狼の獣人が、統率者と思われる者の指示を待たずに真正面から飛び掛かっていった。銀のナイフ、鋭い爪と牙、無数の殺意が一度にラルゴへ向かって来る。ラルゴはタバコの煙を吐いた。そして、目の前へ迫る無数の武器たちを、右へ半歩、体をを左に向ける、頭へ向かってくる爪へ左手を添える、必要最小限に攻撃を回避する。攻撃を空振った狼の獣人と狼たちが、ラルゴの囲むように散らばる。
「全員、一気にかかれ」
「こうなったら言わんでもわかるだろぉそういうのは」
ラルゴは一つ笑い、自分の爪で手の甲を浅く切った。その傷から流れ出る血は橙色だった。
「魔族は魔力で出来てる。高等技能ではあるがぁ……一発くらい試させてくれよぉ」
手をぐっと握ると血が吹き出す。ラルゴは腕をぐるんと振り、血はあたりへ散り、狼たちへとばら撒かれる。
「関係ない! かかれ!」
飛びかからんとした者たちは少量の血を浴びる。
「迂闊」
咥えたタバコを投げ捨てる。
「“フードゥル・ル・サン”!」
そう詠唱した途端、バチバチと音が鳴る。そして、狼の獣人と狼たちは突然の衝撃に、後ろへ弾き飛ばされる。
「お、お前らっ……なんなんだこれは!」
後ろから指示を出していた、統率者と思われる狼の獣人が叫ぶ。
「血は魔力そのもの。だから相応に出力が高くなる……戦闘で強くなりたかったら座学だってやっとけよぉ」
ラルゴは笑いながら答えていると、いつのまにか足元に霧がかかってきているのを見た。
「あんま時間かけてるから霧が出て来たなぁ。勉強とか言ってる暇なくなっちまったねぇ……」
「そ、そうだろう! わかったらさっさと───」
「わぁってる。片すよ」
ラルゴは右腕を伸ばし、手のひらを向けた。
「協和音。“ヴルカーノ“」
「早く行くぞフーガ! カノン! 我をジジイ呼ばわりするやつと一緒にいられるか!」
「突然霧が出たし雷降ってるっぽいからもうちょい我慢して」
次回 第五十五話『フーガが舐めプをして爆散する回』
10/17 (土) 20:00更新予定




