第五十二話 狼の街
銀鍛治と吸魔の魔石のジジイトークがあった。
人間の気配を感じられないある街。あまり丁寧に作られたようには見えない、後から雑に作られたような木の柵と大量の狼で囲われたその街からは、獣の唸り声と遠吠えが聞こえるばかりだった。その朝焼けに照らされる街へ向かってくる者の影を狼たちは認めた。それは、黒くねじれた角を持つ龍人だった。
「ここ通してくれよぉ。エサの横取りはしねぇからさぁ」
冗談めいて言ってみせても狼たちはじっとその龍人、ラルゴを見つめている。
「やっぱ、獣言語もしっかりやっといたほうがいざと言うとき役に立ったかねぇ……」
気だるげにため息を吐き、視線を落とす。小さく、特徴的な荒い息の音が聞こえてくる。ラルゴは、ふむ、と小さく喉を鳴らし、ゆっくりと首を起こす。そして、目の前まで飛んできたナイフをさも当然と言うように、首を傾げ最小限の動きでかわして見せた。
「でも、お前らみたいなのは普通に言葉も通じるってのに手荒いもんだねぇ」
木の柵の向こうから、密度の高く灰色の毛を生やした狼の獣人、そしてそれらの足下に続く狼たちの群れがゆっくりと迫ってきていた。
「名を名乗れ」
その質問に答える前に、ポケットの中の箱からタバコを一本取り出し、右手がそれをゆっくりと口元へ運ぶ。咥えた後、ふ、と小さく息を吐くと、小さな火の粉がふらふらと弱々しくも躍り出る。数秒、沈黙。ようやく火の粉がタバコに火を付けると、ゆっくりと煙を吸い、もう一度ほんの少し空気を吸い、ゆっくりと煙を吐き出す。そうして冗長な儀式を終わらせ、ようやく口を開いた。
「俺はラルゴ。Top-3。お前らぁ、俺が思ってたよりも強くてビビったってんならそうって言っといてくれよぉ」
再び静寂が流れる。
「Top-3だったとしても、今は街に入れることはできません」
先頭の狼の獣人が答える。
「胆力はご立派だねぇ。敬語になったのは低評価だがぁ……どうしてか聞かせてくれよぉ?」
「それがアジタート様の意向だからです」
「群れのボスの命令が絶対……難儀な性質してるもんだねぇ」
タバコの煙を吸い、吐き出す。
「お前らのとこのボスより俺のほうが多分ランクも高いだろ。直接ではないが、俺がそいつの上って言ってもいいだろう。俺の命令を優先させてくれぇ?」
「それは……できません」
「ただ勉強に来ただけだぁ。それに、最近じゃ妙な霧の話もある。どこか隠れる場所だって必要だぁ」
「できません。それがアジタート様の命令ですから」
「ふぅん……」
ラルゴは短くなったタバコの火をつまみ潰して消し、もう一本、タバコを取り出す。
「じゃ、強硬手段だなぁ」
次回 第五十三話『精神力』
10/3 (土) 20:00更新予定




