第五十話 炎のエンチャント
銀の刀に火属性が付いた。
銀の刃は赤い炎にゆらめき、暗い夜を照らし始める。カノン自身も突然のことに戸惑ったが、それ以上に近くにいた狼が怯え、後退り始めていた。
「な、何をしている、飛びかかれ!」
一体の狼の獣人が直接指示をしたが、それでも狼は動かない。
「……ほー。なるほど。こういうのができるんですね」
カノンはすぐに状況を理解したように、一振り空を切って見せる。一度振れば炎はパチパチと大きくなり、それを見た狼たちは情けない鳴き声を上げて闇世の中へ消えていった。
「いいですね。これなら魔族じゃないただの動物も対処できますし」
動揺している敵の前で、ただ状況を冷静に見ているカノン。もはや逃げて行った狼たちのことは目でさえも追わず、刀の炎を眺めるわけでもなく、ただ視線は一番近くの敵を直視している。狼の獣人が視線に気付いたころには、すでに胴体を半分に斬られていた。
「また一体やられたぞ!」
「クソ……どうしてこんなに速い───」
また一体、炎の刃が飛んできたことを認識しながらも避けることができなかった狼の獣人が真っ二つに斬られた。
「こっちです! フォリア!」
その詠唱が聞こえた方向を狼の獣人たちが注目する。そして木の葉が向かって来ていることをようやく視認し、反射で顔の前に腕を交差させて身を守った。しかし、そのために迫ってくるカノンに気づくことができなかった。カノンは根を素早く狼の獣人たちの後ろまで伸ばし根を張り、ぐいっとその身を引っ張り速度を出す。そして狙いを定めた一体へ、横に一回転して斬りかかる。断ち斬られた一体を中心にして、拡散した木の葉へ炎は燃え広がり、近くの狼の獣人も巻き込んだ。
「ク、クソ、逃げるぞお前ら!」
一体の狼の獣人が叫ぶと、動ける狼の獣人たちは一斉に逃げて行った。そこに残ったのは、数体の真っ二つにされた狼の獣人と焦げた草、そしてカノンだけだった。
「カノンすごいな! すぐにあんな使いこなせるなんて!」
駆け寄るフーガとゆっくり歩く銀鍛治。フーガがカノンへもちっと衝突すると、カノンはこてんと倒れた。
「……カノン?」
フーガが声をかけた途端、ボッと炎が燃え上がった。
「カノーン!?」
小さな火柱とフーガの叫び声が月夜に響いた。
次回 第五十一話『東へ東へ』
9/19 (土) 20:00更新予定




