第四十九話 刀身エンチャント
カノンが銀の刀を扱えるようになった。
四つ足が草を踏む音たち。本能によって漏れる唸り声とヒソヒソという理性による話し声。灰色の毛皮をまとったそれらは数体と数匹の隊列を組み、丘のふもと、鍛冶屋を遠くから静かに横切るようにひっそりと行動していた。
「本当にまだここにいるのか……」
「でもここで成果を出せば、俺たちであの場所から逃げられるかもしれない。機会を逃すなよ」
かさ、かさ、と大きな音を立てぬようひっそりと、かすかな月明かりだけが頼り歩く。
「ぐああっ!?」
突然、最後尾から空を斬る音と共に叫び声が響いた。狼の獣人は息を飲んで後ろを振り返り、狼は唸り声をあげて姿勢を低くする。そこに転がっていたのは深く斬られ、赤く染まった魔力が傷から溢れた一体の狼の獣人だった。
「後ろから、銀鍛治か!?」
「いつ気づかれた!」
「銀鍛治じゃないですよ」
がさがさっとすばしっこく這うように走る音が聞こえる。その音の場所にいたのは、銀の刀を持ったカノンだった。
「あいつっ、なんでそれを───」
リアクションをする暇もなくもう一体の狼の獣人が、腰から肩へ対角線を引くように斬り上げられ真っ二つになってしまった。斬り上げ、刀が上に振られたところへ二匹の狼が食らいつこうとする。カノンはその勢いのままに身体ごと刀をぐるんと回して飛びかかる狼を薙ぎ払い、狼を退けた。しかし、その身体には浅い傷がつけられたのみで、依然として唸り、カノンから目を背けずにいる。
「こっちが厄介ですね……」
気づけば狼たちはカノンを囲み、一定の間合いを取っていた。そこには睨み合いが発生している。そのまま数秒した後、狼のうち一匹がカノンの背後へ飛びかかる。カノンは振り向きざまに刀を振るい叩き落とすが、ただ叩きつけるだけで有効な攻撃にはなり得ない。その攻撃を皮切りに、周りの狼が続けざまに飛びかかりはじめた。攻撃に対して刀を当てども、銀の刃では魔力でないものは斬れなかった。
「くっ……さすがにぼく一人じゃ……」
「カノン!」
このままではジリ貧というところで、フーガが呼ぶ声が聞こえた。その方向をとっさに見ると、狼たちの隙間から、炎魔法がこちらへ向かって来ているのが見えた。
「何やってんですかフーガさん!?」
「斬れ! カノン!」
狼は炎の魔法に驚いたようにとっさに避ける。カノンも、フーガの指示を聞くより前に反射的に迫り来る炎へ刀を振り下ろす動作に入っていた。魔法の炎の塊が斬られた瞬間、炎の塊は消え、銀の刀が炎をまとうように刀身が燃え上がった。
「なんですかほんと急に!?」
「それなら多分勝てるだろ!」
次回 第五十話『炎エンチャント』
9/12 (土) 20:00更新予定




