第四十八話 対魔族刀
銀鍛治の刀を取ろうとしたフーガが爆散した。
「知らないよ。ちょっと刃に触れただけだよだって」
「すまんなァ知ってるもんだと思ってたもんでねェ」
丘のふもと。レンガ造の工房の隣の開けた庭の真ん中を不満げなフーガと笑っている銀鍛治が見ている。2体が見ている真ん中には数体の藁の人形、そして一本の刀を持ったカノンがいた。
「振り方はさっき教えた通りでやれなァ」
「わかりましたー!」
カノンは格好良さげに刀を構え、藁の人形を斜めに斬り上げようとする。タンッと軽い音がすると、人形に刃が入り始めたところでそれ以上動かなくなってしまった。
「しっかり刃を垂直に当てろォ」
「はーい!」
カノンは刀を離し、もう一度斬り上げてみる。もう一度軽い音、そしてがさっと稾の音が鳴る。
「途中で捻るなァ。一回斬り込んだ方向にだけ引け」
「はい!」
月明かりの下、カノンは刀を振り上げ続ける。
「……なんで僕はちょっと触れただけで爆散したんですか」
「ん。言ってなかったかァ」
「言われてないよ」
銀鍛治が笑う。フーガはそれとなく不機嫌さを表現したかったが、同族でもない銀鍛治には伝わらなかった。
「オレの作って武器と防具にァ銀が混ぜてある。やってるのはオレだけじゃァねぇけどよ」
「ああ。銀が……」
「わかるだろ? 銀は魔力を焼くってもんだ」
「溶かすじゃないっけ」
「表現が違うだけだよ。どっちも合ってるしどっちも間違ってる」
「ふぅん……まあだからってあんな弾けるとは自分でも思わなくて……」
「銀に触れたこともないのかァ?」
「そんな装備を持った奴に殴られるような魔族じゃなかったから」
「ふぅん。ま、見りゃァ一般スライムだもんなァ」
「一般スライムなんでね」
そう話していると、サッと空気を斬るような音がかすかに聞こえた。音がした方向をずっと見ていた銀鍛治に合わせるように、フーガも同じ方向を見直す。
「フーガさんも見てましたよね!」
カノンの目の前の藁の人形は斜めに斬られ、上半分が落ちていた。
「やったかカノン。見てたよ! もちろん、バッチリ!」
「あァバッチリ見てたぞもちろん」
「見てなかった口ぶりですよねそれ!」
銀鍛治はまた笑った。
「何笑ってるんですかもう。もう一回、もう一回できるまで見ててくださいよ!」
「いや、いや。大丈夫。一回できたんならもうお前ァ何度だってできちまう」
拗ねたようなカノンへ確信めいたように言った。
「そんなふうに慰められたって……」
ぶつくさしながら近くのもう一体の人形へとぼとぼと向かい、もう一度振り上げる。
「えいっ!」
もう一度、同じように振り上げた。すると、まったく引っかかることもなく、同じように人形は真っ二つになった。
「お。本当に一発だ」
フーガは軽く言った。一番驚いているのはカノンだった。
「ほぅら。言った通りだろ?」
「本当だ……」
数秒ぽかんとしたあとで、カノンはぴょんぴょんと跳ね始めた。
「すごいです! もしかして、この刀の魔法とかですか!?」
「いんや。お前の才覚だよ。オレぐらいになりゃァ見りゃわかるってもんだからよォ」
遠くで狼の遠吠えが聞こえる。
「ふん。また来やがる……ちょうどいい。せっかくだから、実践練習やってみろ」
次回 第四十九話『刀身エンチャント』
9/5 (土) 20:00更新予定




