第四十六話 唸り声と丘の上の月
盗賊ギルドを回避した
「パイ」
「インク」
「クジラ」
「ライト」
二体の小さな魔族は、細い月に照らされた平原を歩いていた。背の高い草むらがところどころにあり、視界もあまり良くはない。
「……とんでもない距離を歩いてきた気がしますよ」
「……よく考えてみれば、すぐ近くの街がこれまでみたいに近くにあるってわけでもないか」
「勘弁してください」
「お前ら気をつけろ」
「いですよ」
「いだよ」
「なんの話だ」
退屈しのぎが途切れて周りに注意が向いた途端、異様な音が聞こえることに気づいた。がさがさと草むらをかき分けるような音、リザードマンのそれとは違う唸り声。
「フーガさん、これって……」
「狼……それと獣人か」
フーガが静かにそこに隠れた存在の確認をした次の瞬間、草むらから灰色の狼が躍り出る。牙は鋭く、ぎらりと光る目は確かにフーガを捉えていた。フーガはぐりんと柔らかく軽い身体を逸らし、飛びかかる狼の牙をすんでの所でかわした。
「カノン!」
カノンは返事をするより前に、頭の中に置いていた吸魔の魔石を根で掴み、フーガへと投げつけた。
「どうせこれでしょフーガさん!」
そしてそのままの勢いにぐるんと回り、背後から迫っていた狼の鼻へ根をばしんと叩きつけた。
「ありがとう! 離れて!」
フーガが吸魔の魔石を取り込むとそれがぽっと光り、ぶわっと魔力が衝撃波を作り出した。近くにいた2匹の狼は吹き飛び、近くにいた他の狼や獣人たちもその衝撃のために隠していた身を現した。空中に浮かびながら半透明の翼をぐわっと広げると再び魔力が広がる。
「あれだ! あれが反逆者だ!」
深い紫に染まったフーガへ狼の獣人が指差し叫ぶと、そこにいた全てが一斉にフーガへと飛びかかる。獣らしく素早く力強い動きは、吸魔と化したスライムの動きには追いつくことができなかった。フーガが狼と獣人たちの間をすり抜けるように瞬時に飛ぶと、すべてに深い切り傷をつけてなぎ払っていった。
「どう? 全員ぶっ飛ばせたんじゃない?」
「調子乗りすぎです!」
フーガが薙ぎ払った反対側でカノンが奮闘していた。飛びかかる狼を素早く避け、狼の獣人の挟み討ちには根を伸ばして足を引っかけ倒し、狼たちの猛攻を忙しなくいなしていた。
「フォリア!」
正面から迫ってくる狼へ咄嗟に木の葉を繰り出し、視界を遮り体当たりして軌道をそらす。いなし続けていると、カノンの周りを深い紫の影が過ぎ、そこにいた獣たちが一瞬にして切り裂かれた。
「ありがとうですけど油断しないでくださいよ!」
「大丈夫! このぐらいどうってこと───」
「ここでおしまいだ。あとは頑張れ」
吸魔の魔石がぴょんと飛び出し、カノンの頭にがさっと戻って行った。フーガはふわりと落ちて行き、ぽてっと地面に跳ねて落ちた。
「どうってこと、なんですか」
「動けない助けて」
狼と狼の獣人はとめどなく現れる。
「フーガさんどうにかできないんですかフーガさん」
「吸魔の魔石を使ったあとはあんま動けないんだ……なんとかして……」
「調子に乗ってるからですよフーガさん」
狼のうち1匹が走り出した。
「フーガさんフーガさんフーガさん」
「おしまいだ」
そのとき、ばん、と大きな破裂音が聞こえた。その音をきっかけに狼たちは取り乱し統率が取れなくなる。
「クソ、なんなんだいきなり!」
「気をつけろ、もしかして……」
狼の獣人たちが話していると今度は一本のナイフが地面へ降ってきた。月の光をよく反射する銀色のナイフだった。
「か、鍛冶屋だ! 逃げるぞ!」
ナイフを見たその一声と共に、獣たちは東の方角へ逃げ去っていった。
「……助かりました、フーガさん」
「マジ?」
上を見上げていたフーガの視界には、ツノと長い尾を持った魔族が浮かんでいた。
次回 第四十七話『銀鍛冶』
8/22 (土) 20:00更新予定




