第四十三話 東洋リスペクト緑色の街
吸魔の魔石を使ったフーガが浮かれまくっていた。
「カンパーイ!」
食事を終えたフーガは昼間から酒場に浸っていた。水で満たされたジョッキに浸かり、喧噪に紛れながら空気に酔っている。
「完璧に酔ってるな」
「自分に酔ってるってことですか」
「あー、まあ、そういうことで良い」
カノンはつまみの肉を自分の中へ放りながら、頭の中に隠れるように入っている吸魔の魔石とその光景を見ている。ジョッキのぶつかり合う音に大きな声の談笑と喧嘩。うんざりとした様子のカノン。
「楽しそうだしいいじゃん?」
その隣でカップを持っているクアン。一口軽く飲み、ふう、と一つ息を吐く。
「いやーまあ、そうかもしれないですけどちょっと乗りすぎですよ」
「調子にぃ?」
「図に」
「図かぁ」
皆が酒を飲む姿を見る。それからクアンはふっと懐中時計へ目をやる。
「……正午ごろ。そろそろじゃない?」
「あれ、もうそんな時間でした?」
テーブルの上を根を伸ばして移り、フーガのすぐ近くまで行く。
「フーガさん行きますよ。フーガさんそんなふうに膨らんで抵抗しないでくださいフーガさん水吸って膨らまないでフーガさんジョッキにハマらないでフーガさんフーガさん」
「で、二時間も遅れたってこと?」
「フーガさんが全部悪いです」
「僕なんも覚えてないです」
にこりと口角を上げているカデンツァがフーガとカノンには怖かった。カデンツァはゆっくりと脚を組み替えながら、手に一枚の書類を転移させると、デスクの上に乗っていた二体の前に差し出した。
「観光は住んだでしょう? 次に行ってもらうわ」
「はーい……」
若干名残惜しげに返事をしたフーガはカノンと一緒にその紙を覗き込んだ。
「次はアランシアの街、狼の獣人。アジタートよ」
「狼の獣人か……それでMiddle-2と」
「東の方に向かえばいいんですね?」
「また東?」
紙を覗きながら文句を言おうとしたが、その前にくるくると紙を丸められ、ぽすっとカノンの頭に差し込まれた。
「そんな感じだから、よろしくね?」
カデンツァはにこりとして言う。
「まあ、僕のこの吸魔の魔石の力があればどうとでもなるよ」
「そう。なら頼もしいわね」
「じゃ、行ってきます!」
「頑張ってきますね」
扉から部屋を出ようとしたとき、カノンの頭から吸魔の魔石が言う。
「待て」
フーガとカノンはぴたりと止まった。
「どうしたんですか?」
「我もカデンツァと話をしたいのだ。旧友と───」
「そういうのいいからもう行ってちょうだい」
「ですって」
「は?」
「じゃあ出発だ!」
カノンが扉を開ける。
「おい待てカデンツァ、なんだそれおい、ふざけるな、カデンツァ、カデンツァ!」
吸魔の魔石の叫びも虚しく、部屋の外へ出た二体によって扉は閉められた。
「なんでこんなことに……」
「旧友なんですよね? なんであんなふうに言われたんですか?」
「わからない……」
「本当にへこんでる」
「……もしかしたら送っていってもらえるかもって話はどうなったんでしたっけ」
振り返るとすでに扉は消えていた。
「……あー!」
デスクの前に座ったクアン。ふぅっと一つ息を吐いてほろ酔いに眠たげにしていると、どこかから男の声が聞こえてくる。
「魔王軍隊8番隊隊長。いるな」
クアンは顔をしかめ、面倒そうにデスクの中を手で探ると、丸い魔石を取り出した。
「はぁいクアンです、四天王さん。ちょっと今酔ってんすけどぉ」
「吸魔の魔石が取られているというのに、呑気に酒か?」
「東洋の酒は特別な魔力が込められてるんですよぉ。力を蓄えてるんですぅ」
魔石から聞こえる声は大きく、クアンにはっきりと聞こえるように舌打ちをする。
「吸魔の魔石の責任はお前が取れ。それが戻ってこない間は減給……余計な真似をしたなら、わかってるな」
男は威圧的に言う。クアンは面倒だと言うように舌をべっと出す。
「はぁい。わかってますよぉ」
その返事を聞くと、淡く光っていた魔石の光が消えた。クアンはため息を吐き、あくびをしてから背もたれにもたれてその場で目を閉じた。
次回 第四十四話『自称最強スライムフーガ』
8/1 (土) 20:00更新予定




