第四十二話 上位魔族と吸魔のスライム
吸魔の魔石の力を使った。
「ラルゴもういないのー?」
「黒い竜人ならもうどっか行ったってぇ」
レストランで食事をしながら、フーガはクアンに何度目かの同じ質問をしていた。
「なんでわざわざ見にきてたのに話もしないで行っちゃうわけー?」
「知らないよぉそんな言われたってぇ」
「カデンツァさんもどこか行っちゃいましたよね」
カノンは皿の上の料理をつまみながら他人事で
いる。
「ま、この新しい吸魔の力さえあればすぐに探しに行けちゃうけどねー」
「今はもう昼だろう。汝が我の力を使えるのも夜の十秒程度だけだ」
「その十秒程度でどこにでも行けるでしょ?」
フーガは自身ありげに、身を逸らして言った。
「調子乗ってません?」
「いやぁ乗ってる乗ってる。カノンは見れなかったんだっけ、でもすごかったんだよ僕、マジで、ビュンビュンビュンドーンって、そんでバーンっと」
「何回目ですかそんな自慢話ばっかする爺さんみたいな」
「お、毒属性ついたー? トレントのクセに〜」
「トレントじゃない、フーガさん知ってるでしょぼくゴーストなの」
気分が良くなったフーガと面倒臭そうにしているカノン。頬杖をついてにやにやと二体を見るクアン。
「クアンはそう思うだろ? 十秒あればどこへでも行ける!」
「ん、ん? んー。ん」
首を傾げた後に一秒弱考えてから頷いた。
「ほらクアンも言ってる!」
「いーや絶対なんも聞いてなかったですよあれクアンさんちょクアンさんも聞いてないなら聞いてないって言ってくださいよクアンさん」
「んー」
夜更けごろ。日が東から顔を覗かせるほどの時間になったルースの街。橙の光の当たらない裏路地に二体の竜人はいた。
「……で、そうだった? フーガちゃんのあの姿」
「あいつ、あんな魔力にも耐えられたんだねぇ……あんた何もしてないよなぁ」
「もちろん。あの子の素のポテンシャルよ」
カデンツァが空中で右手をひゅっと小さく振ると、その指には二本の太いシガーが挟まっていた。
「これ、なんだと思う?」
「無詠唱の転移魔法。紐付けされた魔法陣の内側のものを取り出すやつだろ」
「それもそうだけど、私がその転移魔法で出したものよ」
「ん、ああ。フューリーの4番目かぁ」
「さすがにわかるのね」
「藍色の包みと紫の槍のマークがついた金のラベル。フューリーは結構特徴あるしねぇ」
カデンツァは二本のうち片方を左手に持ち替えてラルゴの方へ差し出す。
「……細工さえしてなければ最高級のやつだろぉ。Over-1程度じゃ、無理して一本買ったらしばらく貧乏生活ぐらいの」
「私なら大丈夫なのよ。細工もしてないし」
小さく唸ってから、ラルゴは差し出された一本を大人しく、ゆっくりと受け取った。一つため息を吐きながらためらうようにシガーを見つめる。シャッという何かを切り落とす音にラルゴが視線を上げると、カデンツァが小さなナイフを差し出していた。ラルゴは小さく頷きナイフを受け取ると、ラベルのある側の先端を、ざり、ざりとゆっくり切り落とす。指先に火を灯し、シガーの切り口を近づけたり離したり、上手い塩梅に当て、切り口に火がついたことを確認してから口に咥えた。空気と一緒に煙を吸い、口の中を潜らせ、煙を吐き出す。鼻に抜ける香りは、上品な甘美さ。壁に寄りかかったラルゴの視線は、裏路地から見える狭い空を向いているだけでどこも見てはいなかった。ただ、煙を堪能していた。
「どうだったかしら、あのフーガちゃん。見るだけの強さ的には」
ラルゴはカデンツァの方へ意識を戻した。燃えてゆくシガーの灰を惜しむこともしないカデンツァを見て顔を若干しかめる。
「……まあ、スライムならもう並ぶやつはそういないだろうなぁ。とにかく強いと思うねぇ」
「今後、竜人とかゴーレムとか、そういうのと戦うとしたら?」
「足りないなぁ。瞬間的にあのデカいアンデッド……殭屍だったか。硬さだけはMiddle-4程度と聞いたがぁ……見たところ4、5秒ってとこだろぉ。それに、俺でも目で追える。あんたにとっちゃ、あれが見えたかどうかと質問されることすらも失礼になるだろうよぉ」
「そうね。まだまだ足りない……そういう評価はしっかりできるのね」
「全肯定というわけにもいかないからねぇ」
ラルゴはもう一度、煙を吸う。
「言っちゃえば、特別なスライムだったとしても限界はあるわ」
「じゃあこれ以上どうするってぇ?」
「ここが限界とは言ってないわ。ただ、仲間を集めるタイミングは必要になるわね」
次回 第四十三話『東洋リスペクト緑色の街』
7/25 (土) 20:00更新予定




