第四十一話 吸魔のスライム
吸魔の魔石を使うことになった。
コウモリのような形をした半透明の翼。2本の反ったツノ。深い紫のスライムが三日月の淡い光に照らされている。
「こいつ、吸魔の力使えばやれるよね」
目の前には巨大なツギハギのアンデッド。
「無論だ」
翼を翻し、とんと宙へ飛ぶ。軽く飛んだそのときに、ぶわっと魔力の衝撃が放たれる。
「うわっ、フーガ、さ……」
放たれた魔力にカノンは耐えきれず気絶し、殭屍たちは内側から四散してしまった。吸魔の魔石の力を得たスライムは、緩慢な動きで腕を振り上げようとしていた大きな殭屍へ突っ込んで行く。スライムの柔らかい翼は怪しげに光り、一瞬のうちに大きな殭屍の背後へ行ってしまった。大きな殭屍が振り上げた腕を虚無の方向へ振り下ろさんとしたとき、胸から上がぐらりとずれ、分断された面が見える。
「すごいな。一瞬だ」
「残り7秒。時間の限り練習台にしてやれ」
「7秒? それで何ができ───」
残りたった7秒。そのほんの少しと言えたはずの時間の感覚がフーガ自身の視界によって変えられた。全てが遅く見えた。秒針が1つ動くより先に夜空を飛び回ってからでももう一撃喰らわせられるかもしれないと思えてしまうほどに。
「強さとは速さ。速さとは強さ。これこそが強大な魔力を持ったときに見える景色である」
「へぇ……これは良いね」
フーガは高く飛び上がり上から見下ろしていたクアンと同じ高さまで飛び上がる。そして、フーガは最初からそうだったかのように、願えば魔力を自由にコントロールできた。火や金属という形ではなく、魔力をそのままに、白く半透明の、きらきらと煌めく空気のような状態で。
「たとえば、こう?」
そして願えば、それを幾千もの針のように鋭くし、分断され倒れようとしているアンデッドを貫くことができた。巨体を貫いた針は貫通し、衝撃でツギハギの巨体がばらばらに砕ける。
「ここまで自由にできるとはね」
「残り4秒。吸魔式の詠唱ぐらいは教えよう」
「頼むよ」
「我の言うとおり動け」
フーガはばらばらに砕けた大きな殭屍の頭部目掛けて飛んで行く。自分よりもずっと大きな頭を前に小さなスライムは叫んだ。
「“マジア・イド・イグニス”!」
魔力が白く濃い霧のように現れ、大きな頭を包み隠す。そしてすぐにその霧は鋭く、荊のようにその頭を八方から貫き、激しく爆発するように燃え上がらせ、跡形も無く消し去った。
「10秒だ。ここが限界だろう」
そう言って吸魔の魔石は魔力を出すことを止め、フーガは緑色のただのスライムに戻った。外から見ればたった10秒の間に起こったことだった。小さなスライムが翼を生やし、一瞬のうちに圧倒的な連撃によって巨大な殭屍を一瞬にして葬って見せたのだ。空中に放り出されたフーガは、ただなるがまま、清々しく地面へ落ちて行く。
「合格ー。結構扱えてたよぉー」
地面へぽてっと落ちた後、クアンの声が聞こえた。
第四十二話 『上位魔族と吸魔のスライム』




