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第三十八話 解放キョンシーアタック

キョンシー工場の見学をしてた。

「はいとうちゃーく」

クアンが立ち止まると、ぼうっとついて行っていたフーガはクアンの足にべちっと衝突した。

「えぶっ」

「前見てくださいフーガさん」

そこには開けた空間があった。正面は行き止まり、天井は円形の吹き抜けのようになって、光を銀色に反射する金属の階段や足場がその吹き抜けの側面に見える。

「ふあぁ……」

「あ、吸魔さん。起きました?」

「あ、寝てたのか。静かだと思ったら」

きいっ、という金属同士がこすれる音が響く。フーガとカノンが目を離した隙に、クアンは重々しいドアの内側へ入り、カギをかちゃりとかけた。

「……待ってるほうがいいかな?」


「あら。人間食もけっこう食べられるのね」

「ん……あんたみたいなやつ、こういうのもきちんと食べてやらないと何してくるかわからないからねぇ……」

閉鎖された広場へ向かう前、カデンツァはラルゴをレストランへ連れてきていた。赤く塗られた壁や独特の模様、作られた異国情緒でもラルゴの目には新鮮に映った。しかし、目の前にいる存在と、広くテーブルも多いというのに異様にがらんとした店内に身構えていた。

「リラックスして? 貸し切りだから誰もいないし。それに、今のところも今後もあなたを潰すつもりはないから」

「そう言われてもねぇ……」

かちゃり、とフォークの先を皿にかけるようにして置き、カップを持って中に入った白っぽい半透明の液体をいたずらにゆらゆらと揺らす。

「飲まないの?」

「これは無理。紅茶もだめだったからねぇ俺は」

「一口飲んだ?」

「ああ」

数秒、食器の音だけが響く。

「……詳細は。取引だろ」

「そうね。まず繰り返しになるけど、これからあなたは私に従ってもらうわ。フーガとカノンという反逆者のサポートのためにね」

「結構。具体的には」

「適宜伝えるわ。必要になったら呼びつけるし」

「表立って行動するか、裏でどうこうするのか」

「基本は裏。堂々と反逆者の味方して四天王の夢も諦めたくないでしょ?」

「まあそうだなぁ。ご配慮どうもぉ」

「あと、復活不可になる可能性についても頭に入れておいてほしいわ」

「生きてりゃみんなそうだろぉ。少しリスクが上がるだけだぁ」

「まあそれはそうだけど、頼もしいわね」

「まあ、リスクは負うんだから相応の報酬はくれよぉ。フーガに関われるのもいいんだけどねぇ」

「四天王試験の筆記でも実技でも訓練をしてあげるわ。金もoverクラスの給与ぐらいはあげる」

「あんたに恵子つけてもらえる、ねぇ。約束だなぁ?」

「悪魔の魔石は介してるわ」

「じゃあ決まりだなぁ。互いに約束を破ることもできない。食事を終わらせて最初の仕事でもするかぁ」

「そうね。あと」

「なんだぁ? この……なんだったか、味のないぷにぷにしたやつ。先に口に入れさせてくれぇ」

「セレナーデともまた会えるわ」

その言葉を聞いたとき、ラルゴのフォークが止まった。ずっと言葉が交わされて音が止まることのなかった二体の間に数分ぶりの静寂が生まれた。ラルゴはフォークを置く。そして、訝しげに、困惑を宿した目を向ける。

「もう一度あの場所に戻ることができるわ。あなたが望んだ場所に。約束するわ」

もう一度静寂。重く、深いため息。ずず、と皿が動かされる。

「残り、食ってくれ」

「あら、いいの。高級食材なのだけれど」

「まだ俺には早すぎんだよ……」


「……クアンまだー?」

「もう少しで準備完了だよぉ」

上のほうからクアンの声が響いてくる。フーガはふぅーっと息を吐きだす音を出し、ぐでっと平べったくなった。

「これって何待ちなんですかねー?」

「何待ちでもいいからとりあえず手持無沙汰で我をくるくる回すのをやめろ」

突然、ブーン、という低い音と何か固いものがぶつかるような不規則な音が響いてきた。

「よしできた」

「え、な、何が起こるんですか?」

「あ。見ろ。上」

フーガとカノンはしばらく左右を見回した後、地下に月光が差してくるのに気付いた。上を見上げると、ガラス張りの天井が現れてきているのが見えた。

「あれ、ラルゴ?」

「カデンツァさんもいますね」

二体はこちらを見下ろしているラルゴとカデンツァがいるのに気付いた。そこで見下ろしている二体に何かアクションをしようとしたそのとき。

「じゃ、試験始めるよぉ」

「え? 試験? 何それクアン?」

行き止まりの壁に取り付けられていた黄色いランプが光り、警報音が響く。

「ちょっ、クアン! クアン!」

「じゃあ! 吸魔の魔石をうまく使うんだよ!」

警報音の中で大きな声で意思疎通をする。行き止まりだった壁がゆっくりと開くと、大量の虚ろな目が光っていた。

「フーガさん。吸魔さん」

「スライム、ゴースト。気をつけろ」

「わかってる」

壁の隙間から、大量のしかばねがあふれ出てきた。

「殭屍(キョンシー)だあぁぁ!!!」

次回 第三十九話『しかばねランナー』

6/27 (土) 20:00更新予定

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