第三十七話 ハウ・トゥ・キョンシー
工場の中の階段を降りると、そこにはうっすらと死臭が漂っていた。フーガは軽くきょろきょろと通路の傍に並んでいるを興味深げに見ながら、前を歩くクアンに着いて行っている。
「クアンさんクアンさん。この棺の中ってどうなってるんですか?」
「ん。今早急に答えなきゃだめぇ?」
「はい。フーガさんの好奇心が強すぎて目に入るもの全てに触れようとするからぼくが今抑えてるんです」
「離してカノン。カノンもあの棺の中がどうなってるか気にならないの?」
「勝手なことしないでください多分変な臭いつくからやめてください」
「大丈夫大丈夫」
「人間食みたいに変な臭いするんですよ」
「人間食も変な臭いはするけどこっちの方がマシだし独特な匂いって言え」
もう少しで棺に触れるという具合のフーガ。二本の根を回り込ませて抑えつけているカノン。肩を震わせるクアン。
「んふふっ……んっとねぇ……ふふっ」
「クアンさん」
「隙ありだぞカノン!」
クアンに気を向けていて、一瞬、カノンの根が緩んだのをフーガは見逃しはしなかった。身を小さくし、根をするりと抜け、立てられている棺のうちの一つへ突撃する。
「あでっ」
そのまま勢い余って棺にぶつかると棺の扉がぐらりと揺れる。
「あ。こういうタイプの」
ぎいっという音とともに棺の扉が音を立てて上の方から倒れ、フーガは潰されて四散した。
「あ。フーガさーん」
「さすが魔族。死が軽いねぇ」
クアンが倒れた棺の扉を持ち上げ、カノンが流れ作業のように復活草を使う。
「慣れてるねぇ」
「案外すぐ慣れましたよ」
スライムの欠片がどんどん集まっていくと、また元のフーガの形へと戻っていく。
「フーガさん。棺開きましたよ」
「あ、ほんとだぁ!」
「ほんとだぁじゃないですよ」
棺の中には、人間の死体がそのままの姿で置かれていた。死体は直立した状態で手足や首で身体を固定され、一枚のお札が顔に貼り付けられている。
「へぇー……」
「あんだけやっといてへぇーしか無いってなんなんですか」
「まあ普通のネクロマンサーこういうことはやんないかなぁ。普通のネクロマンサーは鮮度が大事だからねぇ」
「殭屍は何か違うんですか?」
「殭屍は死後硬直がポイントなんだよぉ。人間は死んでしばらくすると身体が固まるから、そのときに氣を入れるとこうなるんだよねぇ」
「なん、チー?」
「氣」
そうとだけ言うと、あとは答える気はないと言うように棺を閉め、また二体の前を歩き始める。
深夜のルースの街の広場。静まり返った暗闇の中、壁に阻まれて閉鎖された広場の中に二体の竜人がいる。静かな空に月が浮かぶ下でただ静かに立っている。
「……で、あんた。なんのつもりだぁ?」
ラルゴは両足でしっかり立ち、睨みつけるようにしてそこにいる竜人から目を離さずにいる。
「あなたのかわいいフーガのかっこいい姿を見せようと思っただけよ」
カデンツァは壁によりかかり、不敵に笑みながら月だけを眺めている。
「へぇ……でも俺ぁ、フーガも俺も殺されるのはいやなんでねぇ」
「あなたを殺したりはしないわ。フーガのほうも、うまくやってくれれば大丈夫」
「フーガが死んで復活できないようになってたら俺が行けばいい」
「そうするまでもないわ」
会話の途中、地面のタイルがゆっくりと開いていく。
「フーガは、あなたが思ってるよりも強くなってるわ」
次回 第三十八話『結束キョンシーアタック』
6/20 (土) 20:00更新予定




