第三十六話 キョンシーファクトリー
フーガが酒に溺れた。
「ゔー……頭いった……」
すっかり月が上がっている空。涼しく心地よい風の中、二体の魔族はクアンの執務室の方へ戻っているところだった。
「頭って全身じゃないですか」
「あのー、あれだよ。スライムの頭っていうのは。なんというか、頂点から中心にかけての、こう……」
もうすぐそこという所で、べちっとフーガは何かに衝突する。
「あでっ。ああ、いたんだ。クアン」
「どうもぉ。楽しんできてくれたぁ?」
「楽しかったよ僕は。なんか暴れてたっぽいし」
「フーガさんはね」
クアンは二体の姿を確認すると、振り返り、壁と向き合う。それからまた、ぶつぶつと何か唱えながら壁に触れると、再び壁が開き、階段が現れる。クアンは少し振り向いて横顔を見せてから、ゆっくりと階段を降りていく。
「それで、この通路はどこに向かってるんだ?」
二体はクアンに続いて階段を降りているところだった。
「え? 執務室じゃないんですか?」
「多分そう。階段もカーブなかったはずだし、あの入力もちょっと違ったよね?」
「なんでわかるんですかそんなの」
「やっぱすごいんだねぇスライムくん」
フーガの予想が的中するのを示すように、階段が終わると数メートルほどのまっすぐの道が出てくる。鉄板が打ち付けられた壁に、両サイドの細長い電灯。階段の中は十分に明るく照らされている。
「ここは結構歩くよぉ」
視線の先にはすぐに開けた空間がある。その空間は地下にあるとは思えないほどに広く、全面張りの金属が光を反射している。フーガたちの歩く通路には、人間か人型の魔族にはちょうど良さそうな手すりがついていて、そこから少し下を見ると大量の棺がお互いに立てかけられていた。
「なんでこんな高いとこに通路を作ってんだろ」
「えーっとねぇ視察に来た魔王軍本部の魔族が出てきた殭屍に足を引っ張られたり、スライムとかはそのままどうしようもないことになったりぃ」
「あーもう十分です」
がたがたと棺が動く音や、通気口から入ってくる空気の細い音。様々な音が広い空間の中で響いてくる。
「あー。ここってどういう場所なんですか? 殭屍の保管場所とか?」
「生産工場かなぁ。古典的な方法だと時間かかるしぃ」
「こういう感じで大量生産してるんですねー……」
「しかも殭屍はゾンビより条件楽だし作りやすいんだよぉ。ゾンビとかスケルトンだったらこんな一まとめにはできないねぇ」
「そういえば、なんでここに僕らを連れてきたんだ? いろいろ教えてくれてるし」
「教えてるのは、自信作だからかなー。共有したいじゃんそういうのって。連れてきた理由は、おいおいねぇ」
聞いても返ってこない答えをフーガは気にすることはしなかった。
次回 第三十七話『ハウ・トゥ・キョンシー』
6/13 (土) 20:00更新予定




