第三十五話 酒場の狂乱と地獄の様相
夜になるまでルースの街にいることになった。
「カンパーイ!」
ガヤガヤと人間と魔族が笑い、怒鳴りあっている。木造の壁に囲まれた空間、その中でも最も大きな集団の中心にいるのはフーガだった。
「反逆者だってよ! こんなちっちゃいのによくやれるな!」
「本当にできんのかねぇ?」
「いやいやだからだよ! 僕ぁ弱いから、からこそ、こーやってひっくり返してやんの!」
テーブルの真ん中、大きなジョッキの中に浸かっているフーガは威勢よく答え、笑い声を上げる。
「さぁすがスライムの大将!」
「いやいやそんな、そんなこと、まー、あるかもね?」
持て囃され調子に乗っているフーガ。そして人だかりの外からそれを見ているカノン。
「楽しそうですね」
「その、なんだ。あのスライムはいつもああなのか」
空いているテーブルの上で根をジュースの中に入れているカノンの葉の中から、吸魔の魔石の声が聞こえた。
「いや、知らないです。あんな感じになるとか」
人間と魔族が集うその場所は、酒造という名前だった。アルコールの臭いが密集し、酒以外に提供されるものも無く、チケットを持った会員だけが出入りして持ち寄った食料で飲み交わす場所。喧騒と酒が溢れる音で、怒鳴り声でもなければ近くの音以外が聞こえない。
「いやーこりゃ調子よくなってきちゃったな! ほらもう一杯もう一杯、カンパーイ!」
「何杯目だあれ」
「さあ。二時間ぐらいずっとあれですよ」
「カノンカノンカノン! あのー、あれ! 魔石出して! 火と金属!」
「復活草用意しときますね」
フーガの指示にそうとだけ言い、フーガの元へ二つの魔石を投げ入れる。ぴょんとジョッキの中から飛び出て、魔石の前に出る。
「さぁーこれから、そのへんの森配属の一般スライム! 一体で二つの魔法同時に出しちゃいまーす!」
「調子乗りすぎてますね」
「いつもこうなのか?」
「知りません」
冷めてる二体。
「緑スライムが魔法出すってよ!」
「面白そうなことしてくれるねぇ!」
盛り上がる酒の入った人間と魔族。
「いくぞいくぞー?」
十中八九これから死ぬスライム。
「ではご覧くださーい!」
フーガが二つの魔石を同時に取り込む。その形は保ったままだった。
「じゃあこれから魔法を、あ、待って無理」
そしてほんの少し保っていたそのその形状は一瞬にして弾け跳んだ。フーガは一瞬にしてその場の大爆笑をかっさらっていった。
「はいはーい復活させますからー」
カノンが隙間を縫ってフーガの元へたどり着くと、手際よく復活させて魔石を回収していった。
「うぅー……魔石もスライムのそれじゃない湿り方……」
元いたテーブルの上に来たとき、何かに気づいたようにぴたりと動きを止める。
「……変ですね……」
「何がだ?」
「魔石は湿ってるんですけど……臭いはしない、というか、水なんですよね」
フーガはまたジョッキに浸かって笑っている。
「……雰囲気で酔うタイプなんだろ」
「雰囲気で酔うってあそこまでできるんですか」
次回 第三十六話『キョンシーファクトリー』
6/6 (土) 20:00更新予定




