第三十二話 吸魔の魔石
クアンの手を借りることになった。
人間と魔族のごった返す通り。フーガとカノンは蹴られないようにとクアンのすぐ後ろについて行く。
「あ、クアンじゃん。また今度飲み行こー」
「おークアン! 久しぶりだな!」
「はいはーい。また今度ねぇ」
どんどんと前に進んだり、急に立ち止まったり、直角に曲がったり、なんとかついて行っていると次第にそこにある姿たちは減っていった。そしてそのうち、網目状に装飾のと方角を指し示すような大きな記号が入った朱色の壁に当たった。
「……この壁がどうしたんですか?」
「道間違えた?」
「間違えないよぉ」
クアンは一歩前に出て、壁に向けて手をかざす。
「上上下下左右左右東南北西北北西東」
「何やってんの」
軽快に唱えながら壁を押し込んでいると、行き止まりだったはずの壁が開き、地下へ続く階段が現れた。
「なんか間違って打ち込んだりしてなければ私の部屋につくよぉ」
「こんなの作れるんだ……」
「まあ高位の魔族だとこれぐらいはやらせてくれるよぉ」
壁は薄汚れた白の漆喰、足元は四角に切られた石の階段。狭く、暗く、音が反響する。
「ちょっと怖いですね」
「足踏み外さなければ死なないよぉ」
薄暗いばかりの階段をしばらく下りていく。しばらくすると、隙間から光の筋の差す鉄の扉が見えた。クアンはゆったりとした足取りを少し早め、扉に手をかける。ぎいっと重々しく扉を開けると、光が溢れ出た。
「ここがー、市長? 町長? まあこの街の長な私の執務室ってやつだよぉ」
街の表の方とは打って変わり、鉄の板ばかりの壁に天井に床。それほど狭いというわけでもない部屋にぽつんと一つのデスク、入ってきた鉄の扉とデスクの左右に一つずつ、後ろに二つ、また鉄の扉があった。クアンはデスクの引き出しを一つ開け、じゃらじゃらと鍵を一束取り出し、デスクの後ろの右側の扉に鍵を刺して回す。その扉が開くと今度はすぐそこに金庫が一つ置いてあった。黒い鉄製の箱にダイヤル、鍵穴二つ、そして置いてある床には魔法陣が光っている。
「こんな厳重そうなとこに置いてるものをくれるの?」
フーガは金庫に近づく。触れようとしたそのとき、魔法陣がぱっと明るく光ると、突然フーガが破裂した。
「フーガさーん!?」
「その魔法陣近づくと生半可だと死ぬよぉ」
クアンは飛び散ったフーガを足で退けて金庫に近づく。それの上に一枚のお札をぺたりと張ると魔法陣がふっと消える。しゃがんでまた鍵をじゃらじゃらと言わせてかちりと回す。かちかちとダイヤルを回す。かちりと音が鳴った。
「お。いったよぉ」
「復活草代って出ます?」
「無理ぃ」
ぎぃっと金庫が開く。その瞬間、フーガとカノンは風が通り過ぎる感覚を感じた。
「ほら。これ」
ごと、とその真球の魔石を持ち、フーガの前に持って見せた。
「これちょっと訳アリで、ちょうど私が管理を任されてたんだぁ」
「そ、その魔石は。属性とか、そういうのは」
フーガにはそれの属性が何であるのか検討もつかなかった。多くの色がうごめき、どの色とも言えなかった。
「これはねぇ、吸魔の魔石。属性はいろいろ。あと喋る」
「いろいろって……喋る?」
「さすがに適当言われたってわかりますよ?」
「ほう。汝らが我の主となるか?」
突然、魔石から気取ったような男の声が発せられた。
「ほら喋った」
「うわほんとだ」
「イタい系だ」
「イタい系とか言うな愚か者」
次回 第三十三話『吸魔以上の魔石なんてこの世に存在しないキュマよ〜』
5/16 (土) 20:00更新予定




