第二十七話 出張キョンシーアタック
次の目的地をルースの街と決めた。
「なぁんでわざわざ歩いて行かなきゃいけないんですかね」
「まぁーそんなに遠いというわけでもないし……方角、合ってるよね?」
「地図を見る感じ、東、若干北で……ざっくり太陽が出てくる方向なので、合ってると思います」
緑色の身体をぷるぷると震わせ、緑の葉はがさがさと音を立て、フーガとカノンはフォスキアの街を出て、次の目的地であるルースの街へと向かっていた。
「もしかしたら、カルマンドさんと会えるかもですね?」
「東西南北の四択が当たればかな」
よく晴れた午前の平原。視線の先には青々とした森。
「なんで人間って、街と街の間をこんなに離してるんでしょうね?」
「魔王軍の侵攻を抑えるためだったはず。街を占領してすぐ近くにまた街があると、そっちも取りやすくなっちゃうからね」
次の街への道のりは、静かで何事もないまま進んでいくと思われた。鬱蒼とし、ほんの少しちらつく木漏れ日だけが地面を照らす森の中で動物たちが草を揺らして音を立てている。その音の中に、忙しないガサガサという音と、何かが空を切る音が聞こえてくる。
「静かに」
フーガがそう言い、そろそろと慎重に音が聞こえる方向へ行く。どちらにせよ、無視して通ることのできなさそうな方向から聞こえてくるものだった。
「くっ、しぶといなぁ!」
身軽な布の装備を着た黒髪の人間の男が棒切れを振るっている。それの相手をするのは五体の、青混じりの灰色の肌をしている、額に口のあたりまで垂れた札をつけた人型の魔族だった。その魔族が両手を前に突き出したまま固まった身体を跳ねさせ、飛びかかり、回転するようにして殴ったりと襲いかかっているのを、その男は避けつつ棒切れを振っていた。
「カノン。炎」
「はい」
カノンが根を伸ばし、自分の葉の中から赤い魔石を取り出してフーガの中に入れる。じわじわと赤色が魔石から染み出る。
「そこ、どいて!」
「え?」
人間の男は、後ろから聞こえるフーガの声の方向に振り向き、咄嗟に避ける。
「フォーコ!」
正気のない目が捉えたのは、赤いスライムから飛び出した炎の魔法だった。炎は五体の魔族を包み、黒く焦がして動きを止めた。
「やっぱね。アンデッドっぽい感じがした」
「感じ、でわかるんですね?」
人間の男は、フーガとカノンの存在を確認すると二体のもとへ近づく。
「そこの二人。助けてくれたの?」
「うん。僕らにとっては一体の人間でも仲間だし」
その好青年はフーガに笑みを向ける。
「ありがとうございます!俺の名前はシエルって言います!」
「僕はフーガ。よろしく」
「ぼくはカノンです!」
安心しきった様子のシエルの背後、黒く焦げた魔族がぎしぎしとゆっくり動きだす。
「お。アンデッドっぽいから火でいけると思ったんだけど……」
「まあゾンビ系ではあるよ。でも、殭屍は硬いんだ」
シエルは先ほどよりもゆっくりと迫ってくる殭屍を見据え、右手に持った棒切れを目の前の標的に向けつつ引いて構える。
「だけど」
そして、目にも止まらぬ速さで棒切れを突き出すと、胸部の一点を突き刺し貫通した。途端にその一体の殭屍は動きを止め、後ろ向きにばたりと固まったまま倒れた。
「急所を突けば簡単に倒れる」
シエルはしたり顔でフーガとカノンの方を向く。
「じゃあなんでさっきまでそうしてなかったの」
「いやー奇襲っぽい感じだったし、普段ここにこんなのいないし、数も多かったじゃん?」
「さっきので数が多かったってなると、今もう大変なことになってませんか?」
カノンの言葉で、フーガとシエルが周囲を見回す。いつのまにか、殭屍の軍勢が二体と一人を囲んでいた。
「十二体。シエル、それ以外に武器は無いの?」
「強くなりたきゃ棒切れでも敵倒せるようになれーって師匠が言ってたから置いてきた」
「アンデッド族で間違いではないな」
「うん。だから火、水、土は効く」
「カノン。もう一個」
「あ、はい!」
ぴょんぴょんと跳ねて迫ってくる殭屍。その中心で火球を一つ作り出す。
「フォーコ」
それを上に放り投げると、
「メタール!」
と、空中の火球に向けて金属片を飛ばす。火球はばらばらに四散し、周りを囲んでいた殭屍を炎で炙った。
「よし。足止めぐらいはできたかな」
「すごい!こんなことできるスライムいたんですね!」
「まあね。できるかどうか試してみたくなったんだ」
「ぼくの根っこを燃やしてなかったら完璧でしたね」
「あっごめん」
カノンは燃えた根を地面に埋めていたのを抜いて、先ほど急所を突かれて動かなくなった殭屍の札を剥がす。
「戦利品です。これだけ取って逃げましょ!」
「そうだね。シエルは」
「一旦一緒に!」
二体と一人は取り囲む魔族が動けない隙を突いて走りだした。
「ところでシエルさん!このお札って何か知ってます?」
「走りながら聞くことかなそれぇ!それは結束の護符!それを持ってるやつが近くにいればいるだけ強くなれる!ぶっちゃけ十人集まっても誤差だけど!」
「つまり一枚だけだと?」
「無価値もいいとこ!」
ある程度の距離を走ったとき、カノンの葉の中から飛び出ていた結束の護符が一瞬にして無くなった。
「あれっ、どっか行っちゃいました!」
「どっか行っちゃいましたじゃない、オレたちが盗んでいったのさ!」
「あーもう展開早いよ」
二体と一人の前に現れたのは、二人の男女の人間と一体の小さな鳥の魔族だった。
「盗めぬ物無き我らこそ、世界を救う大義賊!」
「名乗れば人が湧き、盗み去れば拍手喝采!」
「盗賊ギルド!ここに参上!」
「さあお前たち、オレたちからこの高そうな紙を返して欲しくばオレたちを倒してみるんだな!」
次回 第二十八話『あ。持ってっていいよ別に』
4/4 (土) 20:00更新予定




