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第二十六話 次の準備、それぞれの思惑

オブリガートが撤退し、フォスキアが人間の街へ戻った。

「一旦、カデンツァさんのところに行くんですよね?」

「ああ。そこで一旦、次の会議ってことだね」

フーガとカノンはフォスキアの街を出るため、リザードマンのいなくなった道を歩いていた。いるのは人間たちばかりである。

「カルマンドさん、元気だといいですね」

カノンは嬉しそうに言う。フーガはカルマンドの行方がわからなくなったことをカノンにそのまま言うことができず、街を出てカストラータと共に引っ越して行った、と教えた。

「ああ。多分、元気でやってるよ」

「そうですね!もう一回、カルマンドさんのお店見に行ってみませんか?」

「じゃあ行ってみるか」

二体の魔族は狭い路地へ進路を変えた。日の当たらない路地を進む。カルマンドの店の前まで行くのに、特段の苦労は無かった。カノンが根を伸ばし、扉を開けた。静かな店の中には、ラルゴだけがいた。

「あれ、ラルゴ」

「ああ、さっきぶりだなぁ」

ラルゴは小さな本とぐにゃぐにゃとした字が書かれた札を手に持っていた。

「買い物?」

「ああ。店主留守みたいだけどねぇ」

きょろ、きょろとラルゴは店を見回す。

「じゃ、俺は行かせてもらうよぉ。急がなきゃいけないからねぇ」

ラルゴはそうとだけ言うと、カウンターにいくつかの銀貨を置いて店を出て行った。がらんとした店をその場で少し見たあと、フーガ、カノンの順で静かに店を出た。また大きな通りへ出ようと路地を歩いていると、突如立ち止まったフーガにカノンが衝突する。

「いたっ、くはない。何かありました?」

「いや……変なもんあるなって思って」

フーガの視線の先には、灰色の壁に設置された、不自然な青色の扉があった。

「……気になりますね」

「うん。そんなに時間もかからないでしょ」

軽くフーガが言うと、カノンがドアノブを捻った。その扉の先は、木造の部屋、複雑そうな魔力精製器、そしてこちらを横目に見るカデンツァの姿があった。フーガとカノンは突如現れたそれに、しばらく固まった。

「早くして?見られたら面倒なことになっちゃうから」

「ああ、ごめん」

フーガとカノンはそそくさと部屋の中に入る。カデンツァは前と変わらず、微笑みを浮かべている。

「おめでとう。オブリガートを倒したみたいね」

「うん。結構がんばったよ」

くすりと笑い、脚を組み直す。

「ええ。わかってるわ。街一つ統治してた魔族を撤退させて、挙句新聞にもなれば名も広まる。今回の戦闘で魔力の使い方にも慣れて成長もできたと思うわ」

「そうですね。フーガさんも魔石を二つ扱えましたし!」

「でも……まだ足りないわね。最終的には魔王討伐だから」

「いろんな魔族にもついてきてほしいしね」

「え?魔王討伐するんですか?」

当たり前と言うように会話を続けようとしたフーガとカデンツァに、カノンがストップをかけた。

「……魔王を!?」

「そりゃ根っこからひっくり返すならそれくらいしないとでしょ」

「なんかこう、もうちょっと話し合いとかじゃ」

「彼は話し合いでなんとかできるようなのじゃないわ」

「だとしても、そんなことできるんですか!?」

「できるわ。私が根回しをして、あなたたちががんばれば」

「じゃあカデンツァさんも表でがんばれば良いじゃないですか!」

「私が大っぴらに出たら四天王が最低で二体は来るからちょっと厳しいわね」

「あなた何者なんですか!?」

「とりあえず、話をつけてる所があるの。次はそこに向かって、統治者から魔石を貰ってきてもらうわ」

カデンツァは強引に話を終わらせ、机の中から一枚の紙を出した。

「次は……ルースの街。発音しやすく言えばね」

「そこはどんな街なの?」

「元々は周りと同じような街だったんだけど、魔王軍に取られてから統治者の趣味が全開になって東の方の要素ばっかの異国情緒な街になったのよ。それ以外は平和だし、統治者もゆるくやってるだけだし」

「その、ルースの街の統治をしてる魔族は誰?」

「人間よ」

「魔王軍の人間?珍しいですね」

「魔王軍に所属するネクロマンサー。人間名は不明、魔族名はクアン・サン・シー。発音しやすく言えば。で、ランクはTop-2」

「Top!?」

「おー。Top」

「そ、そんなの倒せませんよ!行ったってどうするんですか!?」

「倒して来いとは言ってないわ。あなたたち用の特別な魔石を受け取りに行ってほしいだけ。強く敵対されるわけでもないのを保証するわ」

「……本当ですよね?」

「もちろん」

訝しげなカノンとくすくすと笑うカデンツァ。

「つまり、特別な魔石を受け取るためにルースの街に行ってクアン・サン・シーって人間から特別な魔石を貰う。それで僕らが強くなるから今後がスムーズになる。ってことで良い?」

「そういうことよ。今回も地図を用意しておいたから、これ使って」

「そういえばありましたね。カストラータさんがいたから今回は使いませんでしたけど」

カデンツァは、前にしたようにカノンの頭の葉の中に紙を入れた。

「じゃあ、行ってらっしゃい」

「どうもー」

「仕事はちゃんとしますから!」

二体の魔族はそう言って部屋を後にした。部屋を出ると、扉はもうすでに消えていた。

「……これで送って行ってもらったりできたんじゃないですか?」

「あっ」


フーガとカノンがいなくなった部屋。カデンツァが魔石に手を置き、そこから聞こえてくる声と対話をしている。

「ええ。そうよ。そのうち、そっちに行くと思うわ。酒呑童子(しゅてんどうじ)

「スライムとゴーストとは言え、ただならぬ者たちなのだろう」

その声は低い男の声だった。

「ええ。もちろんよ。大嶽丸(おおたけまる)玉藻前(たまものまえ)にも伝達してほしいわ」

「わかっている。そっちも、下手な真似をしてこれまでの俺たちの準備を無駄にするでないぞ」


「これはどういうことだ?たかがランク外のスライムとゴーストに、Under-3が負けるなど」

「申し訳ございません。魔王様」

オブリガートはぼろぼろの身体で、目の前の玉座に座る魔族へ跪いている

「もう良い。末端と言え失体は失体。武器に頼らなければ魔力も使えぬリザードマンが。投獄しろ───」

「お待ちください。魔王様」

オブリガートの後ろから、触手をうねらせながらドクターホロが現れる。

「この者を撤退させたのは私の判断です。それに、この者にはある才覚がありますから、私にそれを目覚めさせる時間をいただきたいのです」

「才覚……本当だな?」

「ええ、もちろん。この魔力を使えぬリザードマンだけが最大限扱える、強大な魔石があるのです」

次回 第二十七話『出張キョンシーアタック』

3/21 (土) 20:00更新予定

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