第二十五話 人間たちの灰色の街
フーガとカノンの新技でオブリガートを退けた。
倒れて動かないオブリガート。それを見るフーガとカノン。この戦いはここで終わった。
「さすがに、疲れましたね……」
カノンはしばらく動き続けたこと、魔法を何度も使ったことで疲労し、その場で眠り落ちてしまった。激しい音が途絶えたことで、人間たちが様子を見に家から出てきていた。
「オブリガートが倒れてるぞ」
「なんだ、あのスライムは?」
そこにいる魔族に、人間たちがざわめいている。
「カストラータ、は、どコ……!」
フーガはカルマンドの声の方へ振り向いた。カルマンドはトランクィロの胸ぐらをつかみ、息を切らしながら鬼気迫るような表情を見せていた。トランクィロは静かに、何か鳴き声を発する。
「居場所はわかったの?」
聞いてみるが、カルマンドは固まったままでいる。ようやく、トランクィロを離したと思えば、一目散に駆け出していってしまう。
「カルマンド、カルマンド!」
フーガの呼びかけさえも聞こえないと言うようだった。身動きの取れないまま呼吸をしているトランクィロ、気絶するように眠ったカノン、去っていった方向を見ていたフーガ。
「スライムは、魔力の塊のようなものです」
オブリガートは、余力でゆっくりと立ち上がった。しかしそこには、銃を握る力さえもない。
「土中へ埋めると、そこから魔力が湧き新たなスライムが生まれる……利用させてもらいました」
「……いらないことを話すなんて、やっぱりリザードマンか」
「話しても、問題ないと判断しました」
二体の魔族は、何もせず睨み合う状態になった。これ以上戦うこともできそうにないオブリガートに対しては、フーガは何もしなかった。
「そこまでにしたまえ。友人よ」
沈黙を破るように声が聞こえた。その声の正体は、オブリガートの背後に突如として現れた。白いローブを被り、その中からいくつもの紫の触手が伸びて巨大に見える。触手はゆっくりとオブリガートを掴み、持ち上げた。
「どうやら目算を見誤ったらしいな。炎属性を凝縮させた四番を使えば、鉄を貫き、少なくとも相打ちにはできたやもしれないのに」
「……何をしに来たのですか……」
「反逆者に負ける友人に挨拶に来たのだよ。この程度の監視と予測はお手の物だからな」
紫色の瞳が光を放っている。その光は、フーガへと視線を向ける。霧が立ち込めてきて、光がぼやける。
「久しいな。フーガ。私のことは覚えていないだろうがな」
「また一人称私の不審者?」
「まあそう思ってもらって差し支えない。どうしようにも否定できないからな」
触手のうちの一つが、ローブの中から黄色い球状の魔石を取り出す。
「では、こう取引をさせてくれ」
「取引?」
「オブリガートをこちらに引き渡せ。そうすればこの街を統治する権限を一度人間に返そう」
「それが本当ならいいよ。もともと殺す気も無かったから」
「Middle-2だ。部下の処遇を決める権限ぐらいはある」
触手の先の黄色い魔石がきらりと光る。
「最後に。私はドクター・ホロと呼ばれている。ホロ博士、は格好がつかないから避けてくれ」
その言葉の後、ドクター・ホロという魔族はオブリガートと共にふっと消えてしまった。辺りは濃い霧に包まれる。
「おーい!スライムとトレント!」
後ろから声が聞こえた。さっき家に匿わせてくれた人間の男だった。
「霧が出てきた!早くこっちに来い!」
見回してみると、いつの間にか人間は一人も外にはいなかった。
「……わかった。すぐ行く」
カルマンドの行った方向は、濃い霧に包まれてもう見えない。フーガはカノンを持ち上げ、男の方へ駆け出した。その日の残りは男の家の中で霧をやり過ごすので終わった。翌日、男によって街の住人たちが集められた。もうすでにリザードマンたちは一体もいなくなっていた。
「こういうの緊張するな」
いつもオブリガートが立っていた場所に、緑色のスライムがいる。街の人間たちがざわめく。
「僕は伝聞でしかないんだけど、この街のことは聞いた。何を規制するかはともかく、秒単位、ミリ単位のズレによる厳罰だとか、そういうのがあったらしい。すべて、オブリガートという魔族がここを統治していたからだ。だけど、僕らはオブリガートを退け、魔王軍の手からこの街を人間たちのもとへ戻した」
少し間を置く。
「フォスキアは人間の街だ」
「最高だフーガくん!カノンくん!」
スピーチが終わった後、フーガは目の前の鳥人の圧力に気押されているところだった。
「えーっと、ラルゴ。この魔族は?」
「エピック。人間のとこの新聞ギルド所属らしい」
「そうだ!新聞!新聞にきみたちのことを書かせてほしいんだ。きみたちの名が知れれば、行く先々の人間がきみたちを支持してくれるかもしれないし、人間の魔族へのイメージ改善も狙える!」
「んーじゃあお願い」
「決めるの早いですねー。まあボクも同意見ですけど」
実際、フォスキアの中でフーガのスピーチの後でもフーガやカノンを訝しげな目で見る人間もいた。それほどまでのイメージは悪かった。
「はいじゃあ写真撮るよ!」
手持ちのカメラをバッグから取り出し、翼で器用に持ってフーガとカノンへカメラを構えた。
次回 第二十六話『次の準備、それぞれの思惑』
3/21 (土) 20:00更新予定




