其の一 出逢い4
多くは話していないのに、壮軌は俺がただの人ではないのに気付いているようだった。
俺は庭に面した縁側に座り、壮軌にも座るように促す。
彼が隣に腰を下ろしたのを確認してから、俺は自分の事を話し始めた。
「俺には、この姿になるまでの記憶がないんだ」
ある日気付いたら見知らぬ家―そこは俺の生まれた家だったらしいのだが―にいた。
自分の名前も、家族の事も一切の事がわからなくなっていたんだ。
隆生という名も、その時そば居た人たちが教えてくれたもので、それが本当に自分の物であるという実感はまったくなかった。
それでも日常のことは迷わずできたから回りの人間はいつか記憶も戻るだろうと優しく受け入れてくれていた。
……最初のうちは。
そのうち、俺が全く年を取らないことに気付いた両親は俺をこの別宅に移し、俺の世話をする使用人をつけてくれた。
その両親もとうに亡くなって、今では父親だという人の弟が家を継ぎ、今はその孫に当たる人が当主を務めているはずだ。
長い飢饉や、様々な内乱にも本宅の家業は揺るぐことなく、寧ろますます繁盛している。
そして俺は、外見は二十歳の青年の姿のまま五十年以上を過ごしていた。
「で、今朝壮軌に会ったって訳だよ」
俺が話している間、壮軌は何も言わず黙って聞いていてくれた。
その深緑の瞳は何を思っているのか静かに俺を見つめている。
「なぁ、壮軌はどこからきて、どこに行くんだ?」
「俺は……」
俺の問いかけに壮軌が答えようとした時、廊下を軽快な音を立てて走ってきた二つの小さな影が壮軌と俺にぶつかった。
「おはよう!隆生にい」
「おはよぉ」
「って、この兄ちゃんだれ?」
壮軌が思わず抱きとめた方の子供が、驚いた声を上げて飛び退く。
「だれ?」
俺が抱きとめた方も、俺の腕の中から見上げて聞いてきた。
「彼はマサキだよ。
壮軌、この子達はさっきの弥市の息子で、こっちが長男の正太」




