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灰色の天使、金の魔法使いを婿に迎える  作者: ジュレヌク


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第六話根っからの商売人(ジョン・エンジェル)


 魔道士団の仕事時間は、フレックスタイム制度だ。

 と言えば聞こえがいいが、用は、一旦仕事を請け負えば、終わるまで働き続けると言うことでもある。何徹もしている者も居れば、要領よく定時退社する者もいる。そして、耐えきれずに辞める者も多かった。

 結局、能力がなければ擦り潰されて終わりのブラック企業。代わりに給金は莫大で、一年勤め上げれば一財産築けるとさえ言われている。ここで生きていける人間は皆指折りの魔導士であり、変わり者ばかり。変人奇人の集合体と言える。


 新人マックスに与えられた仕事は、雑用と言うなのなんでも屋で、先輩達の手が足りない所へ回された。

 簡単なものは部屋の掃除で、牢獄などで撒き散らされた怪しげな液体を、ゴシゴシブラシで擦り落としたりする。

 難しいものは、超精密な魔法陣をスクロールに書き写すことだ。一文字違えれば魔法が発動しない。一枚書き上げるのに通常1時間はかかり、それを二十枚作成しろとか言われる。普通に考えれば二十時間労働だ。

 しかし、有り難いことに、マックスには無尽蔵と言われる魔力がある。己に高速で動ける魔法と自動回復の魔法を二重にかけて、十時間で仕事を終わらせた。まぁ、それでも、トイレすら行かずの十時間労働で、ブラック以外のなにものでもないのだが。


 夕日が落ち、やっと帰宅の途につけるマックスの前に、大きな影が現れた。 


「よう、マックス」

「団長、お疲れさまです」


 魔道士団の団長であるシュリーマン・タングステンの前で、マックスは、敬礼をした。


 シュリーマンは、身長185センチのマックスより更に10センチ以上高く、魔道士団じゃなくて、本当は騎士団の団長じゃないかと噂されている人物だ。多分、普通に腕力でも魔物を捩じ伏せる力は持ってる。


 しかし、繊細な魔法陣を組むのを得意とし、見た目に反した頭脳派でもあった。


「で、どーなんだ?」

「何がでしょうか?」

「伯爵の一人娘と婚約したんだろ?他の女は、五月蝿くなる前に、切っとけ」


 流石、若かりし頃は、視線を合わせただけで女が孕むと言われたレディーキラーだ。言う事が、エグい。見る度に、連れている女が違うため、マックスも不用意に近づかないようにしている。


「自分は、最初から身綺麗です」

「は?その顔で、童貞かよ。面白くねーな」


 頭を左右に傾けて、ゴキゴキ音をさせると、もう興味がなくなったらしく、そのまま去っていった。シュリーマンは、無駄に威圧感がある。マックスですら、前に立たれただけで、手にびっしょりと汗をかいた。




婚約を申し込みたい相手がいます。


その前に、借金を全額返したいです。


なので、支度金が必要です。




 これは、マックスが、入団面接で、臆面もなく言い切った言葉だ。『支度金』の話を教えてくれたのは、ジャックだった。


「何でもいいんだ、割のいいバイトを教えてくれないか?」


 再会して直ぐ、マックスは、ジャックの元を訪ねた。少額でもいいから、少しでも早くラビナに借金を返したかったのだ。


「お前、馬鹿だろ?」

「は?」

「そんだけの力あるなら、やり方考えろよ。情報は、力だぞ」


 ジャックは、己の能力を活かしきれていないマックスに溜息をついた。


「お前、卒業したらどうするつもりだ?」

「勿論、働く」

「どこで?」

「どこ……と言われても、今は、勉強するだけで精一杯だ」


 真面目にコツコツ頑張りだしたことは評価すべきだろうが、将来的展望は全くない。そんな、哀れで馬鹿な弟分に、ジャックは、有益な情報を与えてくれた。


「魔法学園で首席卒業しろ。」

「首席?」

「あぁ、そしたら、魔道士団の入団面接が受けられる。」

「魔道士団?」

「年に一人の狭き門だ。しかも、合格者は、数年に一人。その代わり、『支度金』が出る。コレなら、どんな借金も、一発完済だ!」


 ジャックのように、まだ二十歳にもならない青年が、商売をするのは厳しい。

 だから、足元を見られないよう、調査とハッタリは、最重要戦略らしい。魔法師団のことも、子供達が草抜きなどの下請け仕事をさせてもらう際、どんな職場なのかを一から調べ上げたから知っていたのだ。

 上司として、孤児たちの兄として、危険なところに子供たちを派遣できないと思っていたのだろう。


「俺に、出来るかな?」

「出来るか出来ないかじゃねーだろ。やるか、やらないかだろ。出来なきゃ、お前のお嬢様への思いも、その程度ってことさ」


 その言葉が、マックスに火を点けた。そこから彼は、全ての時間を、勉強に注ぎ込んだ。この膨大な魔力量をフル活用し、体をボロボロになるまで酷使しては、回復魔法を自分に掛けた。


 ニ年後のマックスは、座学でも、実戦でも、『学園創立史上最高』と言う評価を得た。それを引っ提げ、面談で一発かましたマックスを気に入り、即刻サインしてくれたのは、今の団長だった。


 ニヤッと笑って『死ぬまで使い倒してやる』と言われた時の恐怖は、一生忘れない。


 ラビナの両親から借りた金は、領地の橋が台風で流れた時に修復費用として使い切っていた。片田舎で、コツコツ麦を作る領民達の生活を守る為だったとは言え少なくない額だったし、正直、返せるか不安だった。


 ジャックの発案のお陰で、この難題が片付いた時、マックスは、思いもよらぬ行動に出た。今思えば、きっと、ネジが一本、飛んでいたんだろう。

 

 なんと、マックスは、その足でエンジェル家の門を叩いてしまったのだ。そして、丁度外出する所だった当主ジョン・エンジェル伯爵と鉢合わせする。


「娘さんをお嫁さんにください」

「その前に、君は、どちらさまかな?」


 貴族なのに『根っからの商売人』と揶揄されることもあるジョンは、突然の訪問者にも驚きもせず、営業用スマイルを浮かべた。彼にも多少の魔力はある。特に、人を見極める際に鑑定にも近い能力を発揮するのだ。

 ジョンの目には、マックスの体全体から立ち上る魔力が見えていた。その量は半端なく、メラメラと空に登っていくようだった。


『これは、大した逸材だ』


 内心驚きながらも、コレを伯爵家に取り込めれば、それはそれでお得だなと思った。

 

 その後、全ての話を聞き終わったジョンは、マックスにこう言った。


「先ずは、ご両親に魔道士団に入団出来たことを報告なさい。そして、家族でお祝いをしなさい。話は、それからだね」


 マックスは、恥ずかしくて穴があったら飛び込んで埋めて欲しいとすら思った。貴族の婚約とは、家と家の繋がりとも言える。一足飛びに、本人が家格の上の当主に売り込むなどありえないのだ。


「申し訳ありません!」

「いやいや、私としても、とても興味深い話だったよ。そうか、娘からクッキーを貰っていた子がねぇ。貴族なのにねぇ」


 身分を偽り、孤児に紛れてお菓子を貰っていたことまで包み隠さず話してしまったが、それは、言わないほうが良かった。


 反省しても、時既に遅し。終わったと泣きながら帰ったが、数日後、


「マックス、貴方何をしたの!」


 休日にふて寝をしていたマックスの元に、ルビーの叫び声が届いた。


「なんだよ、母さん、朝から」

「だって、エンジェル伯爵家からお手紙が!」

「え?」


 あの後、どうやらジョンは、マックスについて相当綿密に調査をしたようだ。そして、彼のお眼鏡にかなったらしい。


「うそだろ……マジかよ……」


 エンジェル伯爵家の紋章が入った手紙は、婿入りの打診だった。しかも丁寧に、女伯爵の夫としてどのような仕事をするべきなのかまで事細かに書かれている。無論、浮気などは絶対にダメだし、その事実が明るみに出た瞬間離縁……まるで契約書のような手紙だ。

 それを手に、マックスは、ポロポロ涙をこぼし続けた。長年の恋が、ようやく実った瞬間だった。浮気なんて死んでもしないし、向こうが想定している十倍は働くつもりでいる。


「ありがとうございます」


 マックスは、その場にいないジョンの顔を思い浮かべながら、両手を胸元で組んで感謝の気持ちを口にした。


おはようございます。まさか、このお話が、異世界恋愛ランキングの日計十位以内に入れるとは思っておらず、驚き桃の木山椒の木です。皆様の応援、感謝感激雨霰。せこく、しぶとく、忘れられない程度に名前がランキングに載ればよいな~♪

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