第五話マックスを買ってよ!(ざまぁ①)
折角タグにざまぁがあるので、一話投稿しておきます。皆様、良い週末を!
「何よ、何よ、何よ!なんで言うとこを聞かないのよ!」
マックスから拒絶されて、ラビナは、自分の部屋にあるものを手当たり次第に放り投げた。
ガシャン、ガシャン、ガシャン
特注で作らせたオルゴールも、異国から取り寄せた陶器製のウサギの置物も無惨に壊れ、部品や破片が床に転がる。
今まで、こんなこと無かった。どんなに我儘を言っても、最後には、言うことを聞いてくれていたのだ。
『これが、最後だからな』
マックスが毎回言うセリフに、
『最後、最後って、勿体ぶらずに、最初から言うこと聞いてくれたらいいのに。恥ずかしがり屋ね』
と思っていた。
それが、今回ばかりは全然話を聞いてくれない。自分を蔑ろにするマックスなんて、ラビナの好きなマックスではない。
「もーーーー!」
ガシャンガシャンガシャン
何を投げても、腹の中から怒りが湧いてくる。その様子に、流石のメイドも怪我覚悟で止めに入った。
「お嬢様、おやめ下さい」
「五月蝿い!」
やはりというべきか、
ガシャン!
「きゃーーーー!」
メイドは、投げつけられた花瓶が頭に当たって倒れた。傷口からは、かなりの血が流れ出ている。これ以上怪我をしないよう、頭を抱えて床で丸まるが、ラビナは、何も投げつけてこない。
どうやら、血を見たことで、少し怖くなったようだ。
「ふ、ふん、私を止めようとするからよ!」
ラビナが、こんなにもムシャクシャするのは、産まれて初めてのことだった。昔から、お金で買える品物なら、どんなに高くても、親に言えば、次の日には手元に届いた。
キラキラブロンドの髪を持つ彼女は、兎に角なんでもキラキラした物が大好きだった。
宝石も、ドレスも、人間も。
だから、子供の頃からずっと、飛びきりカッコよくて、将来性があって、貴族のマックスが欲しかった。なのに、たかが貴族令嬢ってだけで彼を横取りするなんて許せなかった。
ムカムカして転がるメイドに一発ケリを入れたら、
「ゲコッ」
とカエルのように鳴いた。それが少し面白くて、口元を意地悪く緩める。
「ちょっと!絨毯を血で汚したら、ただじゃおかないからね!」
ラビナは、這いつくばって割れた花瓶を集めるメイドに罵声を浴びせた。この絨毯は、本来、ブリリアント男爵家にあったものを利息代わりに奪ったものだ。
本人は、お金を貸したお礼にくれた物だと思っているようだが、あちらの家では母親が実家から持ってきた大切な品物だった。今でも、恨みに思っている。
ラビナは、あまり良く無い頭を働かせ、また、ろくでもないことを思いついた。
「そうだ!お父さんに、言わなくちゃ!」
彼女は、勢い良く部屋から飛び出すと、父親の居る書斎まで走った。そこには、女性としての品も行儀作法もない。
バタバタバタバタ
足を鳴らし、髪を振り乱し、
「お父さん、お父さん、お父さん!」
叫びながらドアを開けた。
「おぉ、何だい、ラビナ」
どんな姿だろうが、娘が可愛い父親のドワンゴは、両手を広げて歓迎した。
いつもなら、その胸に飛び込んでくる娘が、顔を真っ赤にして足をバタバタ踏み鳴らすので、首を傾げる。
「どうしたんだい、そんなに顔を赤くして」
「マックス様に貸したお金、全部引き上げて!」
「何のことかな?」
「ブリリアント家に、お金を貸してるのよね?」
「あぁ~、アレか」
ドワンゴが苦虫を噛み潰したように、眉間に皺を寄せて、口をへの字にした。
「いやー、突然、全額返済されて驚いたよ。それも、かなりの利息を上乗せしてな」
「それ、どーゆー事よ!」
「マックス様が、首席卒業した上に、魔導士団へ入団することが決まっただろ?そうしたら、国から『支度金』が出たんだ」
「支度金?」
「国の中枢に勤める人間が、借金なんてしてたら、どう付け込まれるか分からないだろ?だから、相当の金が、入団決定と共に給付されるんだ。国の方針だからな。返済を断れなかった」
「そんな話、聞いたことない!」
ラビナが思い描いていた未来と、全然違う。マックスは、自分を愛していると思っていたし、だから、お金も糸目なく貸すように父親に口添えしていたのだ。
彼らの苦しい懐具合に漬け込んだ汚い手だが、ラビナの中では、純愛による自己犠牲に書き換えられていた。
「じゃぁ、もう、マックスは、私の言う通りには動いてくれないの?」
マックスを、自由に動かせるマリオネットとでも思っていたのだろうか?玩具を奪われた赤子のように、ラビナは、奇声を上げて暴れ始めた。
「やーーーーーーーー!」
「こら、ラビナ、止めなさい」
再び、物に当たりだしたラビナは、書類にワインボトルにグラス等書斎にあるものを投げまくる。
すると、重要な契約書が赤く染まり、いつもラビナに優しい父親の目が変わった。
「止めろと言っているだろー!」
バチン
頬を叩かれ、ラビナは、やっと止まった。
「あ、すまない、ラビナ。しかし、お前がいけないんだぞ」
「叩いた、叩いた、叩いた、わーーーーーん」
頬の痛みに泣き出したラビナに、母親が飛んできた。
「あなた、なんてことを!」
「ラビナがいけないんだ!さっさと連れて部屋から出ていけ」
床に散らばった契約書を拾い集めながら、ドワンゴは、ギャーギャー騒ぎ続ける母子にうんざりした表情を浮かべた。
「お母さん、ほっぺ痛い」
「なんて、可哀想に」
「マックス様、欲しい!」
「元々貴女のものでしょ?」
「今は、違うの!買って、買って!マックスを買ってよー!」
その日、ラビナの鳴き声と怒鳴り声と奇声は、止むことがなかった。




