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【完結】灰色の天使、金の魔法使いを婿に迎える  作者: ジュレヌク


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第四十二話露店の壁と馬上の人

 歌や踊り、演劇にパントマイム。街の人々が、ここぞとばかりに自分の持ちネタを披露していく。


 舞台の横には、出番を待つ人の列が長く続いていた。この全てが終わるには、あと二、三日は必要そうだ。


『これは披露宴ではなく、演芸披露大会に名前を変えた方が良いのではないか?』


 ジョンが横を見ると愛妻のリシーは、楽しそうに拍手をしていた。

 しかし、娘のシャーリーに視線を移すと、その顔色の悪さに心配がつのる。時計と睨めっこしているところ、ジポーノ国の使者が王宮に到着する時間を考えて気もそぞろになっているのだろう。折角のお祝いを楽しませてやれない事に、申し訳無さを感じた。


「ジョン様、お耳に入れたい事があります」


 執事のホーランドが、ジョンの背後に立った。あえて振り向かず、軽く右手を上げ、人差し指を揺らす。


『話せ』


 無言の命令に、ホーランドは、主の耳元に口を寄せた。


「ジポーノ国の使者が、第三中継地点を通過したと伝書鳩で知らせが来ました。あと、一時間程で到着すると思われます」

「速やかに、シャーリーとマックスをここから離脱させろ」

「はっ」


 これまでも、お色直しに2回ほど控室に入っている。暫くは、誰も気づかないだろう。このまま二人は、ハネムーンを兼ねて、エンジェル伯爵領に向かう。王都から『馬車』で五時間ほどの風光明媚な場所だ。


 しかし、二人には、馬を一頭用意した。早駆けでニ時間もすれば領内には入るだろう。

 そこには、本宅と別荘がニつ、そして隠れ家が二つと合わせて五つの屋敷が存在する。どこに居るのか探し出すのに、王族でも、数日はかかるだろう。


「ジャックに、後は頼むと伝えてくれ。私は、王宮に向かう」

「はっ」


 指示を受けたホーランドは、何食わぬ顔で踵を返し、その場を去っていた。彼の気配がなくなるのを確認してから、ジョンは、妻の手を取った。


「リシー」

「はい、あなた」

「そろそろ家に帰りなさい。戸締りは、しっかりと。明日の朝まで誰が来ても開けてはいけないよ」


 ジョンの言葉に、はしゃいでいたリシーがハッと息を呑み、心を落ち着けるようゆっくりと頷いた。


「ご武運を」

「ははははは、戦いに行くわけじゃない。私は、ただ、シャーリー達の結婚式が無事に終わりましたと報告をしに行くだけだよ」


 妻を安心させるように、ジョンは、あえて明るく、努めて穏やかに話す。 それが余計にリシーを不安にさせるが、多くを語り合う時間はもうない。


 ジョンは、妻の額にキスを1つ落とした後、影のように静かに劇場を後にした。シャーリーにもう一度会いたかったが、既に馬上の人だろう。


「ふぅ」


 ジョンは、これから会いたくもない狸共を相手に、のらりくらりと時間を稼がなければならない。折角の浮かれた気分が台無しになった。




「了解、こっちは、任せろ」


 ホーランドからの連絡で、ジャックは、エンジェル家全員が、ここを離れた事を知った。クイーンに目配せして、幼い子供達を先に帰らせる。


 まだまだ飲み足りない大人達は、楽団の演奏に合わせて踊り出した。ここは、暫く放置しても大丈夫だろう。


 ジャックは、外に出ると大きく伸びをした。


 もし、仮にシャーリーを確保しようと王様が兵を動かしたとしても、数時間は時間稼ぎ出来る。何故なら、王宮から劇場に通じる一本道は全て露店で埋め尽くされているからだ。


 馬車も馬も、下手をしたら人間すらも1メートル進むのに小一時間かかるかもしれない。披露宴に参加出来た人間は孤児院関係者やグレイ商会に関わる人間達だけ。


 それ以外の都民は、華やかな露店を楽しみながら祭り気分を楽しんでいる。


『露店と人が織り成す壁。超えられるものなら、超えてみろ』


 ジャックは、自分の立てた作戦に、至極ご満悦だった。

 しかし、


「あぁ、そう言えば、エンジェル伯爵も今頃立ち往生してるだろうなぁ」


と考えが至ると、申し訳ない気持ちにもなってくる。


『王宮にたどり着くのは、明日の朝か?』


 人混みに阻まれ、遅々として進まぬ馬車は、『致し方ない理由』で登城が遅れてしまう予定だ。時間稼ぎの為には仕方ないが、あの小さな箱の中で長時間過ごすのは辛いだろう。


 ジョンが数キロ先の城に辿り着くよりも、逆走して王都を脱出したシャーリー達の方が、早くベッドに潜り込めるかもしれない。


「伯爵、頼みましたよ」


 ジャック達に出来ることはもうない。あとは、お貴族様の腕の見せ所だ。




ドドドッドドドッドドドッドドドッ


 エンジェル伯爵家一番の俊足を誇る牝馬に跨り夜道を走る。

 シャーリーは、マックスの背中にしがみ付くので精一杯だ。辺りは真っ暗で、何も見えない。頼れるのは、マックスの温もりだけ。


「あと少しだから」

「はい」


 マックスと馬の目には、夜目が効く魔法がかけられている。追跡を逃れる為に、明かりを灯すことは出来ないらしい。


 向かうは、山の上に建てられた隠れ家。歴代の当主が狩りを楽しむ為だけに建てられた場所で、自然を出来るだけ残した作りになっている。最初からここに逃げ込む事を決めていて、食料や衣服は、前もって運び込んでいた。


 初めて二人で過ごす夜が、こんなにスリルに満ちたものになるなんて思っていなかった。初夜のドキドキも相まって、シャーリーは、口から心臓が出てしまいそうだ。


 屋敷にさえ入れば、この山全体に、目眩しの魔法をかけるとマックスが言っていた。


『山一つって、かなりの広さあるんですけど?』


と、最初聞いた時、度肝を抜かれた。

 しかし、贈られた指輪の効果を体感することが増えた近頃では、マックスならそれくらい軽くやってのけるだろうと思っている。


 それより、今は揺れる馬上で舌を噛まない様に歯を食いしばることの方が大事だ。


グーーーーーーーーーーッ


 情けないほど、シャーリーのお腹が鳴る。披露宴では緊張しすぎて、殆ど食事に手をつけられなかった。


『あぁ、こんな事なら、最後のデザートを後回しにせず、1番最初に食べておけば良かった。』


 シャーリーは、大好物のプリンアラモードを思い出し、ゴクリとツバを飲んだ。


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― 新着の感想 ―
屋敷にさえ入れば、この山全体に、目眩しの魔法をかけるとマックスが言っていた。 マックス頑張れーーーーーーーーーーー!!!!!!
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