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【完結】灰色の天使、金の魔法使いを婿に迎える  作者: ジュレヌク


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第三十一話怒らせてはいけない人

『ご相談したいことがありますので、我が家におこしいただけないでしょうか?なるべく早く会いたいです。遅くもかまいません。お願いします。待っています』


グシャリ。


 マックスは、シャーリーの美しい文字が並ぶ手紙を、思わず握り潰していた。

 普段の手紙なら、保存魔法をかけ、色褪せる事のないよう、異空間に繋がるマジックバッグの中に丁重に入れておく。


 しかし、シャーリーの耳飾りから話を盗み聞きしているマックスは、怒りのあまり、


ボッ!


焼却処分してしまった。


「マックス・ブリリアント、ここは、火気厳禁よ!」

「すみません、ジェローナ副団長。つい」

「私だって、燃やしたいのを我慢しているんだから」


 ジェローナの視線の先には、机に突っ伏して爆睡するシュリーマンがいた。


『いや、人間、燃やしちゃ駄目ですから。』


 ツッコミを入れたいが、返しが怖いので言葉を飲み込んだ。


 連日の徹夜で限界が来たのだろうが、確かに、部下を働かせておいて、それはないとマックスも思う。

 しかも、今はシャーリーの緊急事態だ。出来ることなら今直ぐ、飛んでいきたい。はやる気持ちが顔に出ていたのか、


「何か、あったの?」


頼れる副団長は、新人魔道士へ気遣いを見せる。ジェローナの目には、マックスが、なにか重要そうな問題を抱えているように見えた。


「大した事では・・・婚約者に横恋慕する蠅が、ブンブン飛んでるみたいで」

「燃やそうか?」

「いや、何でも直ぐ燃やしちゃ駄目ですから」


 ここ最近、皆が不眠不休で、ダンジョンから発掘された遺物調査に駆り出されている。


 それは、今、厳重に結界が張られた金庫に収められているが、『魔物を呼ぶ』と言う、厄介な性質を持っている。いつ、誰が、何処で作ったのかも定かではない。


 ただ、その威力が強力過ぎて、放置する事が出来ない代物だ。早く処理したいが、壊す事も、性質をなくす事にも成功していない。


「今日は、もう良いわ。団長も、使い物にならないから」

「はい、では、失礼します」


 マックスは、荷物を手に持つと、走り出した。


シャーリー、シャーリー、シャーリー。


 泣いているかもしれない婚約者を思うと、心臓が、キリキリ痛んだ。




「なぁ、リシー、もう許してくれ」

「駄目よ、口先だけの謝罪は」


 寝室で、ジョンは両腕を上げ、お尻を後ろに付き出した空気椅子状態で静止させられていた。既に、ふくらはぎは、プルプルと震えて死にかけている。

 これは、学園では悪さをした生徒に行われる罰で、学生時代はジョンも何度となくやらされた。

 そんな懐かしい『お仕置き』をされながら、


「ジョン、貴方が今しなければならないことはなにかしら?」


 先生のような口調でリシーに質問され、つい学生のように、


「はい、今直ぐ君とシャーリーを連れて他国に逃げることです!」


とジョンは大きな声で答えた。


「違うでしょ!」


 夫の単細胞加減に、リシーは、更に大きな声でダメ出しをする。この男、実は人格的に、かなり問題があった。


 ジョンにとって、国など本当にどうでも良いのだ。金なら、各国に隠し口座を作ってある。身一つで移住しても妻子を困らせるような甲斐性無しではない。

 ただ、どうも彼の優先順位が妻と娘に全振りしている為、その後の想像を全くしていない。


「私達が去ったら、この国は傾きます!」


 彼の傘下に居る者は勿論、シャーリーを追ってグレイ商会の関係者は、皆、新天地へ移るだろう。そうすれば、彼らと繋がりのある商会や金融機関も移転を考える可能性が出てくる。それほどまでに、エンジェル伯爵家の存在は、フローラ国に影響を与えるのだ。

 そうなれば、引越し費用を賄えない者や老齢な者は、置いてきぼりを食うことになる。リシーは、娘が幼い頃から一緒に炊き出しや配給に立っていた経験から、彼らを見捨てることは出来なかった。

 それに、シャーリー自身が苦しむような方法は、取りたくない。彼女は、もう、マックスと離れられないのだから。


「結婚を急ぎましょう」

「えー、あと半年あるのに…」

「だまらっしゃい!」


 リシーは、持っていた扇でジョンのお尻を叩いた。


「あー、変な扉が開きそう」

「もーー!変なこと言わないの!貴方!さっさと動いて!」


 リシーに怒られずとも、ジョンだって考えている。貴族は、国が違えど処女性を重んじる傾向にある。

 王都を上げて大々的に二人の婚姻を祝い、初夜さえ迎えさせれば相手方としても手を出し難いはずだ。

 

 完璧とは言い難いやり方だが、最後には逃げればいいと思っている。無論、ブリリアント男爵家も連れて。シャーリーにとって彼らが大切な存在なのだと理解できるようになったあたり、ジョンも少しは成長をみせている。


 妻には頭の上がらないジョンだが、『元祖金のなる木』だ。彼の持つ世界規模の流通網を使えば、何処までだって逃げられるし、時間をかければジポーノ国への物流を止めることも不可能ではない。

 ただ、実現するには、莫大な金と時間が必要で現実的ではない。


「じゃあ、久しぶりに、私も本気を見せようかねぇ」


 プリプリ怒るリシーが部屋から出ていった後、ドカリとソファーに身を沈めたジョンは、ここからの計画を練り始めた。その表情は、妻子には決して見せない悪どい顔をしていた。



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