第二十八話満天の夜空のプロポーズ
「馬子にも衣装ねぇ」
微笑むルビーが、満足そうに頷いた。マックスが着ているのは、魔導士団の団員が、正式な式典で着る正装。
濃紺のローブに、縁飾りは金の蔦模様。白いウイングカラーシャツに黒のボウタイ。パンツも濃紺で、サイドにローブと同じ金の蔦が描かれている。
今日、やっと出来上がり、ブリリアント男爵家にて初のお披露目となった。
「ほら、シャーリーちゃんも、何か言ってあげて」
ルビーに促され、シャーリーが、おずおずとマックスに近づいてきた。
「マックス様、素敵です」
真っ赤になって俯くシャーリーは、全方位的可愛さで、今すぐ隠してしまいたくなる。己の灰色な髪と瞳に自信を持ったシャーリーは、もう、背を丸めることはない。
今や、彼女に憧れる女性は、多い。平民達も、髪にリボンやビーズを組み合わせ、日常に彩りの花を添えている。
ジャックが言うには、ここ最近、マックスとの婚約が周知されているにも関わらず、婚約の打診をしてくる奴らが居るらしい。
エンジェル伯爵の経営手腕は、誰もが知るところ。しかも、シャーリーが後押しするグレイ商会の繁盛も加わり、公爵家や侯爵家の次男、三男までもが、虎視眈々とマックスの後釜を狙っている。
ただ、シャーリー本人は、いたってマイペースで、何も気付いていないのが救いだ。
「シャーリーも、素敵だ。今日の髪飾りは、薔薇?」
「えぇ、お針子の皆が、残り布で作ったコサージュをプレゼントしてくれたんです。あんまり綺麗だから、髪結店でも、店舗に展示して販売する事にしたんです」
端切れすら商品にしてしまうお針子とシャーリー。この商才を、ある貴族のバカ息子が、
『金のなる木』
と、侮蔑とも取れる言葉で評した事があった。
キレたエンジェル伯爵が、
「では、君は、『ゴミがなる木』ですか?」
と満面の笑みで聞き、それ以降、そのバカ息子は、『ゴミのなる木』と影で呼ばれるようになった。無論、その噂を王都中にばら撒いたのは、エンジェル伯爵の手の者だ。
『俺からしたら、ゴミ以下だけどな。』
もし、その場にマックスが居たら、つい魔法でふっ飛ばしていたかもしれない。今後は、短絡的にならず、未来の義父のように、真綿で首を絞めるようなやり方も覚えなければなるまい。
『それにしても、シャーリーを一人にするのは、心配過ぎる。魔法で小さくしてポケットにいれられないか?』
マックスが出来もしないアホな妄想をするには、訳がある。シャーリーの耳飾りを通して(本人の許可無く)女学園での情報を得ているが、兄や弟を勧めてくる女性とのなんと多いことか。
居ても立っても居られず、マックスは、シャーリーの手を取った。彼女は、ビクッと体を震わせ、周りをキョロキョロと見渡す。
ルビー達の目が、気になったのだろう。皆の生温かく見守る視線にぶつかり、シャーリーは、見る間に縮こまっていく。
それに気づいたルビーが、
パンパンパン
と手を叩き、メイド達の意識を自分に向けた。
「さぁ、さぁ、いつまでも立ちっぱなしじゃ疲れるわ。貴女達、お茶の用意を」
よく通る声で命じると、統率の取れた動きで一礼して、部屋を出て行った。
「さぁ、リシー様、喉を潤しましょう。シャーリーちゃんが焼いてくれた美味しいお菓子もありますし」
「まぁ、それは、楽しみですわ。ルビー様」
あまり演技派じゃないリシーは、棒読みの台詞を微笑みで誤魔化しながら、ルビーと一緒に部屋を出て行った。
シャーリーは、不安そうに母達が出て行ったドアを見つめる。
『折角皆で楽しんでいたのに、ちょっと可哀想なことしたかな』
マックスは、少し申し訳ない気持ちになったが、どうしても今渡しておかねばならない物ある。
「ごめん、シャーリー、ちょっと良いかな?」
一声掛けて、彼女の手を引き、ベランダへと出た。
見上げれば、満天の星空。シチュエーションは、バッチリだ。
マックスは、静かに彼女の前に跪くと、ジュエリーケースを差し出した。
箱を開けると、その中には、『薄鈍の指輪』が二つ並んで入っている。台座は、邪気を払う純金に変えた。
そして、シャーリー用だけは、魔石の周りに、永遠を意味するダイヤを散りばめた。
「シャーリー・エンジェル嬢、俺と、結婚して欲しい」
マックスは、まだ、シャーリー自身にプロポーズをしていなかった。エンジェル伯爵に直談判して決まった婚約。彼女には、本当に自分が望まれて結婚するのだと知って欲しかった。
シャーリーの顔を見上げると、ハラハラと涙を流している。
「・・・はぃ」
シャーリーの返事は、小さな声だった。
でも、頷きと共に、ジュエリーケースをマックスの手ごと両手で包み込んでくれる。
マックスは、立ち上がると、ポケットから取り出したチェーンに、彼女の分の指輪を通した。
「ごめん、ネックレスにして、毎日付けてもらっても良いかな?」
「え?」
「指にはめるのは、結婚式にね。でも、コレには、お守りの役目もあるんだ」
指輪の効果を詳しく話すと、きっとビビってしまう。だから、少しぼやかして説明した。
「良いんですか?」
「あぁ、勿論。コレは、君のものだ」
「じゃぁ・・・もう一つは、マックス様が身につけて下さるのですね?」
シャーリーは、ジュエリーケースに残った一つを愛おしげに撫でる。
「先ずは、俺に、付けさせてくれる?」
「はい」
マックスは、彼女の背後に立つと、ネックレスを首に回し、後ろの留金をカチッと嵌めた。
「綺麗」
胸元の指輪を押さえ、シャーリーが微笑んだ。その美しさに、マックスは、思わず背後から抱きしめた。
「シャーリー」
高ぶった気持ちが溢れ出し、つい、シャーリーの首筋に自分の唇を当てたのは、ほんの出来心だった。
カクン
「え?シャーリー?」
足から崩れ落ちた彼女が、マックスの腕の中で、力を無くして倒れ込んで来た。気絶した天使を腕に、マックスは、途方に暮れた。




