第二十七話薄鈍(ウスニビ)の指輪
突然現れたジャックとクイーンは、下手したら世界征服も出来そうなヤバい指輪を持ってきた。
もし、本物なら、世界の魔導士達が、こぞって欲しがる魔石だ。
物理攻撃をほぼ無効化する上に、魔法を発動する時間を作れる。
『動けない敵を、フルボッコに出来ると考えれば、こんなに理不尽なブツもないよな。』
マックスは、幼馴染の夫婦が、この指輪の本当の恐ろしさを理解できているのか不安になってきた。
「早くヤれ!」
マックスの頭をど突くクイーンに、緊迫感はない。ただ、本物だった場合、やり方によっては命すら落とす危ない代物だ。
「ちょっと待てって。こう言うのは、先ず、石の特性を調べてからなんだよ!」
マックスは、指輪に手を翳した。精神を集中させ、物体を鑑定するための『解読』という魔法を発動する。
先ず、掌が感じ取ったのは、前の所有者の魔力。かなりの高齢なのか、老獪な気に満ちている。シルバーグレードラゴンをどんな狡賢い手で倒したのか興味が湧くところだ。
全く魔力を持たないジャックとクイーンだからこそ安全に持ってこられたが、下手な魔力持ちなら、逆に操られそうな禍々しさがあった。
マックスは、先ず、先人が刻んだ魔力の残滓を消す事から始めた。魔石に、自分の魔力を最大出力で流し込み、全てを焼き切るのだ。
「うおっ」
魔力を流した途端、突然強力な光を放ち出した魔石に、ジャックが思わず仰反り、変な呻きを上げた。クイーンも、流石に無言でも凝視してくる。
マックスは、魔石から流れ出る冷気に、全身の体温を持っていかれそうになった。心臓を、鷲掴みにされたような痛みに、頭の上から、万力で押されるような重力。
途中からは、一気に魔力を吸い取られた。
『あぁ、俺、死ぬな』
そう思った瞬間、ふわっと手の中が軽くなり、魔石が、完全にリセットされたのが分かった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
立つ事もままならず、そのまま座り込むと、膝を突いた。
「おい、マックス、大丈夫かよ」
ジャックが、マックスの顔を覗き込んでくる。
「唇、真紫だぞ」
「だろうな」
マックスは、腰につけた袋から、回復薬を三本出すと、一気に飲んだ。味は、激マズだが、効果は保証されている、魔導士団配給品だ。
「オェ~」
「臭っ!腐った卵みてぇーな匂いだな」
鼻を摘むジャックに、マックスは、空瓶を投げつけた。
「やめろって、オイ!」
「人の事を笑うからだ」
やっと人心地ついたマックスは、この魔石に、思いつく限りの防御魔法を上掛けする事にした。
物理防御。
魔法防御。
精神感応防御。
解毒。
解呪。
自動回復。
ついでに、攻撃を反射するカウンターに、呪い返しも付け、無闇に発動しないよう条件を付ける。
汝
我が敵と見なすものを排し
我が愛するものを守れ
これで、シャーリー以外の者が指輪を使用しようとしても、何も起こらない。まさに、ただの石ころだ。
マックスは、再び、指輪を見た。すると、灰色単色だった魔石に、虹色の煌めきが混じっていた。
クイーンも、それに気付いたようで、
「なんか、灰色のオパールって感じ」
と、目を輝かせて見つめている。
これで、台座を、もう少し派手にすれば、シャーリーの指に付けても、貧相とは、言われないだろう。
「クイーン、ジャック、ありがとう」
「お礼は良いから、金、払ってくれ」
必死のジャックに、マックスは、預金の残高を頭に浮かべ、苦笑するしかなかった。
「カーッ、コレっぽっちかよ」
ジャックが、マックスから貰った鞄を覗き込み、その中の金額の少なさに、落胆していた。
「仕方ないでしょ。給料日前だし、支度金、全部借金返済と領地経営の資金に出した後だって言うんだから」
クイーンは、ジャックの頭をグリグリ撫でてやりながら、晴れ晴れした気持ちになっていた。シャーリーには、返しきれない恩を、彼女もジャックも受けてきた。
その一部でも返せたなら、こんな幸せな事はない。
「それに、そのお金だって、まぁまぁの金額よ」
家一軒とは言わないが、それなりの額。
ただ、あの魔石の値段と比べたら、焼け石に水ってだけ。
「おいおい活躍してもらって、利息ガッツリ上乗せして、回収するわ!」
「クイーン、お前も、大概えげつねぇな」
「あら、褒めてんの?」
クイーンは、ジャックの腕に自分の腕を絡め、彼の耳元に囁いた。
「ま、まぁな」
「そ。じゃ、もう一つ、褒めて欲しい事があるんだけど」
「何だよ。こぇーなー」
「アタシさ、お母さんになるんだよね」
クイーンは、ジャックの手を自分の腹に当てた。
「え?」
「アンタ、お父さんね」
驚愕に、見開かれていくジャックの目。水の膜が張ったかと思ったら、滝のような涙が流れ落ちた
「男が、泣くんじゃないよ」
「ぅせー、テメー、棍棒没収な!」
「何でよ!」
「腹の子に、もしもがあったらどーすんだ!もう、家から出んな!」
「あー煩い、この子がビックリしてるじゃない。とーちゃん、うっせーって言ってやんな」
ジャックの手の上に自分の手を重ね、お腹の中の子に話しかける。
「ず、ずりぃーぞ。とーちゃんは、良い人だかんなぁー。元気に生まれてこいよー」
優しい手つきで、ジャックは、何度もクイーンのお腹を撫でた。両親も知らない彼達が、家族になって、そして、また、大切な家族が増える。
「男かなぁ、女かなぁ。アンタ、どっちが良い?」
「どっちでもいーさ。でも、両方揃えたいから、一杯産め」
「はぁ?人を子供生産機みたいに言わないでくれる?」
「ちげーって!ごめん!悪かったって!殴るな!胎教にわりぃーって!」
ポコポコ殴っても、ジャックは、頭を抱えるだけで、反撃してこない。
『こりゃ良い。暫くは、アタシの天下だね。』
いつの世も、母は、強しであった。
こちらのお話、既に最終話まで予約投稿を終えました。最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。




