第十七話どうでもいいこと(ざまぁ⑤)
シャーリーが自分の美しさを認め、女学園の中で話題の中心になり始めた頃、勝手に彼女を逆恨みするラビナは、人生のドン底にいた。
元々、友達なんて居なかった。金持ちであることをひけらかし、人を揶揄する言葉ばかり吐いていれば、人が寄ってこなくて当然だ。
最初、お金欲しさに媚びていた人間ですら、自分の事以外に金を払わない彼女に旨味を感じず離れていった。
それでも寂しくなかったのは、ブリリアント男爵家に入り浸っていたからだ。厄介者であったとしても、多額の借金を背負っていたブリリアント男爵家は、彼女を粗略に扱うことができなかった。それを自分に良いように解釈し、いつかマックスと結婚できると思い込んでいたラビナは、今更全てがお前の思い込みだと言われても、信じられるはずもない。
「なんで私が、悪者扱いなのよ!あの女、絶対許さないんだから!」
ラビナは、未だにマックスの婚約者の名前を知らない。父ドワンゴすらシャルトに明かされていないのだから、当然と言えば当然である。
シャーリーがドワンゴ商会の商売敵であるグレイ商会の後ろ盾であることは、広く知られている。
もし、最初に知られていたら、ドワンゴは、どんな卑劣な手を使っても二人の結婚を阻止しようとしただろう。
グレイ商会は、ただ正直に、実直に真心を込めて丁寧な商いをしているだけだ。暴利を貪り、人を騙して多額の物を売りつけてきたドワンゴ商会が傾くのは自業自得以外のなにものでもない。この数ヶ月で勢力図は逆転し、現在では、人々も何処で買えば品質の良いものを適正価格で買えるのか学習している。
更に、ドワンゴ商会の娘が男爵家から不法侵入で訴えられた直後に、メイドに対しての暴力事件まで暴露された。
沈みゆく船からは、ネズミすら逃げるという。グレイ商会の隆盛を見て、乗り換えようとする取引先も多いようだ。客足も遠のき、倒産するのも秒読みと言われている。
家の危機の一端を自分が担っていることにも気づかず、ラビナは、裁判所から来た呼出状をビリビリにし破り窓から捨てた。この行為は、すでに4度目となっている。
もし、中身を見ていれば、少しは罪が軽くなったかもしれないというのに。
『マックスと私は、あの女が現れるまで、上手くいってた。我が儘だって、全部、聞いてくれた。魔法学園に行った後も、帰ってくれば、私と一緒に居てくれた。それを家格が上だからってだけで、簡単に奪って行くなんて、卑劣よ!』
ラビナは、鏡の前に座ると、グシャグシャの髪に無理やりブラシを通そうとした。雇っていたメイド達は、ある日を境に全員が辞めてしまった。母親に怒鳴ったら、部屋に鍵をかけて出てこなくなってしまった。
今から外出するために、なんとか一人で着れるワンピースに袖を通し、身だしなみを整えようと努力してみる。
『今じゃ、お父さんも、好きな物も買ってくれないし、レストランも貸し切ってくれない。でも、大丈夫!マックスにさえ会えれば、きっと、昔みたいに戻れるわ!』
ラビナは、身の回りにあった金目のものを売って、新しいドレスと靴を買う事にした。久しぶりにマックスと会うのに、一度着た服なんかでは会えない。やはり、最新の装いにしなければ。
なんとか外見を整え、大きなカバンに服や宝石を押し込めて外に出た。
馬車を出して貰おうとしたが、父親に怒鳴られて慌てて逃げ出した。彼女が知らないだけで、馬も馬車も売られた後だ。どこかに行きたければ、歩くしかない。
ラビナは、かなりの距離を靴ずれを我慢しながら歩いた。なんとか街の中心街まで来て、手短な服屋に入った。そこは、手既製品を売る店で、ラビナが今まで家に呼びつけていたオーダーメイドの高級店とは違う。
しかし、これ以上歩くのは嫌だった。
「いらっしゃいませ」
「これを、買い取ってくれるかしら?」
「あー、うちは、服を売る店だ。買い取ってもらうなら、質屋にいかないと」
返事をしながら、店員は、見慣れない少女に眉をひそめた。みすぼらしい見た目に反して、持ってきた服が高価すぎる。これだけのドレスを着るなら、ちゃんとメイドのいるお屋敷の娘のはずだ。
しかし、品物を持ち込んだ娘は、ワンピースすらまともに着れておらず、後ろのリボンが地面を擦っている。
「質屋っていうのは、どこなの?」
「ん?ああ、この先を少し行った先にあるよ」
「そう、じゃぁ、そっちに行くわ」
ラビナは、礼すら言わずに店を出た。その直後、服屋の店員は、怪しげな娘のことを商業ギルドに通報した。
「すみません、あの、もしかしたら泥棒の横流し品かもしれないと思って…」
この一報が、ドワンゴ商会崩壊の最後のひと押しになるとは、彼自身思っていなかった。
「んーーーー、このドレス、どれもオートクチュールだろ?」
質屋の老人は、質の良いドレスを机に広げて紙に査定額を書き込んでいく。
「そうよ!何か問題でもあるって言うの?」
「こう言うもんは、その人の体に合わせてピッタリ作るから、他の人間は着られねーんだよ。買い取るにしても、そう高い値段はつけられないな」
父親に頼んで作ってもらった一点物に価値がないと言われ、ラビナは、頭が沸騰しそうなほど怒りが湧いてきた。これらのドレスを作るために、どれだけの大枚をはたいたと思っているのか?
「もう!もう!もう!貴方の目は、節穴なの!じゃ、こっちの宝石なら、良いでしょ!」
ラビナは、ポシェットを逆さにして、とっておきのジュエリーを机の上に出した。
しかし、店主の顔は、曇ったままだ。小さなルーペを持ち出すと、光に当てて色合いや透明度を丁寧に見定める。
「これねぇ。確かに、綺麗だけど、石も小さいし、透明度も低い。大した額には、ならないな」
「そんな!これ、すごく高かったのよ!」
「あぁ、それ、騙されたんだな。納得いかないなら、他の店に持って行ってみな。何処も、同じ判定だと思うけど」
「そうさせてもらうわ!失礼しちゃう!」
しかし、そこから何軒回っても、言うことは同じだった。歩き疲れたラビナは、とうとう噴水の前に座り込んだ。
「なんでよぉ~」
泣きたいのに涙すら出なかった。警邏隊に家出娘と間違われ、家まで連れ帰られた時には、歩かずにすんでホッとしたほどだった。
「……ここまで、馬鹿とはな」
玄関先での父親の疲れ果てた一言に、
「貴方が、育てたんでしょ」
と警邏隊の一人が苦言を呈していたが、そんなことすらラビナには、どうでもいいことだった。
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明日から三連休、一緒に楽しみましょうね。




