第十五話世界一横柄で最高の侍女
マックスとシャーリーが婚約して、三ヶ月が経った。あと九ヶ月で、卒業後に結婚することが決まっている。
そろそろ式の準備が始まる中、彼の横に並ぶのに自分のビジュアル的不安感を拭えないまま、シャーリーは今日に至る。
『だって、灰色髪をどう飾っても、灰色に変わりはないもの。』
諦め半分のシャーリーだが、義母のルビーと、実母のリシーは、本人そっちのけで、必要な衣装や装飾品の話に盛り上がっている。
「リシー様、ナイスアイデアですわ」
「ルビー様も、うちの子の良さを引き立てて下さってありがとうございます」
シャーリーの胸元に、二十個のルビーが燦然と輝いていた。銀で作られた蔦型の台座に止められた珠玉の一品は、かなりの重量がありシャーリーは、首がもげそうだ。
これは、ルビーが王籍を離れて男爵家に嫁ぐ時、縁を切らざるを得なかった陛下が、何かあったら売るようにと下賜されたものだった。
一時、苦しい懐事情で金融ギルドに借入の担保として預けられていたものが、マックスの魔道士団入団を機に、手元に戻ったらしい。
「本当に、見事な首飾り。陛下は、ルビー様を深く愛していらしたのが、ヒシヒシと伝わって来ますわ」
「私は、末娘でしたので、小さい頃から、好きになった殿方と結婚させてやりたいと仰って下さっていました。まさか、男爵とは、思っていなかったようですが」
ホホホホホ
優雅に微笑むルビーに、リシーも、
ホホホホホ
と返す。
『なんだか、似てない?この二人。』
シャーリーは、妙に気の合う母達に、ホッとするような、怖いような気分にさせられた。
そして、鏡に映る自分の姿を、不思議な気分で見る。
母が見立ててくれたウェディングドレスは、スレンダーラインで、そこそこ背が高く、かなり細身のシャーリーには、合っている。ただ、派手さは無くて、どちらかと言えば地味。
でも、そこに、ルビーとリシー、そしてグレイ商会のお針子達が、刺繍を入れてくれることになっている。
図案では、白地に光沢のある白い糸で、フランネルフラワーを裾から腰に向かって刺すみたいだ。
花言葉は、誠実、清楚、高潔、そして、『いつも愛して』。
シャーリーは、なんだか、とても、恥ずかしい気持ちで一杯になる。
そして、衣装と装飾品は、完璧だけど・・・。
「ふぅ・・・」
彼女は、改めて自分の髪の毛に触れて、小さくため息をついた。
『この灰色の髪さえなければ、完璧なのに。』
幼い頃から服装に頓着しなかったのは、どんな服を着ても灰色の髪ばかりに目がいってしまい、気持ちが浮き立たなかったからだ。他の子達が可愛い服を着こなすのを見て、何度溜息をついてきたことか。
シャーリーの自己評価が著しく低い原因は、自分自身の髪の毛を周りの人間に否定され続けた結果だろう。初めて見る者は、皆、多かれ少なかれヒソヒソと陰口を囁くのだ。
シャーリーの気持ちが痛いほど分かる面々は、無言になってしまった彼女に心配の目を向ける。
すると、いつの間にか背後に立っていたカサンドラが、シャーリーの肩に手を置いた。
「お嬢様、椅子に座って頂けますか?」
「え?」
シャーリーは、無理やり姿見の前に座らされ、何事かと鏡越しにカサンドラを見た。彼女は、クルクルッと手に持つ櫛を回すと、ガシッとシャーリーの髪を掴んだ。
「カサンドラ、痛い」
「お嬢様、美しさとは、常に、痛いものです」
「そんなの、聞いたことない!」
シャーリーの抵抗も虚しく、カサンドラは、手をテキパキと動かし、髪を結い上げていく。所謂、夜会巻き。
でも、それは複雑に編み込まれており、シャーリーのマダラだった髪が美しい模様のようにまとまりを見せる。
元々、ボリュームのある髪で、邪魔にならないように、いつも一つにまとめていた。だから、余計、野暮ったく、不気味に見えていたんだろう。
しかし、芸術品のように美しい造形美に、シャーリーの灰色の髪は、唯一無二の輝きを与えていた。
あまりの出来上がりの素晴らしさに、横で見ていた母達も感嘆のため息をついた。
「カサンドラ、貴女、こんな事を何処で習ったの?」
リシーの驚きに、カサンドラは、胸を張ってドヤ顔をする。
「はい、奥様。最近、お嬢様と一緒に、桜姫様の宮にお招きに預かるのですが、そこで、桔梗様と言う侍女の方から教えて頂きました」
「いつも二人で居なくなるから、何してるのかと思ってたけど、そんな事、してたの?」
シャーリーは、カサンドラのサプライズに、目を見張る。
「お嬢様。ジポーノ国では、お嬢様の髪色は、決して珍しいものではなく、また、その髪色の変化を利用し、他の人には真似できない髪型を提唱するのが、高貴な女性の嗜みだそうです。ですから・・・胸を張ってくださいませ」
「あ・・・。」
シャーリーは、もう一度、鏡の中の自分を見た。ずっと、諦めていた。自分の髪は、どうしようもないのだと。だから、それ以外は、精一杯やってきた。
でも、視点を変えれば、こんなにも素晴らしい宝物を、シャーリーは、自分自身で認められていなかったのだ。
「シャーリーちゃん、貴女、本当に、素敵な侍女をお持ちね」
ルビーが、シャーリーにハンカチを手渡してくれた。そこで、初めて、自分が泣いていた事に気付いた。
「カサンドラ」
「なんですか?お嬢様」
「いつも、ありがとう」
「今更ですか?」
「もう!折角、感動的な場面なのに!」
カサンドラの雑な物言いは、きっと、死ぬまで変わらないだろう。
だけど、世界で1番の侍女であることは、変わらないとシャーリーは思った。
カサンドラ、好きな方いらっしゃいます?どんな状況でも味方に付いてくれる仲間がいるって、本当にうれしいですよね。私にとっての読者様のような存在。これからも、皆さまよろしくお願いいたします。




