第十三話人生下り坂(ざまぁ③)
暑い夜と肩こりには、やっぱりざまぁが効きますね。
皆さま、良い睡眠を。
「ラビナ、何度言ったら、分かるんだ!」
「分かんない!私、悪くないもん!」
娘のラビナが、ブリリアント家から『不法侵入』で訴えられそうになっていることに、父ドワンゴは顔色を無くしていた。
最初、借金を全て返してもらった際、長男のシャルトから提示された誓約書にサインをしてしまっていたのだ。
『くそっ、今思い出しても忌々しい!』
ドワンゴは、その日のことを思い出して歯噛みする。珍しくブリリアント男爵家の長男シャルトが、直々にドワンゴ商会の店舗まで来たときに、疑問に思うべきだった。
男爵家一腹黒い男が、なんの利もないのに自分から動くはずもないのだから。
魔道士団発行の高額小切手と、ブリリアント男爵家に貸し付けた借金の証書を交換した時、
「ドワンゴさんと我が家との付き合いですから、お教えするのですが………」
とシャルトが切り出した。いかにも秘密を共有している気分にさせるヒソヒソ声は、ドワンゴの好奇心を擽った。
「実は、マックスも、やっと婿入りが決まりましてね」
「え?どこの家にですか?」
「いやいや、まだ家名は申し上げられないのですが……まぁ、今後も貴族として生きていけるとだけお伝えしましょう。」
ドワンゴは、想像した。魔道士団へ入ったマックスなら、引く手あまただろう。婿入りというのであれば、公爵家あたりが娘と娶せ、持っている爵位の一つを譲るなどということも考えられる。
それほど、彼は、今をときめく優良物件なのだ。
「そこで、こちらも細心の注意を払っておきたいのですよ」
シャルトが出してきたのは、マックスの婿入りを邪魔しないという一文が入った紙切れだった。
貴族同士の縁組は、王家の承認も必要とするほど厳重に管理されている。それを前もって『特別』に知らせてくれたことにドワンゴは酔いしれた。
『マックス様が良かったが、まぁ、サックス様でも悪くない』
彼としても、更に高位の貴族と縁を結んだブリリアント男爵家を逃したくはない。それなら、快くマックスはその貴族に譲り、他の息子と婚姻を結べば良いだけだ。
娘の執着心を甘く見た父親は、そう安易に考えていたが、その後ツケが思わぬ形で返ってくる。
それは、初めてブリリアント男爵家を某婚約者が訪れた日のことだ。ラビナがその令嬢に関する悪口を言っていたのを、なんと本人に聞かれたと言うのだ。
「うちとしても、長年お世話になってきたドワンゴさんに、こんなことを言うのは辛いんですが、流石に相手が悪い…」
態とらしく『遺憾の意』を述べるシャルトが微かに微笑んでいたことに、ドワンゴは気付いていなかった。
「ラビナさんには、暫く我が家に来るのをご遠慮いただきのです。今回は、何とか我が家が間に入り、お許し頂いたのです。流石に次に同じことがあれば……」
最もな言い分に、ドワンゴは、再び首を縦に振った。幾ら金持ちであろうとも、太刀打ち出来ないのが身分制度だ。
元々金を貸していたからブリリアント男爵家に大きな顔が出来ただけで、なんの関係もない高位貴族にツバを吐けば無礼討ちされても文句は言えない。
「ラビナ、少し話がある」
ラグドールは、ラビナに説明を試みた。
「暫く、ブリリアント男爵家に行くな」
「なんで?」
「向こうから、お願いされたんだ」
「なんて?」
「ほら、マックス様の婿入りとか、色々あるんだよ」
「マックスは、私のだから!」
「サックス様でもいいだろ」
「ヤダヤダヤダ」
押し問答に決着はつかず、部屋に謹慎させて様子を見ることにした。
しかし、予想を遥かに上回るフットワークを見せ、ラビナは、想像以上の惨事を招く。
「警邏隊に突き出すのと、お引取り頂くのと、どっちが良いですか?」
小汚い荷車に乗って帰ってきたラビナは、完全に気を失っていた。衣服もボロボロで髪もグシャグシャだ。
「うちの塀と地面の間に空いた穴に挟まっていました。他の者に見つかっていたら、不法侵入……と言われるかもしれないので」
淡々と述べるシャルトは、普段の紳士的な雰囲気とは違い、得体のしれない威圧感がある。
「うちの娘は、いつも正門から入れていただいていたはず。そんな所から入るとは考えられませんが…」
「門番に止められたのでしょう。暫く来ない約束でしたから」
「それは…そうですか…」
ただの口約束だ。無論、ドワンゴは、シャルトの言うことを信じたわけではない。きっと、娘とこのブリリアント男爵家との間に何かあったのだろう。ただ、今回は分が悪い。立入禁止区域に無理やり入ろうとしたのは、自分の娘なのだ。
『不味い。子供の我儘で済まない大事になってきた』
今までは、ラビナの我儘も、金で解決できるものばかりだった。多少値が張っても、大した話ではなかった。
しかし、貴族相手に喧嘩を売ったのでは、平民など一捻りされておしまいだ。しかも、今は、貧乏男爵の背後に高位貴族がついているのだ。マックス自身にも、魔道士団という後ろ盾もある。
「分かりました。連れてきて頂き、ありがとうございました」
腹の中は収まらないが、ドワンゴは、渋々娘を引き取った。ベッドに横たわる娘を見ていると、益々腹が立ってきた。
『もっと、上手く立ち回れないのか、コイツは!ルビー様の同情を引くなり、マックス様を泣き落とすなり、いくらでもやり方があるだろう』
今まで可愛かったはずの娘が、突然可愛くなくなったことに、ドワンゴ自身驚く。正に、ペットに噛みつかれた気分だ。
目覚めたラビナは、体中が痛くて泣いた。
「スコットに、やられたの!魔法で飛ばされて、気を失ったの!アイツに謝らせてよ!」
今までなら、どんな手を使ってもドワンゴが願いを叶えてくれた。
しかし、彼は、冷たい視線を向ける。
「証拠は、あるのか?」
「え?」
「お前が騒動を起こせば、うちの商売にも影響が出るんだ。もう、二度とブリリアント男爵家には、行くな!」
「いやよ!絶対、いや!」
その後も、何度注意しても、部屋に閉じ込めても、いつの間にか居なくなり、暫くすると、ブリリアント家の門番に連れられ強制送還されてくる。
そのせいで、商業ギルドの会合で、ドワンゴは肩身の狭い思いをするようになった。妻に至っては、外に出られなくなり、ずっと塞ぎ込んでいる。
そして、今日、とうとう、ドワンゴ商会との取引を全面停止するとブリリアント家から通達が来た。
「ブリリアント家との関係があったから、信用が倍増してたんだ!それを向こうから断られたと知られたら・・・」
今までは順風満帆だったドワンゴの人生は、ここから崖を転がる岩のように奈落へと落ちていくことになる。
匍匐前進のように地道にPVを積み上げるシャーリー&マックス。もう少しでブックマークも500に届きそうになってきました。明日も、頑張りますので、皆さまもついてきてね。




