ニルの「静寂」と「引きこもり」の理由
場所:いつもの空間(外が完全に暗くなり、ファミレスの照明が少し眩しく感じられる時間)
ライク「……ニル、さっきサルムの世界のフラッシュモブを笑っていたけれど……君のバート世界は、本当にいつも静かだよね。君自身も、魔王城の引きこもりみたいにこの空間の隅っこにいることが多いし、他人に少し冷たい壁を作っているように見える。……失礼を承知で聞くけれど、それにも何か、私やサルムのような理由があるのかい?」
サルム「そうだよニル! 私たちの秘密は全部喋ったんだから、ニルの話も聞きたいな。どうしてそんなに引きこもってひねくれちゃったのさ?」
ニル「……はぁ。別に、あんたたちみたいに大層な理想があるわけじゃないよ。ただ……自分の力が、ちょっと信じられなくなっただけ」
サルム「え……? 力が信じられないって、ニルが?」
ニル「……世界を創ったばかりの、まだ私が神として何も分かってなかった頃の話。バート世界で、大きな天変地異のバグが起きたの。私の制御が未熟だったせいで、世界がまるごと消滅しかけるレベルの、本当に最悪な失敗。パニックになった私は、助けを求めて、ある大先輩の神様を自分の世界に呼んだんだ」
ライク「先輩神を……。他世界への介入を要請したんだね」
ニル「うん。その先輩神は、すごく強くて優しくて、一瞬で私の世界のバグを止めてくれた。……でもね、当時の私は、自分の無力さと世界の惨状に完全に自暴自棄になってたんだ。理性を失って、暴走して、狂ったように周りのエネルギーを撒き散らして暴れた。……そしたら、私を庇おうとしたその先輩神を、私の力が直撃して、大怪我をさせちゃったんだよね」
サルム「……っ、そんなことが……」
ニル「幸い、私の世界の住民に大きな被害は出なかった。その先輩神も、笑いながら『これくらい神の治癒力ならすぐ治るよ。気にするな、気にしなくていい』って言ってくれた。……でもさ、私にはその『気にしなくていい』って笑顔が、何よりも重くて、苦しかった。自分のせいで、大切な恩人を傷つけたっていう事実が、どうしても消せなくてさ。だから決めたんだ。もう二度と、余計な感情で暴走しないように、世界も、自分自身の心も、徹底的に『静寂』の中に閉じ込めておこうって。誰とも深く関わらなければ、誰も傷つけずに済むからね。……私がひねくれて暗いのは、周りを寄せ付けないための、ただの臆病な防壁だよ」
ライク「ニル……。君は、自分の優しさと罪悪感の強さに、ずっと縛られていたんだね。静寂の世界は、君が自分と周囲を守るために作った、切ないシェルターだったのか……」
ニル「……まあ、それだけなら格好いいんだけどさ。実は、引きこもって他人に無関心にしてる理由は、あと2つくらいあるんだよね」
サルム「え、あと2つ!? どんなの!?」
ニル「ひとつはね、その事件の後、あまりにも反省して引きこもり生活を極めすぎたら、シンプルに『ネトゲ』にめちゃくちゃハマっちゃって。今やバート世界の裏ネットワークで、住民たちに混ざってギルドマスターやってるの。神様の処理速度でゲームするから、世界ランキング1位。ネトゲのイベントが忙しくて、魔王城の玉座から一歩も動けないのが、引きこもりのリアルな理由。……住民からは『うちの神、最近神託じゃなくてログイン通知しか寄こさない』ってクレームが来てる」
ライク「……神様がネトゲの廃人!? ログイン通知の神託って何さ!」
ニル「で、もうひとつの理由は……その、私を助けてくれた先輩神、さっき『気にしなくていい』って言ってくれたって言ったじゃん?あれ、本当に全く気にしてなかったみたいでさ。数日後に『ニルちゃんに怒られて凹んだから、お詫びとしてバート世界のおいしい果物【100トン】ちょうだい☆』って普通に笑顔で集かりに来て。それ以来、何かあるたびに『あ、昔の傷がうずくな〜!メロンパン3個で治るんだけどな〜!』ってね。ただのめちゃくちゃ図太い先輩だった」
サルム「……え、待って。それって、メロンパン地面に置いたら金塊降らせてくる、ライクのところのパン屋の店主(先輩神の変装)じゃないの!?」
ライク「……あっ!! だいぶ前に私の世界に定期的に来て『ニルちゃんによろしく』って言いながらメロンパン買っていく、あのやたらオーラのある常連客……! 先輩神だったのか!! そもそも私はなぜ彼をただのパン好きの人間だと思い込んでいたんだっけ……!?」
ニル「……はぁ。あの人、ライクの世界でも小遣い稼ぎ(バグ技)の温床になってるじゃん。……ほらね、感動的な話かと思いきや、現実なんてこんなもの。私たちの世界は、いつだってどこかポンコツな因果で回ってるんだよ」
サルム「アハハハ! 先輩神マジで強すぎるじゃん! ニルの過去、切ないと思ったのに最後はただのカツアゲ被害者だった! 良かったー、ニルが暗いおじいちゃんじゃなくて、ただのネトゲ廃人で! セーフ! 完全セーフ!!」
ニル「……うるさいな。セーフじゃないよ(恥ずかしさを隠すように、ポテトの最後の1本を口に放り込む)」
ライク「あぁ……でも、ニルが誰かを傷つける恐怖から解放されているなら、それは本当に……良かった……(ズビッ)」




