サルムが「笑い続ける」理由
場所:いつもの空間(おやつも片付き、少し静かになった部屋で)
ニル「……ねえ、サルム。さっきからライクの『14の呪い』で大爆笑してるけどさ。あんたのその、脳みそが口と直結してるレベルの能天気さって、どこから湧いてくるわけ? 私やライクみたいに、たまには物陰でどんより引きこもりたくなる日とか無いの?」
ライク「あぁ、私もそれは気になっていたよ。サルムのガルフ世界は、いつ観測鏡で覗いても眩しいほどの活気に満ちている。神の精神状態は世界に直結するものだけど、サルムが一切の陰りを見せないのは……何か、特別な元気の秘訣(コントロール法)でもあるのかい?」
サルム「えー、秘訣? そんな大層なものじゃないよ。ただね……私だって昔からこんなにうるさかったわけじゃないんだ。むしろ、世界を創ったばかりの頃は、今のニルよりもずっと暗くて、世界を静かに、静かに、それこそ音の一切ない『完全な静寂の世界』にしてたんだよね」
ニル「……あんたが静寂? 想像が追いつかないんだけど」
サルム「本当だよ。私は静かで綺麗な世界を作りたくて、住民たちの感情の起伏も最小限にして、争いも起きない代わりに、誰も笑わない世界にしてたの。でもある日ね、世界で一番最初に寿命を迎えたおじいちゃんの魂が、消える前に私のところに上がってきたんだ。私はドヤ顔で『私の作った世界は静かで平和だったでしょ?』って聞いたの。そしたらそのおじいちゃん、なんて言ったと思う?」
ライク「……なんて言ったんだい?」サルム「寂しそうに微笑みながらね、『神様、あなたの世界はとても美しくて平和でした。でも、静かすぎて、自分が今生きているのか、もう死んでいるのか、最後までずっと分からなかった。もし生まれ変われるなら、次はもっと、心臓がうるさいくらいにドクドク動くような、生きてる実感がほしいです』って。その魂が消えた時、私、すっごくショックでさ。……平和と引き換えに、私は彼らから『生きている喜び』を全部奪っちゃってたんだって気づいたの」
ニル「……生きている、喜び……」
サルム「そう。だから私、その瞬間に猛反省して、世界の設定を全部ひっくり返したんだ!静寂なんて全部ゴミ箱にポイしてさ! 住民たちの感情のボリュームをマックスにして、街中に光と音を詰め込んで、心臓が爆発するくらいハッピーになれる世界に変えたの。私が一瞬でも暗い顔をしたら、世界のテンションが下がっちゃうでしょ? だから私は、何があっても、脳みそを口に直結させてでも、世界で一番明るく笑い続けるって決めたんだ! ……どう? 意外と神様として、めちゃくちゃ熱い情熱を持ってるでしょ!」
ライク「……素晴らしいよ、サルム。君の能天気さは、諦めではなく、命への圧倒的な祝福の形だったんだね。その笑顔の裏にある強い覚悟……私は、深く、深く感動したよ……(すでに涙ぐんでいる)」
ニル「……ふん。まあ、静寂を否定されたのはちょっと気に入らないけど、そのおじいちゃんの言葉をちゃんと受け止めて今の世界を作ったなら、あんたは大した神様だよ。少しは見直した。……本当に、少しだけね」
サルム「えへへ、ありがと! 二人に褒められると照れるなー!……あ、でもさ。私、その時ちょっとテンションが上がりすぎちゃって、ハッピーの初期値をちょっと高く設定しすぎちゃったんだよね」
ニル「……高く設定? どんな風にさ」サルム「うん。今のガルフ世界さ、みんな感情が豊かになりすぎて、ちょっとでも嬉しいことがあると『感情表現としてのダンス(ステップ)』が自動で発動する仕様になっちゃって。昨日もさ、ただの『美味しいパンが焼けた』ってだけで、パン職人とその家族が嬉しくなっちゃって、お店の前で大爆笑しながらキレッキレのラインダンスを始めちゃったの。そしたらそれを見た通行人も楽しくなっちゃって、最終的に街全体で3万人くらいがパンを片手に踊り明かす大騒ぎになっちゃってさ。住民からは『毎日が楽しすぎて、ふくらはぎの筋肉痛が治りません』ってクレームが来てるんだけど……いや、でも生きてる実感を全身で表現してると考えれば、むしろ大成功だよね!ね!」
ニル「……ただの毎日がカーニバルな世界じゃん。ちょっと美味しいもの食べただけで強制的にフラッシュモブに巻き込まれるの、普通に足腰の限界でしょ」
ライク「わ、わわわ、待ってくれサルム……! 全員が筋肉痛……!? それ、住民の肉体の疲労蓄積度の数式がこれくらいで、バグによる過労が……。ああ、でもみんなが笑顔で踊っているなら、これは平和のひとつの完成系なのか……? どうなんだ、ニル……! 私はどう解釈すれば……!」
ニル「ライク、真面目に悩まなくていいから。ただのハッピーすぎる設計ミスだから。もうツッコむのも疲れたわ、私もちょっと一緒に踊って筋肉痛になりたいくらいだよ……(頭を抱えて冷めたお茶を一気にすする)」




