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異世界偏食飯  作者: 愛姫
8/25

おかわり!

「と、とりあえず⋯⋯部屋の掃除はメイド達に頼んだが⋯⋯」


「いやーすまぬな!」


「嬉ションてやつだ!」


 城の廊下、人が通る場所でした会話。何人もがこちらを振り返る。


「と、とりあえず厨房行こうぜ! お前たち何が食べたいんだ?」


「卵!」


「肉!」


 同時に発せられた声。各々が信じられない⋯⋯と言わんばかりの顔をした。


「兄者よ。今我は卵の気分なのです」


「弟よ。我は厚めの肉が食べたいのだ」


「いやいや兄者よ。冷静になってください」


「いやいや弟よ。お前こそ冷静に」


「飼い主の腕は本物なのです。それを肉に使うなど⋯⋯愚の骨頂ですぞ」


「弟よ、お前こそわかってない。前に見ただろう、あの美味そうな玉ねぎ肉を。飼い主の腕前は肉にこそ発揮される」


「いやいや兄者よ」


「いやいや弟よ」


「⋯⋯」


【飼い主!】


 二頭が同時に話しかけてきた。


「お、おう⋯⋯」


「飼い主は!」


「どちらが」


【いいんだ!】


「うーん? まぁ俺としてはどっちでもいいけど⋯⋯二人の要望が同時に叶えられる料理があるぞ?」


「なに? それは本当か?」


 目を大きく見開いて、顔を近づけた姫龍。


「お、おう⋯⋯肉と卵がバランスを取り合って一つの料理になってるのがあるぞ⋯⋯」


「兄者よ」


「弟よ」


「飯郎よ」


【今日のご飯はそれで決まり!】


 三人が意気投合。目を輝かせこちらを見てくる。


「うし! それじゃあキッチンに行くぞ!」



「飯郎様は大丈夫ですカーネ。それより⋯⋯私のプリン⋯⋯」


 何も残っていない。過去、プリンが載せられてた皿を見る料理長。


「⋯⋯」


 唾を飲み込んだ。皿を近づけ匂いを嗅ぐ。


「甘い匂いが残ってマース。もしかしたら⋯⋯」


 舌を出し、皿に近づく。迫る皿、硬い感触が当たる。


「料理長〜? 今からご飯作るぞ〜」


「⋯⋯」


 三人と、バッチリ目が合った。


「す、すまんな⋯⋯今日の所は飯、勘弁してくれ⋯⋯」


「許そう」


「そうだな」


「食欲が無くなったな⋯⋯」


 料理長の奇行を見て、すぐ謝る飯郎。青ざめた顔で変態を見る目の三人。


「ち、違うのデース! いや、違わないけど!」


 料理長の力説。何とか解けた誤解。


「うし! それじゃあ始めてくぜ! とりあえず料理長、卵とひき肉持ってきてくれ!」


「わかりまーした! 身を粉にして働きマース!」


「まずは、温まったフライパンに油をひいて、ひき肉を入れる!」


「もう食えるな!」


「食ってもいいか?」


 しっぽをブンブン振りながらよだれを垂らす二頭。


「さすがに早すぎるだろ⋯⋯美味いの作るから待て!」


「我慢は苦手だか」


「仕方ない」


「さて、ここに料理酒〜」


「何!? 酒を入れるのか!?」


「そうだ姫龍。料理酒には臭みを消す効果があるからな。入れとくだけお得だ」


「なるほどな⋯⋯父上が生肉をウイスキーに入れるのと同じやつか⋯⋯」


(それは少し違うような⋯⋯)


「ん? 飼い主よ」


「この肉臭いぞ」


 色がつき、火が通り始めた時、獣臭が漂ってきた。

 フライパンの上で手を仰ぐ。


「ん⋯⋯ほんとだな。この肉、少し臭いな」


「ほんとデースか!? 消費期限はまだ日にちがありマースよ!?」


「まぁまぁ慌てなさんな。ひき肉を使う上で良く起こることだ。こういう時は出てきた油をキッチンペーパーで吸うんだ」


 料理酒が蒸発してきた頃、フライパンを傾けひき肉から出た油を吸う。


「この油を取り除けばかなり匂いが取れるはずだ」


 二度三度ペーパーを替え、油を取り除く。


「ん!? 臭いが」


「しなくなってる!」


「それどころかいい匂いが⋯⋯」


「成功だな! ここで味付けだ。塩コショウ! 少しの砂糖! そしてニンニクチューブを少量」


「美味くて!」


「臭い!」


「女の敵で有名なニンニク!」


「そして極めつけはこれ! 皮付き生姜! これをおろし器でそのまま擦る!」


「生姜の」


「いい香り⋯⋯」


「チューブも美味いんだが今回は臭いがキツかったからこっちだ! そして最後に醤油をかける! 肉全体に色付けば完成!」


「うおおお!」


「食わせろ!」


「飯郎よ! 我慢出来ないぞ!」


 二頭と一人。二つのしっぽが暴れる。


「ほんとにいいのか? これはまだ途中なんだぞ? 完成してないのを食べて腹を膨れさせて後悔しないか?」


「くっ!」


 全員開いていた口を閉じて目を逸らした。


「あと少しだ! それはじゃあ次は卵を割って溶ぐ! 味付けは塩コショウと砂糖を一つまみ程度だ」


「飯郎様よ、それだけなのデース?」


「そうだ。この料理は味の濃い肉をこの卵でサポートするんだ。だからこんぐらいでおっけ!」


 洗ったフライパンに油をひき、火は弱火。


「それじゃ卵を入れてすぐ混ぜる!」


「飯郎様これは⋯⋯」


「そうだ。少し前にやったスクランブルエッグみたいなもんだな。ただ、あれと違うのは大きさ。粒の細かいのを目指すんだ」


「トレビア〜ン! まさか飯郎様が卵取り扱いマスター、達人級の技をやろうとしているとは⋯⋯感服です⋯⋯」


「⋯⋯はい?」


「何!? まさか!」


「それほどの!?」


「それが取れれば三ツ星シェフが靴を舐めると噂の⋯⋯」


(え⋯⋯何それ⋯⋯そんな凄い事じゃないけど⋯⋯)


 大したことはやってない。それなのに勝手に上がる株。無駄に期待されて、少し手が震える。


「ま、まぁ細かくするので大事なことは、面倒くさがらないでずーっと箸を回すことだ。そうすれば簡単に小さくなる」


「料理長よ⋯⋯飯郎はああ言ってるが⋯⋯」


「姫様⋯⋯そんな簡単に出来るなら、卵取り扱いマスターの資格が一千万人に一人など言われませぬ。飯郎様は我らに教えられない秘密があるのですよ!」


「確かに⋯⋯」


「言われれば⋯⋯」


「そうだな。名だたる料理人達がこの資格に敗れ、散っていった。そう簡単には行かないか⋯⋯」


(この世界の資格どうなってんだよ!?)


 あまりに真剣な四人の会話。聞いてるこっちがおかしくなりそうだ。


「さて、そろそろいいだろ〜」


「なぬ!? 目を離した隙に⋯⋯砂粒ぐらい小さくなってるではないか!?」


「大袈裟だな〜多少小さいレベルだ」


「いえいえ飯郎様⋯⋯このサイズ⋯⋯歴代最年少の記録を持つ、卵マスターの神と言われた

【カラ・ハイッチャッタ】より凄い!」


「何!? あまりに凄腕で一分間で片手卵を二十個割れるあの!?」


(凄いけど普通じゃねぇか⋯⋯)


「ま、まさか飼い主が⋯⋯」


「そこまでのレベルだったとは⋯⋯」


「ま、まぁとにかく完成だ。今作った二種類を米の上に乗せる!」


【完成! そぼろ丼!】


「別名、二色丼とも言うな。お前ら二頭にピッタリな料理じゃないか?」


「か、飼い主⋯⋯」


「俺! 感動した!」


 大量のよだれと大量の涙を流す二頭。


「飯郎よ⋯⋯お主そこまで⋯⋯」


「す、すみません⋯⋯私、こういうのに弱くて⋯⋯」


 何故か姫龍と料理長まで涙を浮かばせる。


「え⋯⋯そこまで⋯⋯?」



 全員分よそい、机に皿を並べた。


「いっただきます〜!」


「さぁ! 召し上がれ!」


「兄者よ⋯⋯」


「弟よ⋯⋯」


【いざ! 参る!】


「オウノォォォォオ! 鼻に広がる生姜の風味⋯⋯濃い肉の味付けがご飯をそそる⋯⋯」


「そしてそれを卵が包み込み、濃すぎず、薄すぎず、いいバランスに!」


「あ! 兄者よ! 我は口が止まりませぬ!」


「お、弟よ! 喋る暇がないぜ!」


「今回も成功して良かったぜ〜肉の臭みも上手く消せたみたいだし、味付けもバッチリだ!」


 飯郎がよそったスプーンを口に入れようとした時、


「おかわり!」


 全員が同時に口を揃えた。


「⋯⋯仕方ねぇか。うし! 頼まれたからには作るのが料理人だろ! じゃんじゃん食え! その分作ってやるから!」


「兄者よ。我はこの人間に着いてきて正解でしたぞ」


「弟よ。我も同じ気持ちだ。先程はお前を否定して悪かったな」


「兄者よ。いいではありませぬか。美味い料理が食えたのです。小さなことなど気にせずに」


「お、弟よ⋯⋯そうだな。それでは我らも」


【おかわり!】

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