おかわり!
「と、とりあえず⋯⋯部屋の掃除はメイド達に頼んだが⋯⋯」
「いやーすまぬな!」
「嬉ションてやつだ!」
城の廊下、人が通る場所でした会話。何人もがこちらを振り返る。
「と、とりあえず厨房行こうぜ! お前たち何が食べたいんだ?」
「卵!」
「肉!」
同時に発せられた声。各々が信じられない⋯⋯と言わんばかりの顔をした。
「兄者よ。今我は卵の気分なのです」
「弟よ。我は厚めの肉が食べたいのだ」
「いやいや兄者よ。冷静になってください」
「いやいや弟よ。お前こそ冷静に」
「飼い主の腕は本物なのです。それを肉に使うなど⋯⋯愚の骨頂ですぞ」
「弟よ、お前こそわかってない。前に見ただろう、あの美味そうな玉ねぎ肉を。飼い主の腕前は肉にこそ発揮される」
「いやいや兄者よ」
「いやいや弟よ」
「⋯⋯」
【飼い主!】
二頭が同時に話しかけてきた。
「お、おう⋯⋯」
「飼い主は!」
「どちらが」
【いいんだ!】
「うーん? まぁ俺としてはどっちでもいいけど⋯⋯二人の要望が同時に叶えられる料理があるぞ?」
「なに? それは本当か?」
目を大きく見開いて、顔を近づけた姫龍。
「お、おう⋯⋯肉と卵がバランスを取り合って一つの料理になってるのがあるぞ⋯⋯」
「兄者よ」
「弟よ」
「飯郎よ」
【今日のご飯はそれで決まり!】
三人が意気投合。目を輝かせこちらを見てくる。
「うし! それじゃあキッチンに行くぞ!」
「飯郎様は大丈夫ですカーネ。それより⋯⋯私のプリン⋯⋯」
何も残っていない。過去、プリンが載せられてた皿を見る料理長。
「⋯⋯」
唾を飲み込んだ。皿を近づけ匂いを嗅ぐ。
「甘い匂いが残ってマース。もしかしたら⋯⋯」
舌を出し、皿に近づく。迫る皿、硬い感触が当たる。
「料理長〜? 今からご飯作るぞ〜」
「⋯⋯」
三人と、バッチリ目が合った。
「す、すまんな⋯⋯今日の所は飯、勘弁してくれ⋯⋯」
「許そう」
「そうだな」
「食欲が無くなったな⋯⋯」
料理長の奇行を見て、すぐ謝る飯郎。青ざめた顔で変態を見る目の三人。
「ち、違うのデース! いや、違わないけど!」
料理長の力説。何とか解けた誤解。
「うし! それじゃあ始めてくぜ! とりあえず料理長、卵とひき肉持ってきてくれ!」
「わかりまーした! 身を粉にして働きマース!」
「まずは、温まったフライパンに油をひいて、ひき肉を入れる!」
「もう食えるな!」
「食ってもいいか?」
しっぽをブンブン振りながらよだれを垂らす二頭。
「さすがに早すぎるだろ⋯⋯美味いの作るから待て!」
「我慢は苦手だか」
「仕方ない」
「さて、ここに料理酒〜」
「何!? 酒を入れるのか!?」
「そうだ姫龍。料理酒には臭みを消す効果があるからな。入れとくだけお得だ」
「なるほどな⋯⋯父上が生肉をウイスキーに入れるのと同じやつか⋯⋯」
(それは少し違うような⋯⋯)
「ん? 飼い主よ」
「この肉臭いぞ」
色がつき、火が通り始めた時、獣臭が漂ってきた。
フライパンの上で手を仰ぐ。
「ん⋯⋯ほんとだな。この肉、少し臭いな」
「ほんとデースか!? 消費期限はまだ日にちがありマースよ!?」
「まぁまぁ慌てなさんな。ひき肉を使う上で良く起こることだ。こういう時は出てきた油をキッチンペーパーで吸うんだ」
料理酒が蒸発してきた頃、フライパンを傾けひき肉から出た油を吸う。
「この油を取り除けばかなり匂いが取れるはずだ」
二度三度ペーパーを替え、油を取り除く。
「ん!? 臭いが」
「しなくなってる!」
「それどころかいい匂いが⋯⋯」
「成功だな! ここで味付けだ。塩コショウ! 少しの砂糖! そしてニンニクチューブを少量」
「美味くて!」
「臭い!」
「女の敵で有名なニンニク!」
「そして極めつけはこれ! 皮付き生姜! これをおろし器でそのまま擦る!」
「生姜の」
「いい香り⋯⋯」
「チューブも美味いんだが今回は臭いがキツかったからこっちだ! そして最後に醤油をかける! 肉全体に色付けば完成!」
「うおおお!」
「食わせろ!」
「飯郎よ! 我慢出来ないぞ!」
二頭と一人。二つのしっぽが暴れる。
「ほんとにいいのか? これはまだ途中なんだぞ? 完成してないのを食べて腹を膨れさせて後悔しないか?」
「くっ!」
全員開いていた口を閉じて目を逸らした。
「あと少しだ! それはじゃあ次は卵を割って溶ぐ! 味付けは塩コショウと砂糖を一つまみ程度だ」
「飯郎様よ、それだけなのデース?」
「そうだ。この料理は味の濃い肉をこの卵でサポートするんだ。だからこんぐらいでおっけ!」
洗ったフライパンに油をひき、火は弱火。
「それじゃ卵を入れてすぐ混ぜる!」
「飯郎様これは⋯⋯」
「そうだ。少し前にやったスクランブルエッグみたいなもんだな。ただ、あれと違うのは大きさ。粒の細かいのを目指すんだ」
「トレビア〜ン! まさか飯郎様が卵取り扱いマスター、達人級の技をやろうとしているとは⋯⋯感服です⋯⋯」
「⋯⋯はい?」
「何!? まさか!」
「それほどの!?」
「それが取れれば三ツ星シェフが靴を舐めると噂の⋯⋯」
(え⋯⋯何それ⋯⋯そんな凄い事じゃないけど⋯⋯)
大したことはやってない。それなのに勝手に上がる株。無駄に期待されて、少し手が震える。
「ま、まぁ細かくするので大事なことは、面倒くさがらないでずーっと箸を回すことだ。そうすれば簡単に小さくなる」
「料理長よ⋯⋯飯郎はああ言ってるが⋯⋯」
「姫様⋯⋯そんな簡単に出来るなら、卵取り扱いマスターの資格が一千万人に一人など言われませぬ。飯郎様は我らに教えられない秘密があるのですよ!」
「確かに⋯⋯」
「言われれば⋯⋯」
「そうだな。名だたる料理人達がこの資格に敗れ、散っていった。そう簡単には行かないか⋯⋯」
(この世界の資格どうなってんだよ!?)
あまりに真剣な四人の会話。聞いてるこっちがおかしくなりそうだ。
「さて、そろそろいいだろ〜」
「なぬ!? 目を離した隙に⋯⋯砂粒ぐらい小さくなってるではないか!?」
「大袈裟だな〜多少小さいレベルだ」
「いえいえ飯郎様⋯⋯このサイズ⋯⋯歴代最年少の記録を持つ、卵マスターの神と言われた
【カラ・ハイッチャッタ】より凄い!」
「何!? あまりに凄腕で一分間で片手卵を二十個割れるあの!?」
(凄いけど普通じゃねぇか⋯⋯)
「ま、まさか飼い主が⋯⋯」
「そこまでのレベルだったとは⋯⋯」
「ま、まぁとにかく完成だ。今作った二種類を米の上に乗せる!」
【完成! そぼろ丼!】
「別名、二色丼とも言うな。お前ら二頭にピッタリな料理じゃないか?」
「か、飼い主⋯⋯」
「俺! 感動した!」
大量のよだれと大量の涙を流す二頭。
「飯郎よ⋯⋯お主そこまで⋯⋯」
「す、すみません⋯⋯私、こういうのに弱くて⋯⋯」
何故か姫龍と料理長まで涙を浮かばせる。
「え⋯⋯そこまで⋯⋯?」
全員分よそい、机に皿を並べた。
「いっただきます〜!」
「さぁ! 召し上がれ!」
「兄者よ⋯⋯」
「弟よ⋯⋯」
【いざ! 参る!】
「オウノォォォォオ! 鼻に広がる生姜の風味⋯⋯濃い肉の味付けがご飯をそそる⋯⋯」
「そしてそれを卵が包み込み、濃すぎず、薄すぎず、いいバランスに!」
「あ! 兄者よ! 我は口が止まりませぬ!」
「お、弟よ! 喋る暇がないぜ!」
「今回も成功して良かったぜ〜肉の臭みも上手く消せたみたいだし、味付けもバッチリだ!」
飯郎がよそったスプーンを口に入れようとした時、
「おかわり!」
全員が同時に口を揃えた。
「⋯⋯仕方ねぇか。うし! 頼まれたからには作るのが料理人だろ! じゃんじゃん食え! その分作ってやるから!」
「兄者よ。我はこの人間に着いてきて正解でしたぞ」
「弟よ。我も同じ気持ちだ。先程はお前を否定して悪かったな」
「兄者よ。いいではありませぬか。美味い料理が食えたのです。小さなことなど気にせずに」
「お、弟よ⋯⋯そうだな。それでは我らも」
【おかわり!】




