お前を飼い主にしてやるぞ!
純粋で澄んだ瞳。短いしっぽを振り回して、威風堂々。立派な面持ちでこちらを見る二頭。
「えっと⋯⋯飼い主?」
「そうだ。お前を我らの」
「飼い主にしてやるぞ!」
互いが器用に、代わる代わる話す。
「遠慮しときます⋯⋯」
「そうかそうか。我らの」
「飼い主になる決断をするとは立派⋯⋯」
【え!?】
つぶらな瞳を何度も何度も瞬きして、互いの顔を見合わせた。
「あ、兄者よ⋯⋯私の耳には遠慮すると聞こえたような⋯⋯」
「お、弟よ奇遇だな⋯⋯俺もそのようなことを聞いたような⋯⋯」
本人の前で丸聞こえの会議。
「人間よ! 何が不満なのだ!」
「はっきり言って僕たちは可愛いだろ!」
まさかのそっち路線で。さっきまでの上からの態度は一体⋯⋯
「いやまぁ⋯⋯可愛いけど。俺この城に仕えてる身だし⋯⋯」
「そうか。ならば会いに行こう」
「この城の主の元へ」
「⋯⋯へ?」
◇◇◇
「な、なるほどな⋯⋯それでこの我の所に⋯⋯」
二首ケロベロスを手に抱え、俺は姫龍の部屋まで来た。
「久しぶりだな! 龍の姫よ!」
「世話になってるぞ!」
「う、うむ⋯⋯」
あの姫龍がなんとも言えない表情に⋯⋯
「それでお主らはなんで飯郎に飼われたいのだ? お父様がお世話をしていたのではないのか?」
「まぁ確かに⋯⋯」
「してはいたけど⋯⋯」
◇◇◇
「ふははは! ポメラニアンよ。お前たちは骨が好きと聞いたからな! 全長二十メートルの一生分の骨をやろう! ガーハッハッハッw」
天地が揺れる程の大笑い。地面は揺れ、空は不自然に裂け、太陽と月が同時に見えた。
「あのさ⋯⋯」
「いらない⋯⋯」
二頭の素直な拒絶。それを聞いて高笑いが収まった。天変地異を起こせても小さな子犬の発言に肩を落とした。
「⋯⋯そ、そうか⋯⋯それならこれはどうだ! 犬は肉が好きと聞いている! 八百年程前の、この我が直々に倒したマンモスの肉だ! すこーし腐ってはいるが、それも良いアクセントに!」
◇◇◇
「そんなこんなで毎回」
「変な食事しか貰えなくて⋯⋯」
「その辺の草食べてる方が」
「美味しくて⋯⋯」
二人が口を開く度に静かになるしっぽ。嫌なことを思い出したのか目線がどんどん下がる。
「えっと⋯⋯ち、父上がすまぬな⋯⋯」
「そんな日々が嫌になって」
「逃げ出したんだ⋯⋯」
萎れた花のように、下がるしっぽ。
「ま、まぁそうだな。父上には私から言っとくから飯郎よ、お主が良かったら飼ってくれ」
「んぇ!? いいの?」
「まぁ良いだろ。大雑把な父上が悪い!」
何か姫龍にも思い当たる節がありそうな顔。
「よしわかった! 今日からお前らの飼い主は俺だ!」
抱き抱えてた二頭を持って顔を合わせる。
「飼い主よ!」
「これからよろしく頼む!」
「おう! 任しとけ!(ペットかぁ⋯⋯小さい頃に飼ってたけどそれ以来だな。こいつら喋れるし芸とか覚えるかな?)」
未知の世界で、できたペット。これからの思いに胸が踊る。
「弟よ。今日はとても嬉しい日だな」
「兄者よ。そうでございますな! お陰で漏らしてしまいました」
「ん? 漏らす? そういえばなんだが温かいような⋯⋯」
「いやああぁあ! 嘘でしょ! 私の部屋で漏らさないでよ!」
恐る恐る視線を顔から下に向ける。すると勢い良く、放物線を描く水。
「――クーリングオフって出来る?――」
信じられない光景に思わず現実逃避をしたくなった。
「ちなみに飼い主よ」
「ん? なんだ?」
「飯は一日」
「四十食で頼むぞ!」
「⋯⋯」
期待の眼差しで俺の顔を見る二頭。思わず目を逸らした。
「おい飼い主! 」
「俺らの目を見ろ!」
(飼ったの間違いだったかも⋯⋯)
飼うと発言してから一分間程。もう、後悔し始めている。部屋に響き渡る悲鳴とべろを出してご飯の催促をしている二頭。この全てから目をそらすように目を閉じた。
「いやぁぁああ!!」




